11話 おはよう
疲れた。
この拘束からどうにかして逃れようと、考え付く限りあらゆる努力をしてみたが、それは全て無駄に終わってしまった。
「……………。」
落ち着け。
まだあきらめるのは早い。
本当に他に方法がないか、もう一度考え直してみよう。
まず、力任せ。
これはまぁ無理だな。さっきから散々試してるし、紐が解ける気配もない。
次に、刃物のようなものを持っていないか。
なんだけど、これは考えてもあんまり意味ないかもな。
そもそも両手両足ともに、ほとんど動かすことが出来ないんだから。
それに、ポケットに何かを入れた記憶もない。
縄抜けのような事も………出来る訳がないし。
助けを呼ぶ手段………なんかある訳がない。
んー、やっぱりどうしようもない………気がする。
他に思い付く手段で、まだ現実的と言えそうなのは、僕を縛りつけた人間を、説得する事、なんだけど………。
「……………誰か、いる、のか!?」
控えめに、呼び掛けてみた。
呼び掛けた後、少し馬鹿馬鹿しくなった。
あれだけガタガタと騒がしかったのだ。
誰かいるのなら、とっくに気付いている筈だろう。
「……………ふぅ。」
小さく溜め息をつくと、僕はこの、ほとんど何もない部屋を、見える範囲で見回した。
「っっっっっぅわぁ!!!!」
そして僕はまた気絶しそうになった。
「おはよう、茉莉君。」
さっきまで何も無かった位置に、音も無く、いつの間にか千寿さんが佇んでいた。
にこやかな笑みを浮かべ、左手には【アル・アジフ】を大事そうに抱えている。
さわやかな笑みを向ける千寿さんに、僕はいいしれない恐怖を覚えてしまっていた。