6話 奇妙な図書館ー02
巨大な骨の向かい側には、数え切れない程の本が、無造作に詰め込まれている。もしコレが無ければ、ここが図書館だと言われても、僕は最後まで納得しなかっただろう。
「さ、いい加減進もうか茉莉君。どうしても【微妙に落とし穴】が心配なら、私が先導してあげてもいいが。」
「いや、それはいいよ。じゃあ行こうか栞。」
後から馬鹿にされる気がするので、ここは意地でも僕が先に進む事にする。
およそ本を読む場所とは思えない明るさの通路―――骨と本で囲まれたその微妙な空間は、もう通路というべきだろう―――が、延々と続いている。
暗くなっていて、通路の終わりが見えない。断定するべきではないのだが、亜空とかいう人の【能力】はとても強そうだ。
慎重に辺りを―――主に下のほうを―――見回しながら、ゆっくりと進む。
「なかなか面白いものを見させてもらいました。」
「いえぇ!!」
急に横から声をかけられ、思わず変な声を出して飛び上がってしまう。
そんな僕を見てやはりくすくす笑いながら、栞は声の主に声をかける。
「頴娃君、何で君は、いつもそんな変な場所にいるんだい?」
「変な場所とは酷いですね。僕のこの神聖な図書館を」
「いや、そっちじゃないよ。………………やれやれ、分かっててボケる人が多いよなぁ、【此処】には。」
「まぁまぁ、少しも面白みのない会話よりマシじゃないですか。会話というのは、楽しんでするべきだと僕は思いますよ。さて、何故この場所にいるのかという事ですが、今ちょうどこの辺りの整頓をしていた所なんですよ。」
と言う黒マントの少年の周りは、他の場所よりもさらに煩雑としている。本当に掃除していたのか疑わしい所だが、初対面でそんな事を言うのもどうだろうと思い、もう少し二人の会話を静観する事にする。
「ふん。掃除、ねぇ。むしろ散らかしているようにしか見えないね。」
「あはは。まあそうでしょうね。千鶴子さんに言われて、最初はその気まんまんだったんですが、どんどん面白い本が出てくるんですよね、これが。」
「最初から掃除なんてするつもりなかったんだろう?」
「ふふ、そこら辺はご想像にお任せします。…………そんな事より、そこの、えーと、そうだ、茉莉さんを紹介して頂きたいのですが。」
「相変わらずいい記憶力をしているね。それとも、【能力】を使ったのかい?」
「いえいえ、コレは僕の純粋な記憶力です。そんなに易々と使ったりしませんよ。貴方も苦手でしょう?僕のこの【能力】。」
「まあね。……………茉莉君!!ほら、彼が頴娃君だよ。」
「よろしく、頴娃くん」
握手のために手を前に出しながら、頴娃君をもう一度見る。
それにしても黒いなぁ。全体的に。
上下をスッとした黒のスーツ―――いや、よく見ると学生服のようにも見えるな―――で決め、その上から、これも黒のマントを羽織っている。
黒縁の眼鏡が―――よっぽど黒が好きなのかな―――よく似合っている。
一概には言えないが、身長から推察される年は、あきらかに十代前半だ。僕より3〜4才くらい下だろうか。
「こちらこそよろしくお願いします、茉莉さん。」
握手に応じながら、頴娃君がクリクリした瞳で覗きこんでくる。
「ふむふむ。ん?………これは。」
何だ?………なにか、心の底まで………見透かされてるような………
「栞さん、彼、結構カンがいいですね。朧げながら気付いているみたいですよ」