4話「4月29日、水曜日」
小さな豆知識その5
白澤 美海は、胸が小さいことをかなり気にしている。かなり。
雨だった。自室から見える景色は激しい雨ではなかったけれど、間違いなく傘は必要なくらいの本降り。外に出るのは躊躇われる。
今日は、空ちゃんを家に招待した。約束した時には迎えに行く、と言ったのだけれど、断られてしまった。私の家は解るとのこと。豪邸ではないけれど、他の家と比べたら大きいものね。
私は携帯を開き、天気予報を調べる。今日は日中雨が降るらしく、夜には止むとのこと。じゃあ、あの子は雨の中を来なきゃ行けないわけね……。
今の時間は午前10時。空ちゃんとの約束の時間までは30分の間がある。何か、やっておくべきことは無かったかしら。
基本的に家の掃除はメイド達が普段からしているし、今日の昼食は空ちゃんの分も用意するように言ってある。他には……1つあったわね。
私は自室を出て、隣の部屋へ。隣の部屋は、美海の部屋として割り当てられている。それでも、使っていない部屋がまだいくつか残るのだけれど。両親が使っていた部屋とか。
ノックをして、少し待ってみるものの応答が無い。おかしいわね、美海は今日は休みだと言っていたから部屋にいると思ったのだけれど。
寝ているのかもしれない。まあ、いいわ。携帯に一言入れておきましょう。私は、美海の携帯に『今日は友人が私の部屋に来るから、部屋に来る時はメイドとして来て頂戴。オフなのにごめんなさい』と残しておいた。
これで大丈夫でしょう。美海はフランクだけれど、それこそが空ちゃんには大きな負担になる可能性が高い。今日ばかりはオフモードで居られては困る。
今日空ちゃんを呼んだ目的は、2人でしか話せないような事を訊くから……ではない。その辺りの話は彼女からしてくれるのを待つ。私は、そのスタンスは緊急性が無ければ崩さないつもりでいた。
単純に友達を家に呼ぶ。それだけだった。休日に友達と家でお喋りする、なんて高校生らしいじゃない?それに少し、伝えておきたいことがあっただけ。……この間、「大事な話」と言ったのは大げさだったかしら。
「お嬢様」
「なにかしら」
メイドの1人だ。今日は私も休日だし友達も呼んでるし、仕事を増やしてごめんなさい。謝るべき、と思ったけれど、本来は気にする事でもない、とも思ったので心の中で謝っておく。
「ご友人が到着なさったようです」
「ありがとう。私が迎えに出るわ」
彼女の到着は、予定より少しだけ早かった。
「いらっしゃい」
「お、おじゃましま~す……」
何故か小声の空ちゃん。メイド達には言い含めてあるから、大勢並んでの迎えは無い。昼食の準備を始めているころかもしれない。
「とりあえず、私の部屋で良いかしら」
「う、うん」
彼女は緊張した面持ちで家中を見回す。飛び抜けて大きな家じゃないから、見るものなんて無いと思うのだけれど、彼女はリスのようにキョロキョロしている。可愛い。
私の部屋の前には、ティーセットが用意されていた。指示してないのに。出来る人達ね、ありがたいわ。と感心しながら私は空ちゃんを部屋に招き入れた。
「広いお部屋だねー……ほぇー」
「どうぞ、座って」
私が促す通りの位置に座る空ちゃん。私の部屋のソファの中でも、私が普段使わない位置だ。もちろん使わないのは来客用に空けてあるから。
……たまに、美海がそこで「客人であるぞ、よきにはからえー」とふんぞり返っていることはあるけれど。貴女は客人じゃないわ、ゲリラよ。
「レディグレイ、飲めるかしら?」
「レディグレイ?」
「紅茶の1種なのだけれど……そうね」
私はティーカップに一口分注いで渡す。この辺の作法は適当。客人とはいえ友達相手に仰々しいマナーを使うのもおかしな話だし、彼女のことだから緊張が増しそうだもの。
「いただきます」
「熱いから気をつけてね」
