4話 図書館の支配者ー04
およそ見た目からは想像もできない、ギギギという音を立てながら、―――こんな表現を使うなんて、自分でもどうかと思うが―――嫌そうにドアは開いていった。
ぇぇぇ、ここ本当に図書館か?
入って5秒と立っていないが、僕はこの一応【図書館】という呼称があるらしい部屋から出て行きたくなってきた。
回れ右をして出て行こうとしたが、後ろは栞がしっかりと塞いでいる。塞いでいるばかりか、
「ふふふ、どうしたんだい茉莉君。速く前に進みたまえよ。」
とか言いながら、ぐいぐいと後ろから押してくる。
もしかして楽しんでないか?コイツ。
やれやれ仕方ない。覚悟を決めて進むか。
「うおぅっ!!」
一歩目を踏み出したその床が、ぐにゃんと沈みこんだ。
見た感じ、なんてことない普通の床にしか見えないのに、こんにゃくを素足で踏み潰したような奇妙な感触とともに、僕の足は5cmばかり沈んだ。さらに力を込めれば、それに比例してその分沈みそうな感じだ。
「あはは。ほらほら速く進みなよ。」
「えーと、栞?何か床が沈むんだけど。」
「っくくく。うん。だから?」
栞は腹を抱えてくすくすと笑っている。さっきまであんなに塞いでいた人間とは思えない。
「だから………とりあえず………そうだな。何で床沈むのかを聞いてもいい?」
「まあ、そのくらいは教えてあげようか。それは、【微妙に落とし穴】だよ。」
目じりの涙を拭いながら栞が言う。
というか、そんなには面白くないでしょ、今の。栞の笑いのツボがよくわからない。
「微妙に?」
「そう、微妙に。そのまま進んでいくと、ずぶりずぶりと沈んでいき、その深さは最終的に、落とし穴にかかった人間の、腰骨の上30cmにまで達する。」
「ん、んん?」
何だその反応に困る落とし穴は。
「だから、左右どちらかに避けて進むといい。その落とし穴が有効な範囲は見た目より相当狭いから。」
「…………………もしかして、その何とか落とし穴を作るのが、その頴娃とかいう人の能力?」
それを聞いた栞が、あきれた顔で言う。
「そんな訳ないだろう。
そんなちゃっちぃ能力の人間は【此処】にはいないよ。それに、それだと【図書館の支配者】という名前に、欠片も関係ないじゃないか。
その【微妙に落とし穴】は、鞘香【さやか】君が、趣味で作ったものだよ。…………そうだな、君が混乱するといけないから、鞘香君の紹介は、実際に会った時にするとしようか。」
また新しい名前が出てきたか。何か少し疲れてきたなぁ。
「うん………まあ………いいんだけどね。」
「だからほら、左右に避けて速く進みたまえ茉莉君。」
栞にそう急かされたものの、とても直ぐに進むつもりにもなれず、僕はあらためて辺りを見回した。