10章 暴走する【ちから】 1話 ラストディスカッションー04
もう、駄目なんだろうか。
あきらめたら死んでしまうというこの状況にも拘らず、僕は考えるのが嫌になりそうだった。
何故僕なんだ?
何故僕はこんな場所―――【此処】―――にいるんだ?
何故僕は、【能力】なんて持ってしまったんだろう?
というより、本当に僕に、【能力】なんてあるんだろうか?
そもそも、これは全部夢なんじゃないか?
何故。なんで。僕は。
「……………結局、貴方もそうやって、力にしか興味がないんですね。さんざん偉そうな事を言っておいて、結局目的は、より強力な【能力<ちから>】を得る事。はは、悪い冗談だ。笑顔の仮面?笑わせてくれる!!そんな大層な名前をつけておいて、結局は支配されるのなら、そんなものにはなんの意味もないじゃないか!!」
だからだろう、もう疲れてしまったから、僕は自暴自棄気味に、思った事を叫んだ。
「……………言いたい事はそれで全部?」
笑顔のまま、千寿さんは言う。
その崩れない笑顔が、無性に憎らしくなってくる。
「言いたい事はいくらでもありますよ!!何故結局こうなるのなら、何故希望を抱かせたりしたんですか!!一思いに殺してくれればよかった!!助かるかもしれないという希望だけを抱かせて、見せ掛けだけの優しさをみせて!!偽善ならだれでもできるんですよ!!助かる可能性なんて、最初からなかったんじゃないのか!?最初から貴方は僕を殺すつもりで、その反応を楽しんでいたんじゃないのか!!どうなんだよ!?」
自分でも、支離滅裂になっているのは分かっていたが、一度溢れ出した言葉は止まらなかった。
「……………それは違う。貴方には確かに、助かる可能性があった。」
そこで千寿さんは、少し苦しそうに眉をしかめて続ける。
「そしてその可能性は、少ないながらもまだ―――」
「残っているとでも!?フザケルな!!!もうたくさんだ!!殺すなら早く殺せよ!!もう嫌なんだ!!無駄に希望を持たせて、僕の心をゆさぶって、その苦しそうにしているのもどうせ演技なんだろう!!そうして僕の苦しむ様を見て、楽しもうとしているんだろう!?もういいよ、もう!!僕の心は、そんなに強くないんだ!!僕はもう―――」
「……………。」
「ほら!!何をぼーっと立ってるんだよ!!一思いにさしてくれ!!その包丁で!!それで満足すればいい!!その新たに手に入れた【能力】で、【此処】を出て行くつもりなんだろう!!どうせみんなそうなんだ!!」
相変わらず無言のままだったが、やがて千寿さんは、ゆらゆらと僕の腕に包丁を当てた。
「……………。」
「そうだ!!早く刺せよ!!」
「……………その前に一つだけ、どうしても気になる事があるんだけど。……………貴方は私以外に、この本に取り付かれた人間を、知っているの?」