16話 何を信じるかー02
千寿さんが心配そうな顔をした瞬間に、またも【アル・アジフ】が鈍い光を放つ。
僕は、無意識に少し身構えてしまう。
何でだろう。何故僕は、そこまであの本を警戒してしまうんだろう。
「ねぇ?茉莉君。」
すぐに元の笑顔に戻り、千寿さんが問いかけて来る。
そして笑顔が作り物めいたものに戻ると同時に、やはり本も輝きを失う。
「これは結構ありがちな質問なんだけど、動物の中で、人間だけが唯一する事ができる感情表現って、何か知ってる?」
聞いた事がある。というか、読んだ事がある。それもつい最近。
○○に借りた小説の、
ちょっとシリアスな場面で出てきたそれは、確か。
「笑い、ですか?」
「そうよ。やっぱり知ってたのね。茉莉君は、そういう事を知っていそうな気がしたの。」
「たまたま、ですけどね。」
そう、たまたま、その小説を読んでいただけだ。
千寿さんは、たまたまでも、知っているという事が大事なのよとつぶやいて続ける。
「――他の動物が、嬉しそうな顔をしていても、それは決して、本当に楽しい訳ではない、とそう言われているわね。」
それも書いてあった。
そして僕が読んだその小説では、笑うという行為は、人間だけに許された高尚な行為だ、という風に続いたと記憶している。
「そして、笑うという行為には、もう一つ特徴があるんだけど、何かわかる?」
「特徴?」
「そう、他の表情―――感情―――には無い、特徴。」
他の表情には無い特徴?そんなものがあるのか?
「なんなんですか?特徴って。」
僕がそういうと、千寿さんは呆れた様な顔をする。
【アル・アジフ】が強く光を放つ。
直ぐに笑顔に戻った千寿さんは続けた。
「私をあまり失望させないで。貴方はそんなに頭が悪くない筈よ。そうやって直ぐに答えを求めていては、頭がどんどん鈍っていくわ。」