序ー01
「ねぇ茉莉君。一つ君に相談があるのだが。」
今日も彼女は、そうやって話を始める。
いつだって、彼女と僕の会話は、その言葉で始まった。
始めの内は、煩わしく感じたが、今ではこの予定調和が、非常に心地よくなっている。
狂わない事は大事なことだ。
狂わないということは、
正常であり続けるという事で、
変わらないという事だから―――
「聞いてくれるかい?」
やはりいつもと同じように、彼女は言葉を続けた。
いつもの場所で、
いつものように、
いつもの口調で。
この変わらない世界を、僕も彼女も愛しているのだ。
僕らの世界は、
昨日と同じように今日へ。
今日と同じように明日へ。
いつまでも、いつまでも。続いていくと思っていた。
そんな筈はないのに。
でも僕は信じたかったのだ。この狂った世界にも、変わらぬ事が確かにあるのだと。
彼女は優しく僕に微笑んでいた。
僕の答えを待っている。答えは聞かなくても分かっているだろうに。それでも待ってくれている。昨日と同じように。
そうして僕は、昨日と同じように、いいよ、と答えた。もう幾度となく繰り返された、法則にしたがって。
それなのに。彼女は、
いつもと変わらぬ表情で、
いつもと変わらぬ口調で、
いつもと変わらぬ抑揚で、
まるで呼吸をするかのような自然さで、
いつもと違う事を言った。
「あのね、一回死んでみようと思うんだ。」