5話 奇妙な図書館ー01
何度見ても、変な雰囲気のする部屋だなぁ。
僕は一通り視線を巡らせた後、もう少し詳しく各部分を見ていく事にした。
まず、僕たちが入って来たドア部分。
入る時は何の変哲もないものだったが、こちら側から見ると、そのドアもまた、この怪しげな雰囲気を作るのに一役買っていた。
栞の体の横から覗く漆黒のドアは、この部屋から去るものを、威圧し、拒んでいるかのようだ。
さらに、5本の赤い縦筋が刻まれている。規則性のないその赤い線は、流れる血を想起させて、嫌な感じを受ける。
何より、開く時の音は、引き戸にもかかわらず、ギギギ、だから困ったものである。油を塗るなり何なりすればいいのに。
少し訝しげな目を向けてくる栞に、あいまいな笑みを返し、僕は視線を右に転じた。
「…………………うーむ。」
何だろうかコレは。とても大きくて、白くて、細長い………コレは?
見る。
眺める。
見る。
………うーん。一向に何なのか分からない。
「それがよっぽど気になるみたいだね、茉莉君?」
「ん?うん。まぁね。」
「それを見る時はね、もう少し広い視点で見てみるといい。」
「広い視点………ねぇ。」
一歩二歩と後ろに下がる。ん?コレは。
「っっわぁ!!」
ガクン、と、またしても唐突に沈み込む僕の足。
「あはははは、もう!!君はどれだけ私を笑わせたら気が済むんだい?」
やはり彼女の笑いのツボがよくわからない。
「うわわわわ。さ、さっきのより沈む気がするんだけど?」
「そうだねぇ。ふふ。」
さらにさらに沈んでいく僕の足。
「ちょ、ちょっと不味くないかな、コレ。」
「ああ、不味いね。そこの【微妙に落とし穴】は、底がないから。」
マジで!?
「えええ!!ちょ、ちょっと栞!!見てないで助けてよ!!」
「うふふふふ。どうしようかなぁ。」
「えええ、んな、ちょっとっ!!助けてっ!!!」
「ふふふふふ。あっはっはっはっはっはっは!!」
栞がついに爆笑し始めた。時を同じくして、ゆるやかな下降も停止した。
うおぉぉぉぉ、恥ずかしい!!
僕の今までの人生で、一番恥ずかしいかもしれない。この年になって、本気で助けを求めてしまうとは。
く、この恨み、晴らさでおくべきか。
そんな僕に、まだ笑いの収まらない栞が、話かけてきた。
「あは、まぁそんなに睨まないでくれよ、茉莉君。私のアドバイスのお陰で、アレが何かは分かったんだろう?」
確かにそれはそうなのである。
僕はもやもやした気持を抱えたまま、もう一度壁を見上げた。
それは圧倒的な大きさの、骨だった。
それにしても、こんな大きさの動物がいただろうか?
いや……まさか………これは………
「これは………恐竜の………」
「そうだ。そしてこの骨は本物だよ。」
「本物!?何でこんな所に………」
「ま、それを気にしたら負けだ。」
うーん、何が?具体的にどの変が負けなのだろうか。
…………というか、それは一旦置いておこう。それよりも気になる事がある。
むしろ、何故今まで気づかなかったのか不思議なくらいだ。
「何か、天井の高さが…………いや、部屋の広さが………おかしくない?」
「気付いたか。面倒臭いからもう少し後で説明するつもりだったんだけどね。………これは、亜空【あくう】君の【能力】だよ。口で説明しても理解しづらいだろうから、詳しくは実際に会ってからにしようか。」