2話 ラストディスカッションー05
「知らないよ!!もう止めてくれ!!そうやってじらすのは!!」
「別に焦らしてる訳じゃないわ。単純に気になっただけ。さっきから貴方、私の他にも操られた人を知っているような、そういう表現が多かったから。………無意識だったの?」
「無意識も何も、僕は本当に貴方以外にはっ!!……………?」
………………………?
おかしいな。
なんだこの違和感。
知っている。
知らないはずなのに。
僕は、千寿さん以外にも、あの本に操られた人間を知っている。
また誰かの【能力】なのだろうか?
記憶を勝手に刷り込むような。
いや、でも、違う気がする。
そうじゃない。僕は確かに………
「知ってるかもしれない………けど。やっぱり知らないかも知れない。」
「煮えきらない答えね。まぁいいわ。じゃあその人の事を教えて。」
「………。」
「どうしたの?ほら、速く教えてよ茉莉君。」
「………貴方は僕を馬鹿にしているんですか?言う訳ないじゃないですか。言えば殺されると分かっているのに。」
「貴方こそ、分かってないんじゃないの?今はもう、取り引きできる状況ですらないでしょ?」
そう言いつつも、少し面白そうに、千寿さんは僕の腕に当ててあった包丁を、わずかに引いた。
落ち着け自分。
本当に本当に、今度ばっかりはミスは許されないぞ。
下で唇を舐めてから僕は言った。
「いえ、取り引きとかそういう事ではなく、本当に思い出せないんです。」
「………」
僕の言葉がそこで終わりではない事を分かっているかのように、沈黙したままの千寿さん。
「………そうですね、あるいは、その【アル・アジフ】に触ってみれば、思い出せるかもしれません。」