※30話 定期外報告ー04
「………どうしたんだい?何か言いたい事があるなら、聞いてあげるよ?」
男は、耳に障る猫撫で声で、私に話しかけてくる。
本当に耳障りな声だ。
何故私は、こんな男に従わなくてはならないのだろう。
………否。理由は分かっているのだ。
理性では分かっているのだが、感情を押し殺すのが、だんだん難しくなってきている。
どうせ今回のこの申し出も、私の話を【聞く】というのは、ただそれだけの事で。
聞くだけ聞いて、何もしないのだろう。
だから、この男に話した所で、何の意味もない。
と、分かってはいるのだが、ほぼ無いに等しい確立に期待を込めて、私は質問していた。
「………やはり、助けた方がいいのでは無いですか?」
電話の向こうで笑い声が聞こえた。
幾分真剣になった声で、男が聞く。
「ク、理由は?」
「このままではまず間違いなく【茉莉】は死にます。」
「くどいね、君も。そんな事はどうだっていいと、さっきも言っただろう。」
「ですが―――」
反論しようとした私の言葉を遮って、男は続ける。
「それにね、君が思っている程、彼は弱くないかもしれない。もしかしたら、意外とどうにかするんじゃないかなぁ?」
どの口がそんな事を言うんだ。
「【アル・アジフ】相手に、それは無理でしょう。現在操っている【千寿】も、それほど意思が強いとは思えません。おそらく今頃は、完全に操られてしまっていると思われます。」
「なら聞くけど、君がその場に行って何が変わる?」
「それは。」
「何も変わらないだろう?君の【能力】が【アル・アジフ】に及ばないのは、奇しくも先ほど証明されたばかりだからね。」
「………ですが、このまま放っておくというのは。」
「それにね、さっきから君の言い分を聞いていると、まるで自分は全く悪くないと思っているように聞こえるんだが?」
「………。」
「そもそも、君の【能力】がもっと強ければ、【茉莉】達を見失う事はなかったんじゃないか?」
「………。」
急に猫撫で声にもどって、男は続けた。
「だからね、放っておくといいよ。」
私は――――――




