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閑話「4月17日、日曜日」



小さな豆知識その3


生徒会副会長の鹿野は、浅海 奏よりも背が低いことを気にしている。



 



「むむむ」

 僕、鹿野かのは、ストーカーのようにコソコソしながら、ある女性をけていた。今は建物の角から、様子を見ている。いや、ストーカーじゃないですけど。やってることはストーカーですけど!


 僕が尾行しているのは、僕の学校の生徒会長。元々、尾行なんてするつもりじゃなかった。




 発端は少し遡る。

 今日は日曜日だし、読んでいたライトノベルの続きが発売されるから僕はちょっと街まで出てきて、なんとなーく予定を考えながら歩いていた。


 するとどうだろう。人混みの中に会長がいるのを発見した。よく目立つ謎の巨大オブジェ(おかげで待ち合わせスポット代表だけど)の前で、美しく佇んでいる。


 僕は声をかけるかすごく悩んだ。会長は気さくな人だ。誰にでも優しい。だからきっと僕が話し掛けても優しく会話してくれるはずだ。


(どうしよう、キモいと思われないかな、偶然を装って、でもそんな、うーーーん)


 そんな風に悩んでいたところ、気付けば会長は誰かに手を振っているようだった。待ち合わせスポットで、手を振っている。僕にではなく。


 で、デートですか会長……!僕はショックを受けた。会長のプライベートは謎に包まれている。知っている者はほとんどいなくて、街で見掛けることすら珍しい。


 それが、デート……。会長は美人だから、彼氏くらいいても不思議じゃない……むしろいて当然だ。けど、目の当たりにするとショックだった。


(くっ、どんなイケメンなんだ、モデル、モデルか!)


 僕はその幸せ者の顔を一目拝んでやろうと、物陰に身を隠してこっそり覗いた。


 そこへ現れたのは、背の低い人物。モデルではなさそうだけど……遠かったかな、よく見えない。眼鏡を軽く拭いてかけ直し、目を凝らす。


「あっ、えっ?」


 僕はつい声を出してしまった。女の子だ、さらによく見れば、入学式の日に会長が気にしてた、気弱そうな子だ。


(彼氏じゃなくて、彼女?つまりこれは百合というやつ?あっ、確かに会長に彼氏がいるなんて聞いたこと無い!)


 と、いうことは。なるほど、会長は女の人が好きで、だから浮いた話が無かったんだ。そして、あの小さい子が会長を射止めたということか!


 遠目だけど見ていると、なんだか見たことある感じのやり取りをしている。あ、あの動き、アニメで見たことあるぞ。あざといな新入生!


(でも、会長なんだか幸せそうだなあ……)


 会長は今まで見せなかったような優しげな笑顔だ。会長は誰にでも微笑んではくれるけど、新入生に対するそれはどこか違っていた。それは多分嫉妬でそう見えるわけではないと思う。


