17話 笑顔のペルソナー01
そんな事を言ったって。
知らないものはしょうが―――なくないのか。
しょうがなくない。
そうだ。
考えればいい。
分からない事は、考えればいい。
そんな当たり前の事を、どうしてか僕は失念していた。
笑うというのは、つまり、
「どんな時でも、できるという事ですか。」
微妙にほほの端を吊り上げて、千寿さんが問うてくる。
【アル・アジフ】は、仄かな明かりを灯しただけだった。
「どういう事、かしら?」
「つまり、他の感情よりも、汎用度が高いんじゃないですか?他の感情は、―――怒り泣きなんかの例外もありますが―――そんなに自由に扱えないと思います。」
「まぁ、大方それで正解。大分、頭が回ってきたみたいね。」
「おかげさまで。」
皮肉を言えるようになれば上等だわ、とつぶやくと、千寿さんはさらに質問をして来た。
「さて、じゃあなんで私は、ずっと笑っているのかしら?」
僕との会話が楽しいから、ではもちろん無いだろう。
そうだったら、平和的でいいのだけれど。
悲しい時にも、怒っている時にも、もちろん楽しい時にも、笑顔を作る事は出来る。
つまり―――
「感情を、抑えているんですか?あるいは閉じ込めている?」
笑顔を崩さないまま、千寿さんは満足そうに大きく頷くと、言った。
「そう、私は【笑顔】でこの本の【能力<ちから>】を抑えているの。感情がむき出しになればなるほど、この本の圧倒的な【能力】に押し流されてしまうから。」