彼女はゆっくり口をつけ、目を見開いた。
「おいしい……!」
「そう、それは良かったわ」
厳密にはレディグレイに近いだけの、私好みのブレンドなのだけれど。気に入ってもらえたならなによりね。私は、彼女のティーカップに今度は並の量を注ぎ、そのまま自分の分も注ぐ。
「空ちゃん、貴女には言っておくことがあるわ」
「……な、なにかな……」
空ちゃんの身体の強張り具合から、緊張が伝わってくる。今はお茶を飲むことで落ち着こうとしているようだ。
「今日呼んだことの本題は、貴女と休日を楽しく過ごすことよ」
「え?そう、なの……?」
「ええ。ただ……私はね、貴女の目的が達成されるまでは付きまとわせてもらうわ」
先日決めたことだ。私としては、問題の根本を解決しないまま投げ出すわけにはいかない。あの時私がした失敗は、今後絶対に取り返すことが出来ない。……そんなのは、1回で充分だわ。
「うん。あたしも、きちんと話そうと思ってた。……でも、いつか必ず話すから。それまで、待っててほしいの」
「……解ったわ。待ってるわね」
空ちゃんの言葉を受けて、目を見て、納得した。この子は、自分の力で頑張ろうとしている。私を信じていないのではなく、自分を信じることを始めたのだ。
昼食が近いことを考慮してか、紅茶もクッキーも少量だ。私達はそれをお腹に入れながら話した。大したことじゃない。
学校には慣れたかしら、だとか。
生徒会メンバーとなら話してみたいな、だとか。
家にはいつでも遊びに来て構わないのよ、だとか。
昼食の時間まで話したのは、そんなこと。私達は、楽しい時間を共有した。
昼食が済むと、再び私の部屋へ。外は相変わらずの雨だ。弱くなる気配は無い。空ちゃんは、「お腹いっぱい」といった空気を纏っている。そりゃ、あれだけ食べればね……。
私が友達を呼んだのがよほど珍しかったのか、それともイメージアップのためか、メイド達は豪華な料理をたくさん作っていた。大皿で。
今日いるメイド達の分を含めても、軽く3人前はオーバーする量。私とメイド達は「残していい」と言ったのだけれど、それをこの子は、
「残しちゃもったいないし、失礼だから!」
と、全て食べた。とんでもなく食べる子ね。普段と同じように、1人分ずつ盛り付けるべきだったわね。
「落ち着くまで私のベッドで横になってていいわよ?」
私のこの提案に対し、彼女は大袈裟な態度で拒否した。それは畏れ多い、といった風情だった。
「そんな!こんな綺麗なベッドをあたしなんかが汚しちゃもったいないよ!」
「昨夜のままでまだ洗ってないから手間は一緒よ」
「シーツを洗ってもこの天気じゃ乾かないし!」
「シーツは7枚を毎日替えてるから平気よ」
私……持ち主が全然気にしないのだから、遠慮することないのに。……空ちゃんの気持ちも解らないでは無いから、もう一押しだけしてみましょう。
「お、お高いんでしょう?」
「いいえ。私、高級嗜好じゃないもの」
「お腹いっぱいで寝ちゃうかもしれないし!」
「別にいいわよ、リラックス出来るならそれはそれで私にとっても嬉しいことよ」
「よ、ヨダレ垂らしちゃうかも!」
「私だって昨夜そこで自慰に耽ったわよ」
「えぇっ!?」
「だから汚すとかは気にすること無いわ」
これで断られたらやめるつもりだった。空ちゃんが別にいいと言うのだから、私だって頑なに寝かせる必要はない。
けれど、空ちゃんは顔を真っ赤にして俯いていた。何やら落ち着かない様子。私なにか変なこと言ったかしら。
「お姉ちゃん……昨夜このベッドで、その……」
「ええ、1人でシてたけれど……ああ、ごめんなさい、私の汚れが気になるわよね」
彼女は恥ずかしそうにしながら、チラチラ私の様子を窺う。例のごとく、隠せてると思ってるんでしょうけど全然隠せてないのが微笑ましい。
