2話 事象確定ー01
「………とりあえず、部屋、出ない?」
「え、何で?まだ何の用も済ましてないじゃん。」
「うん、そうなんだけど、凄く嫌な予感がするんだ。」
「シックスセンスってやつ?いつの間にそんな物を身につけたの?」
「そういう物を身につけた覚えはなかったんだけど。とにかくココは、この部屋には、これ以上居ちゃいけない気がする。」
「ふぅん、君がそこまで言うのなら、そうなのかもね。」
自分でも、千寿さんに対して、失礼な振る舞いをしているのは把握しているが、それよりなにより、今はこの部屋から出たかった。
それが何故なのか、自分でもよく分からないけど。
「うふ。うふふ。無駄よ。うふふ。」
いつもと全く様子の違う千寿さんの手には、見覚えのある本が有った。
ん?何で僕はアレに見覚えがあるんだ?
いや、そんな事はどうでもいい。とりあえずこの部屋を出ないと。
何処か悲壮な思いとともに振り向いた僕の目の前に、出口のドアは無かった。
ドアと僕らの間には、いつの間にかもの凄いスペースが広がっていた。
何だ?何でこんな。この部屋にも亜空の【能力】が広がっているのか?
「うふ、だから無駄って言ったじゃない。」
千寿さんの様子があきらかにおかしいが、今はそれの確認よりも、部屋を出る事を優先する。
「千鶴子さん!!早く杖で!!」
千鶴子さんが杖を軽く振ると、僕らはドアの手前へと、一瞬にして移動した。
凄いな、千鶴子さん。さっき使い始めたばっかりなのに、もう杖はお手のものだな。
背後から、少し驚いたような、それでいて落ち着き払った声が聞こえてくる。
「あら、そんなものが有ったの。でも、うふふ、無駄よ。そのドアの鍵は―――」
急いでドアに左手を添え、一気に引いたが、ドアはびくともしなかった。
「―――掛かっている事にしたから。」
内鍵を外そうとしたが、こちらもびくともしなかった。
こうして僕らは、宣託するようなその声の主と、向き合うしか無くなった。