21話 見たモノ、見ているモノー03
「…………」
話がそれでひと段落したのは、雰囲気から何となく分かった。
が、僕は、その後に続けるべき言葉を、すぐには見つける事ができなかった。
疲れた顔のままだが、英知は、話を逸らすかのように続けた。
「………。………ああ、そういえば、屋上に向かう途中で、電話を見つけたんだ。」
下手に慰めるのも違うと思うし、もし続きを話すのなら、自分のタイミングで話したいだろう。
僕は、その逸らした話に、意図的に乗る事にした。
「電話?」
「あぁ、2階に有ったんだけど。…………ただ、その部屋、前に―――というか今日だけど―――見た時は、電話なんて無かった筈なんだけどな。お前も一緒にいただろ?」
そこでそう聞くという事は、昼間に鞘香さんを探して巡った部屋の一つに有ったという事だろう。
確かに、そんな物は見なかった。
「単に俺たちが見落としてただけなのか?それとも…………」
「その電話って、隠されていたの?」
「いや、全然普通に置いてあった。屋上に向かうときに、通り過ぎる時に覗いたら見えたくらいだから。」
「それなら尚更、二人とも見逃すなんて事があるかな?」
「それなんだよな、俺一人だったら、見落としの可能性も考えれるんだけど、流石に二人して見落とすのは考えにくいんだよな。」
見落とす。
あるいは忘れる。
そうか、それは、もしかすると。
図書館でのモヤモヤについて考えていた僕は、その考えに容易にたどり着いた。
「………もしかして、見えなかったんじゃない?」
「見えなかった?そんな訳が…………いや、もしかするとソレも鞘香の【作品】か?」
「いや、それもあるかもしれないけど、僕がいいたかったのはつまり…………その部屋って、千鶴子さんを見つける前に調べた部屋じゃないの?」
「えーと、あの部屋は…………ああ行ってこう、探したんだから…………ああ、そうだけど。それがどうか…………そうか!!」
「うん。僕たちって、千鶴子さんと話すまで、【此処】には電話なんて無いものとして、決め付けてたよね。」