「そうね、一番上の薄いのは取りましょう。中ではシてないから」
「あっ……うん……」
私は一番上の薄いシーツだけを取り去り、1度廊下に出てメイドに託す。これでOKね。空ちゃんに、最後の確認をする。
「少し、横になる?やめておく?」
「えっと……お腹も落ち着いたし……恥ず…………し……だから、やめておくね、ありがとうお姉ちゃん」
本人がそう言うんだから、強制することはないわね。途中何か聞き取れなかったけれど。まあいいわ。
「そういえば、教えてほしいことがあるんですって?」
「えっ!?おお教え!?あの、あたしにはまだ早いっていうか……!」
「……授業で解らない箇所があるって言ってなかった?」
「ふえ、あ、ああそっち、そっち……びっくりしたあ」
……生娘みたいな反応するのね。私は別にごく普通のことしか言わなかったつもりなのだけれど……。彼女にとっては少し刺激が強かったらしい。
こうして、午後は私が授業を執り行う運びとなった。
私は、油断していた。勉強を教えている最中にあんなことがあろうとは思ってもみなかった。少し見通しが甘かった。
それは、午後2時頃。少し休憩にしましょうか、と進言して私達は一旦リラックスした時間を取っていた。この子が自宅でもやりやすそうな、有効な勉強法は……。そんなことを私が考えていた時だった。
バァーン!と大きな音を立てて、背後で扉が開け放たれる。この開け方は美海だとすぐにわかる開け方だった。それ自体はいつものこと。
「カナちゃん、お友達来てるって?今日お仕事無いからあたしも混ぜて!」
美海だって、いつもと変わらない。私の友達だという人物と、自分も仲良くしたいという、それだけなのだろう。普段なら、私だって歓迎する。「その開け方やめなさいっていつも言ってるでしょう」なんて溜め息をつきながら、部屋に入れていただろう。
問題は、空ちゃんの反応だった。
彼女はまずその音に、跳ね上がるように驚いた。次に、耳を塞いだ。そして、小さく縮こまって震えながら、
「ごめんなさい……ごめんなさい……!」
……そう、言い出した。見ることを拒否するように固く閉じられた目からは、涙が流れ落ちる。
私はすぐに空ちゃんを宥める。刺激しないよう、そっと抱き締め、小さな声で「大丈夫よ、大丈夫……」と囁く。
私が抱き締めた時でさえ、空ちゃんはビクッと身体を震わせた。今、彼女は恐怖の中にいる。彼女に染み付いた記憶が呼び起こされ、彼女は今、その「怖かった記憶」の中にいるのだ。彼女の口からは、ひたすらに謝罪の言葉だけが出てくる。
「えっと……あたし、驚かせちゃったかな……ごめんね?でもあの」
「美海」
私は、状況が解らずに狼狽える美海の言葉を、背を見せたまま遮った。自分の声のトーンが低くなっていることに、私は気付かなかった。
「出ていきなさい」
「でも、あたし、謝らないと……」
「今日私の部屋を訪ねるならメイドとして来るように。そう言ったはずよね」
「う、うん。見たよ」
段々小さくなっていく美海の声。普段明るいだけに心配になるような声音。彼女も心から申し訳なく思っている。それは解った。でも私は、それを酌むことをしなかった。…………出来なかった。
「私は、こうなると予想したからそう伝えたの。なのに貴女はそれを守らなかった」
「…………」
「その結果がこれよ」
「あたしは……そんな、つもりじゃ……なくて……」
空ちゃんは、私の声も怖がっているようだった。責めるような口調が良くないのだろう。これ以上、続けるのは空ちゃんにとって危険かもしれない。
「……すぐに出ていきなさい」
「……はい……でも一言だけ、ちゃんと謝りたくて」
「3度目は無いわ」
「……はい……失礼します……」
美海が今にも泣きそうなのは声色で解ったけれど、結局、私は美海の方を1度も見なかった。
