7話 亀裂
「うふ、うふふ、あは。知らないわ。そんなの。朝目が覚めたら、枕元に有ったんだもの。私の元にコレがあるのは、だからある意味必然。つまりこれはもう私のもの。」
どういう理屈だよ。
本自体が意思を持って、千寿さんの元へと歩いて来たみたいな言い方だな。
サンタさんが来る時期でもなし、普通は、もう少し本の出所が気になると思うんだけど。
どこから誰が何の為に持って来たのか、とか。
まぁ、誰かからのプレゼントと解釈したのかもしれないな。
―――それよりも。
そんな事よりも、何かが頭に引っ掛かる。
それが何かは分からないけれど。
「ちょっと、何よそのガキ大将みたいな言い分は!!私がそれを見つけるのにどれだけ苦労したと思ってるの!!」
声を荒げる千鶴子さん。
怒るとまではいかないまでも、少し気分を害しているようだ。
「うふふ。知らないわ。知る訳もない。だってこれはもう私のもの。私の所有物。私のもとに至る経緯なんて、知らないし、知りたくも無い。」
何も無い場所をじっ、と見つめながら、千寿さんが言う。
嫌な予感が、強くなった。
早くなんとかしなければ、と思うものの、何をどうすればいいのか、分からない。
掴みかけては、その度に零れていく。
思考が空回りしているような、そんな気がした。
「そんな理屈は通らないわ!!返して!!それは私が頴娃君のために見つけてあげた本なんだから!!」
―――まただ。
千鶴子さんが言った何かが、引っ掛かる。
それが何かは、やはり分からない。
「あは。返さない。だってこれは私のだから。」
「だから……!!千寿!?あんまりふざけてると、私怒るわよ!!」
いつもどこか飄々としている千鶴子さんが、ここまで感情をムキ出しにしているのを、僕は始めて見た。
二人を止めなければ、と思うのだが、信じられないくらい頭が痛い。
燃えるような痛みで、そのまま何も考えられなくなりそうになる。
「あっは。面白いわ。それは面白い。怒ってみてよ。怒ってみれば。怒ってみた時。私は怒った。あはははは。あはははははは。ああおかしい。」
「何がおかしいのよっ!!!」
ヒートアップしていく二人を、止めることさえ出来ない自分が、とてもとても腹立たしかった。