3話 認識ー03
ああそうだ、忘れる所だった。
図書館から運んでもらったお礼を言わないと。
栞の口振りでは、直接運んでくれたのは、千鶴子さんと栞みたいだけど、まぁそんなのは関係ない。
「昨日はありがとう。」
「―――?」
語尾を延ばしたまま固まるフォリス。器用な奴だ。
「図書館から運んでくれたんでしょ?助かったよ。」
「あ、ああそうね、そういう事もあったわね、でもそれは栞と千鶴子がやった事だから私には関係ないのよ、つまりそのお礼は―――」
「そんなの関係ないよ、ありがとう、フォリス。」
「え?え、ええ、いいのよ別に…………」
そういって、珍しい事にフォリスは言葉をとぎらせた。
……………運ぶと言えば、昨日何かそういう事について考えたような気がするな。
一人では運べない、とか何とか。
確か二階の鍵が掛かってる部屋の事だな。
その中の千鶴子さんを誰が運んだかって問題だ。
千鶴子さんいわく、そういうプレイらしいけど、鍵の問題からして、それはまず無いだろう。
と、いうような事を、○○と二人で話したんだよな。
…………………ん?………………誰……………だった?
………誰と、話した?
ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな。
忘れる筈がないんだ。忘れる筈が。
思い出せ、思い出せ、思い出せ。
――――――英知だ。
そうだ、英知だ。
よかった。覚えていた。
………………何故僕は、こんなあたり前の事を、わざわざ思い出さなくてはならないのだろう。