空ちゃんが落ち着いて話が出来るようになるまで、時間がかかった。その間、私は黙って彼女を抱き締めることに専念した。何を言っても、怖がらせてしまうだろうから。
(この子は、どれだけ怖い思いをしてきたのだろう)
私には、想像もつかない。子どものように私にしがみ付いて泣きじゃくる彼女を見ていると、きっと私の想像を遥かに上回るのだろう、そう思った。その程度のことしか解らなかった。
……私は、この子に何をしてあげるべきだろうか。私の手には余るのでは無いか。これは病院で治療が必要……専門家に任せるべきレベルだと私には思えた。
空ちゃんがようやく落ち着き、話が出来るようになってから最初に言ったことは、
「あたし……さっきの人に謝らなくちゃ」
というものだった。さっきの人、とは美海のことだろう。気にするのは解らないでもない。いつでも他人のことを優先してしまう人はいるものだ。けれど、それは今のこの子が気に病むことじゃない。
「いいわ、それは私から伝えておくから」
「でも……きっとびっくりしたと思うし……傷付けちゃったし……」
「……貴女、まだ手が震えてるわ。その状態で会っても、却って気を遣わせちゃうんじゃないかしら」
「…………」
空ちゃんは、明らかに悩んでいるようだった。やっぱり自分の口から言いたいのだろう。
「貴女が今するべきことは、私に甘えることよ。……それ以外は、お姉ちゃんが引き受けるから」
「……うん、わかった。ありがとうお姉ちゃん」
納得してくれたようだ。目端に捉えた時計は、4時前を示している。雨は、少し小降りになっているようだった。
「……送るわ」
今日のところは、お開きとなった。
空ちゃんを送り届けて、私は自宅へ帰ってきた。時刻は4時半。徒歩で片道15分、といったところね。
「おかえりなさいませ」
「ただいま。……厨房は空いてるかしら?」
帰るなり私はそう訊いた。夕食は18時だから、そろそろ準備を始めている頃のはずだ。しかし、
「本日はお嬢様のお好きなものをご用意しております。ですので、本日は厨房の半分以上が使用可能でございます」
「じゃあ、空いてる所を私が使ってもかまわないかしら」
「もちろんでございます」
好都合ね。夕食のメニューも。私は、すぐに準備に取り掛かった。私も夕食の時間に間に合わせなければならないから。
夕食の時間に、美海は顔を出さなかった。当然メイドは呼びに行ったが、食欲がないからと言われたらしい。今日の夕食は、私と美海が好きなおでんなのに。
私の舌は高級嗜好ではない。幼少期……大企業の社長である両親が家にいた頃は高級なものを口にする機会は多かった。だから、所謂「違い」は解る。
けれど好むものはむしろ、安いものや、一般的な家庭でも食べられるものの方が多い。その関係で、自宅でも庶民的な食事になることが多かった。それは、美海が一緒に暮らすようになってからも同じことだった。
結果、「食べ慣れたものが一番美味しく感じる」せいなのか、私と美海の食の好みは似ていった。
私は食事を終えると、おでんを小鍋に取り分け、それからさっき用意した「モノ」を持って美海の部屋へ向かった。
「美海?入るわよ?」
「……」
返事はない。私は構わず彼女の部屋へ入った。美海は自分のベッドの上で膝を抱えていた。
「食べなさい、今日はおでんだったのよ」
「……」
拗ねている……わけではなさそうね。私はとりあえず、荷物を机の上に置いた。
「……ごめんなさい」
美海は、小さな声で謝った。彼女らしからぬ、とても沈んだ声だった。どうして私の周りは、自分の責任にしたがるのかしらね。
「私も強く言い過ぎたわ。私こそごめんなさい」
「…………あのね」
美海は、鼻をすすりながらポツリポツリと話しはじめた。私も、彼女のすぐ隣に腰を下ろす。
「……カナちゃんが友達連れてきたって聞いてね?……ぐすっ、そんなこと今まで無かっ、たから、あたし嬉しく、て……」
