28話 ラストディスカッションー02
「目的?目的は………」
少しの沈黙。数秒考えた後、千寿さんは言葉を続けた。
「目的は、そうねぇ。より、強い【能力】を手に入れる事かな。」
より強い【能力】を手に入れる?
それはつまり、より強い力を手に入れたいという事で。
そんなのは、【アル・アジフ】によって後付された理由でしかない。
そうじゃなく、僕が聞きたいのは―――
「千寿さん、違います。僕が聞きたいのは、その本を持つ前の貴方の答えです。」
「……………。」
「そもそも貴方は何のために【此処】に居るんですか?」
聞いてから、その質問は、千寿さんに対するものであるのと同時に、自分に対してのものでもある事に気づいた。
そうだ。
僕は何の為に【此処】に居るんだろう。
考えても、簡単に答えは見つかりそうになかった。
「―――貴方が、それを聞くのね。」
視線を、僕の背後に置きながら、千寿さんがつぶやくように言った。
僕が聞く事に、何か特別な意味があるような言い方だった。
「どういう意味ですか?」
「いい意味でも悪い意味でも、この状況を変えられるのは、貴方しかいないわ。」
千寿さんは僕が質問した事とは、ずれた答えを寄越す。
「だからそれは、どういう意味ですか?」
「………もうそろそろいいかしら。生贄になってもらうわ。」
「質問に答えて下さい。」
「……いいわ。答えてあげる。私が【此処】にいるのは、貴方を殺すためよ。」
答えて欲しいのは、その質問じゃなかったのだが。
それに、そんな答えなら、必要なかった。
千寿さんの手に、いつの間にか握られていた肉切り包丁が、怪しく光った気がした。