 でもそっか……百合か……。僕には見向きもしないわけだよな……。そりゃ、元々釣り合うような男じゃないしなあ……。ただのオタクだし。でも百合かあ、百合か……。百合。


「大好きです!」

「おまわりさぁーん、こっちでぇーす」

「ひぃ!」


 すぐ背後で人が見てたらしく、警察を呼ばれてしまった。僕は怪しいものじゃない!僕は弁明すべく、振り向いた。


「いや僕は……あれ?」

「どーもぉー、先輩」


 そこにいたのは同じ生徒会メンバー、さかいだった。なんだ、心配して損した。


「驚かさないでくれよ……」

「先輩、なにしてるんですか?のぞき?」

「違う!ほら、あれ」


 僕は会長達の方を示す。ちょうど、新入生が男性にぶつかられそうになり、会長に抱き止めてもらうというあざといシーンだった。


「会長と、あれは新入生のちっちゃい子ですねぇー」

「気になるだろ?」

「デートですかねぇ」

「やっぱ、そう思う?」


 良かった。僕が変なわけじゃなく、会長は誰にでも解るような幸せな顔をしてるんだ。


 境はしれっと、


「いえ、普通におでかけだと思います」

「裏切ったな!」


 境は掴み所がないというか、独特なペースを持っている。僕が不器用なのもあって、いつも乗せられるのは僕の方だ。


「そして先輩はのぞきでしたねぇー。会長をのぞいてたんですねぇー」

「ぅっ……こ、これは、見守ってたんだよ!副会長として!」

「ふぅーん?」


 な、なんだよ、猫みたいな顔して。僕は目を逸らして会長達を見る。すると、彼女達は移動するようだった。今は午前11時だから、まずはランチかもしれない。


「僕はもう行くぞ」

「あたしもぉー」


 着いてくるらしい。まあ、いいか。こうして僕達は尾行することになった。それにしても……。


「お前、私服可愛いんだな」

「えっ?あ、その……それはどうもありがとうございます……」


 僕としては何気なく思ったことを口にしただけなんだけど、境は口調が変になるくらい照れていた。なんだか、してやったりな気分だった。






「カフェ……?」

「ですねぇー」


 2人はカフェに入っていった。僕はこういう所には縁がないから解らないけど、地元では有名なカフェとかだろうか。学校のすぐ近くだ。


 有名なチェーン店カフェの、ムーンバックスに建物の感じは似ている。小さめの飲食店に、テラス席……でいいのかな、外にある通りに面した卓。それを3席設けたような感じだ。


 僕達は、すばやくカフェの壁に張り付いた。ここからなら窓から覗くことも可能だろうけど……怪しいよなあ。


「入るか……?」

「バレるんじゃないですかねぇー」

「だよなあ……」


 小さな建物だから、確実にバレる。けど、様子が解らなければ尾行の意味がない。どうしよう……。僕が考えていると、


「先輩……見てください」

「何だよ……」


 境が耳元で囁いてくる。どうでもいいけど、お前普段のキャラは作ってるな?すごく簡単に崩れてるけどそれでいいのか?


 境が指す方は、テラス席。さっきまで人が居なかったはずだけど、何やら声が聞こえる。


「外なら突然の客に驚くこともないでしょう。さて、そらちゃんは注文何にする?」

「えーっと、あたし初めてだし……うーん」

「それもそうね……とりあえず私と同じのにしておきましょうか」

「うん、ありがと」


 会長と、聞きなれない声は新入生のものだろう。僕は名前まで覚えてなかったけど、彼女はソラちゃんというらしい。外を選んでくれたおかげで、僕達は店に入ることなくスパイ活動に従事出来る。


 僕は聞き耳を立てた。本当に百合なのか、確かめなくてはならない。たとえ会長が百合な人でもそうじゃなくても僕的にはOKなのがとても良い。


「ごめんね、お姉ちゃん」


「「お姉ちゃん!?」」


 新入生のセリフに、僕と境の驚きがハモった。もちろん小声だ。向こうの声が聞こえるということはこちらの声も聞こえる。


「境、確か会長は、兄弟姉妹はいないって言ってたよな」

「あたしも聞いた記憶ありますねぇー」


 じゃあやっぱりあれは新入生で、他人だ。よく覚えてないけど苗字が同じでも無かったと思う。それなら多分覚えてたはずだ。


「じゃああれはどんな関係なんだ」

「あたしだって知りませんよぉー」


 歳下の女子にお姉ちゃんと呼ばれる関係?しかも姉妹じゃない。となると、えーと、それはつまり、


「「プレイ……?」」


 またもハモった。やっぱりそうなのかな。あの2人は恋人で、そういう設定なのかな。なのかな!