「もう。可愛い顔が台無しよ?ほら、ハンカチ使いなさい」
「ありがと………………それで、あたし、も仲良くした、ぐすっ、したくって」
「ええ。ちゃんと解ってるわ」
美海は勢いで行動して失敗することが多い。けれど、悪気があるわけではないし、今回だって、空ちゃんと噛み合わせが悪かっただけ。もっと言えば、前日までに美海に口頭できちんと私が説明しておけばこんなことにはならなかった。私にも落ち度はある。
「なの、にね?泣かせちゃって、あたし、そんなつもりじゃ、なくて」
「それも解ってるわ。……あの子も、ごめんなさいって言ってたわ」
「なん、で……?悪いのは、あたしなんだよ……?」
「きっと傷付けたから、って。……でも私はね、誰も悪くないと思うの」
そう。噛み合わなかっただけ。タイミングが悪かっただけ。誰が悪いとか、きっとそういうことじゃない。強いて言えば、悪いのは空ちゃんを家に招こうと思った、そして、美海にきちんと言っておかなかった私だけ。
「貴女もあの子も悪くない。お互いに謝る気持ちがあるんだもの。それでチャラになるはずよ。…………だから、この話はおしまい。ね?」
「うん……ぐすっ」
少し落ち着いてきたようなので、私は食事を摂るように促した。おでんは冷めたら美味しくないものね。それと……。私は「例のモノ」を美海に差し出す。
「え、これって……?」
「貴女、前に私が作った時、気に入ってくれたみたいだったから」
私が用意したのは手作りのプリンだった。作るのにさほど時間は必要無いし、美海も気に入っていたようだったから。
私は、その先を言うのを少し躊躇った。なんだか恥ずかしかった。でも、これは言わないと進まない。それでも美海と目を合わせにくく、そっぽを向きながら、私は言った。
「だから、その……ちゃんと貴女のこと、好きだから……」
恥ずかしい……!恥じるようなことは言ってないけれど、好意を素直に伝えるのは……なんというか、照れる。わ、私だって謝って、プリンも作ったし、恥までかいたんだもの。こ、これでチャラよ、チャラ。
それを聞いた美海は……何故かまた泣き出してしまった。
「っ…………ぅくっ……ふええぇぇん」
「ちょ、ちょっと、泣かないでよ」
今日は、女の子の泣き顔ばかり見る日ね。まったくもう、どうして泣くのよこの子は。私はわんわん泣く彼女にしがみつかれた。
「あたし、嫌われちゃったと思ってえぇぇ」
「バカね、そんなわけないでしょ。それとも、貴女は私のこと嫌い?」
「うええぇぇぇぇん、なん、で、意地悪言うの、好きだもん、カナちゃんのこと大好きだもん!!」
せっかく泣き止んだのに、また大泣きしちゃって……手のかかるメイドさんね。声は大きいし、落ち着きは無いし、同い年なのに子どもっぽいし、私の部屋に勝手に入るし、明るいし、優しいし、……なにより、私のことを好きでいてくれて。……まったく。私は幸せね。
祝日は、美海に泣き付かれながら過ぎていった。昼間も泣き付かれながら過ごしたというのに。困ったわ。私はそれが嫌だと感じていないのだから。
「……私も、大好きよ……」
小さく、囁くように。聞こえてなくても、美海にはナイショ。2度は言わない。聞いてない方が悪いんだもの。
浅海 奏と空野 歌撫が出会ってから、1ヶ月が経とうとしていた。
……残り、8ヶ月。
小さな豆知識その6
「お姉ちゃん、さっきね、生徒会の眼鏡の先輩を見かけたの」
「鹿野君のことね」
「そう、鹿野先輩!……なんか、体育館裏に呼び出されたみたいで」
「女の子に?意外とモテるのね」
「ううん、不良みたいな男の人」
「そっちの呼び出し?可哀想に。何かしたのかしら」
「『ずっと、お前のことが好きだった』って告白されてたよ」
「ソッチの呼び出し?……意外とモテるのね……可哀想に……」