2話 図書館の支配者ー02
「あら!!ねえ凄いわよ栞!!この体とっても動かし易いわ!!」
女口調で喋る男の声が聞こえる。誰だろう。
「いやぁ、千鶴子。動かし易いとしても、それはさすがに戴けないな。」
「あら、そうかしら。逆になかなかイケると思わない?」
これは。………うう、頭が痛い。
「【逆に】って言ってる時点ですでに駄目だと思うよ。」
「ん、そうかしら?そうね。じゃあ、逆の逆にイケてると思わない?思うでしょ。」
「何だか自信満々だけど、まさかそれで何かの解決が得られるなんて、思っていないよね?」
「お、思ってる訳ないでしょ。」
そうか。少し分かってきた。これは。今喋ってる女口調の男は、僕だ。
「そういう時はね、言葉を詰まらせない事が肝要だよ。」
「そんな事より、どう?この子。えーと、名前はなんだったかしら?」
「茉莉君だよ。なかなかシャレてていい名前だね。」
そういう事なら、さっきの栞の不可解な行動は。そして今の僕の状態は。
「そうね。確かそんな名前だったわね。で、どうなの彼は?面白い?」
「まぁ、それなりにね。…………………それより、そろそろ体を動かせるんじゃないかい?茉莉君。」
栞に言われて、体を動かしてみる。指先がぴくりと動いたが、やはり体は自由に動かせなかった。
「駄目みたいだ。…………ん?」
喋る事が出来た。なるほど、まだ殆ど分からないが、千鶴子さんの能力を、少しだけ把握した。
「あら?もう声が出せるの?つまらないわねぇ。栞にしろ、茉莉君、だったかしら?にしろ、抵抗力が高すぎるわよ?」
「というか、君の能力が弱って来てるんじゃないかい?千鶴子君。」
「んーそうかなぁ?そんな感覚はないんだけどなぁ。」
「まぁ、【能力】についてはまだまだ分からない点の方が多いからね。」
「うわぁ!!!」
何だか背筋が非常にむずむずしてきた。痒いというか、何というか、これは堪らない。
「ちょちょちょ、ちょっと千鶴子さん、何をどうしているのか分からないけど、そろそろ止めてくれ!!」
「え〜、どうして?」
「か、体が!!ムズムズして!!」
僕がそういうと、急に千鶴子さんはテンションを上げて聞いてきた。
「え!?何処が!?体の何処が!?」
横から眺めていた栞が、若干あきれた声で言う。
「千鶴子君。毎回思うんだが、その問いかけは明らかにセクハラだよ?」
「いいじゃない。この時の反応が私の楽しみなんだから。」
「………楽しみか。楽しみとは、それはまた微妙な。」
「うわぁぁぁぁぁ!!ちょっとちょっと!!そんなのどうでもいいからもう止めてくれ!!」
「だ・か・らぁ、体のど・こ・がムズムズするのか言ってよ。」
「君の能力っ!!なんだからっ!!そんなのっ!!分かってるっ!!だろっ!?背中だよっ!!背中っ!!だから早くっ!!」
「ああ、君は背中なのね、人によって違うのよ、ムズムズする部位が。ちなみに栞は………」
「千鶴子君!!!!そろそろ出て行ってあげなよ!!」
「あらあら、……………そんな怖い顔しないで欲しいわ。それじゃ、また後でね、茉莉君。栞ちゃん。」