13話 ほんとうにだいじょうぶ?
「……………何も……なかった?」
戸惑いながらも、どうにかこうにか声を絞り出す。
「そうよ。」
眩しいばかりの笑顔で言う千寿さん。
その笑顔が作り物なのか、
それとも本物の笑顔なのか、
僕はいまいち判断する事が出来なかった。
「……………あのですね、うーん―――」
どう、言ったものか。
間違っても、下手な物言いは出来ないからなぁ。
「―――ここまで、僕を運んで来てくれたのは、貴方、なんですか?」
「そうよ。」
ニコニコしながら言う千寿さん。
即答だった。
それは。
それを認めるという事は、僕を拘束しているのは、千寿さんの意思、という事になるのだが。
またしても背中を、嫌な汗が伝った。
どのタイミングで、この拘束について切り出すべきなのだろうか。
「どうしたの、茉莉君?やっぱりなんだか顔色が悪いわよ?頭は?背中は?痛い所は無いの?」
「いえ、あの、だ、大丈夫、です。」
何だか調子が狂う。
さっきまでの、完全に自我を失った感じでもなく、
かといっていつもの千寿さんからは程遠い。
「本当に?違和感を感じる部分も無い?体は万全の状態なの?」
「ええ、…………一応。」
強いて言えば、縛られてる部分が擦れて痛いが。
「本当に?本当に大丈夫なのね?」
「……………。……………ええ。」
答えながら、さすがに僕は、少し違和感を感じた。
どうやら千寿さんのそれは、ただ僕を心配しての事では無いようだ。
「そう。じゃあ。体の調子は。いいのね?少なくとも。悪くはない?」
僕の答えに満足したように、千寿さんは大きく頷くと、それまでとは微妙に異なる笑みを浮かべた。