21話 タロットカード
「あなたは、タロットカードと言えば、何を思いつくかしら?」
「思いつく?思いつくと言うのは―――」
駄目だ、余計な事を聞く事は出来ない。
とりあえず思いついた事を言おう。
「―――そう、です、ね。………塔とか、女教皇とか、太陽とか、カードの絵柄によって、色んな種類があって、そしてその向きによって、正位置と逆位置に分かれる、んだったと思います。」
「じゃあ、アルカナっていうのは聞いた事がある?」
「アルカナ?」
「アルカナっていうのは、ラテン語で「秘密」とか、「神秘」とかを意味する言葉よ。まぁ昔は、「切り札」って意味だったみたいだけどね。」
「切り札、ですか?」
「そう、勘違いしている人が多いみたいだけど、もともとタロットカードは、遊戯の一種なのよ。トランプみたいなね。」
「それは知りませんでした。」
「まぁ知らないのも無理はないわ。私だって、こんな【能力】を得なかったら、知らなかった知識だもの。あ、そうそう、トランプのカードも、もともとはタロットカードの一種なのよ。」
脇道にそれそうなので、この話に乗っていくのは嫌だったが、千寿さんの機嫌を損ねる事の方が、今の僕には恐ろしい事だったので、素直に話しに乗っていく事にする。
「トランプが?」
「そうよ。タロットカードっていうのは、小アルカナと、大アルカナに分かれているの。」
話している内に楽しくなってきたのか、彼女の舌は止まらない。
僕としては頂けない雰囲気になりつつあった。
「これも知らない人が多いんだけど、タロットカードは、全部で78枚から成るの。大アルカナが22枚に、小アルカナが56枚。」
「………そんなに種類ありましたか、絵柄の?」
「ちゃんと話を聞いていて欲しいわ。だから、トランプが小アルカナなのよ。」
「………でも、トランプは52枚じゃないですか。ジョーカーを入れても53枚にしかならない。」
「小アルカナにはペイジがあるの。」
「ペイジ?」
さっきからオウム返しが増えている。
まぁ、全く知らないから、どうにもならないんだけど。
「そうよ、トランプのクラブに当たるワンド、スペードに当たるソード、ハートに当たるカップ、ダイヤに当たるコインがまず有って、それぞれに1〜10、ナイト、クイーン、キング、そしてペイジがあるのよ。」
「絵柄的なものなんですか?」
「ええ、トランプでは使われていないけど、ペイジは小姓って意味ね。」
「はあ。」
それがどうしたんだ、と思った。
もちろん口には出さないけれど。
千寿さんは、少し興奮してきたようで、気持ち良さそうに喋り続ける。
「タロットカードは、それプラス、大アルカナの、22枚で構成されているわ。そして―――」
話について行けず、どこか気が抜けていた僕の心を、彼女の次の言葉が、貫いた。
「―――貴方には、その大アルカナを作る為の、生贄になってもらう。」
まだ彼女の笑顔は崩れていないが、その言葉を言った時の彼女が、僕は本当に怖かった。
笑顔が怖いと思ったのは、始めてだった。