「先輩、なんかキモいですよ……」

「素で言われるのすげえ辛いからキャラやめないでくれないかな」


 そもそもあのキャラというか、語尾を伸ばすことに意味があるのだろうか。よく解らない。いや、境のことはいい。続きを聞かなくては。


 僕達が考えたりハモったりしてる内に話は進んでいたらしく、ちょっと文脈が解らないことになっていた。


「私の方は貴女のことを「歌撫かなでちゃん」と呼ぼうかとも少しは思ったのだけれど」


 かなで……って会長の下の名前ですよね?どういうこと?貴女は私の分身とかそういうこと?


「難しいよね……あたしも「かなでさん」にしようと思ったけど、結局ムズムズするから「お姉ちゃん」にしたんだもん」


 え、感覚おかしくない?僕が変なの?お姉ちゃんの方が不自然なんじゃないの?


 2人はあまりにも自然体なので少し不安になったから境を見ると、境も「さっぱり意味が解らない」という顔をしてた。この場はこれで安心しておこう。


「ふふっ、お互い大変ね…………ねえソラちゃん」

「なあに?」

「29日、私の家に来てくれないかしら。……大事な話があるの」


 29日って水曜日じゃ?……うん、水曜日だ。てことは平日に学校サボって2人で会うんですか!しかも自宅に招待!


「29日って祝日ですねぇー」


 境が言ってくる。いやー、僕も薄々思ってたよ。あの会長が学校サボるなんてあり得ないもん。なら祝日に決まってる。


「…………」


 新入生は、黙ってしまった。少し張り詰めた空気が伝わってくる。真剣なんだな……。僕はそう思った。


 チラリと境を見る。境にもこの空気は伝わっているらしく、緊張した顔だった。僕達は黙ったまま、目で意思を伝えあった。


『立ち去ろう』


 あまり居心地が良くなかったし、コソコソしてるのが楽しかったのも途中までだった。やっぱり、後ろめたい。そして、


「すぐ決めなくていいわ。……ごめんなさい、お手洗いに行かせてもらうわね」

「あ、うん……」


 チャンスだ。この会長が席を外したこの隙に速やかに立ち去ろう。僕達はテラスとは逆方向、店の入り口の方へと向かった。


「あら、奇遇ね2人とも。デートかしら?」


 ……残念ながら、ゲームオーバーだったらしい。





 僕達は怒られた。いや、叱られた。全面的に僕達が悪いので言い訳はしなかった。


 会長からは事情をなんとなく聞いた。下の名前が同じだとか、彼女は人と接すること自体が苦手……それどころか怖いから会長の友人だからといって気安く話しかけたりするなとか。特に後者は厳命された。


 境がどう思ったかは知らないけど、僕は会長が百合じゃなかったことに正直安心したし、いつもの「誰かに頼られる会長」だったことには更に安心した。今回も、新入生の悩みと真剣に向き合っていただけなんだ。


「会長、今日はすみませんでした」

「すみませんでした」


 僕達は素直に謝った。それを見た会長は、いつものように綺麗な姿勢で彼女の元へと戻っていった。


「……会長は、やっぱり誰に対しても優しいんだな」

「えっ?」


 ……えっ?今僕変なこと言ったか?境は怪訝な顔で僕を見ている。


「今回も彼女に頼られてただけで、変な関係じゃないだろ?僕変なこと言ってないと思うんだが」

「……先輩って、鈍いんですねぇー」

「えっ?」


 僕には全く意味が解らなかった。鈍い?どういうことだろう。顔に出てたのか、境は説明してくれた。


「会長、彼女のことを恋愛対象として見てないとは言ってないですしぃー、戻る直前、小声で「3分も待たせちゃったわ」って言ってたんですよぉー」


 境の言葉を聞いて、僕の心は再び不安に覆われ始めた。いや、でもそんなことは……!


「あ、あとあの子といる時は、女の顔してますよねぇー」


 ……会長は、百合なのかもしれない……。僕の悩みの種が増えた日曜日だった。






小さな豆知識その4


生徒会書記、境は運動神経がかなり良い




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