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12話その3「8月20日、木曜日」



遅くなって申し訳ございません。




 




【8月20日 SIDE 歌撫】




 テレビをぼんやり眺めながら、未来みくさんの言ったことを考えてみる。


 あたしは、お姉ちゃんとどう付き合っていきたいのか。お姉ちゃんにどうしてほしいのか。あたしは、どうしたいのか。


 あたしは、お姉ちゃんの望むことは叶えてあげたい。誰も信じられない、全てが怖かったあたしに優しくしてくれた。今、あたしが未来さんや美海みうみさんと普通に話せるのもお姉ちゃんのおかげ。


 あたしがお姉ちゃんに抱く気持ちを一言で表すなら、大好き。恩があるとか、格好いい女性として憧れてるとか、それ以前に大好き。それは間違いないことだった。


 お姉ちゃんはあたしを恋人にしたいっていう風に好いてくれてる。お姉ちゃんがあたしを好きだって言ってくれるのは素直に嬉しいし、それに応えてあげたいとも思う。


 でも、「お姉ちゃんがそう言うから」っていう理由で恋人になるのはやっぱり変だと思うし、お姉ちゃんもきっとそれは望まない。


(……どうして、あたしはお姉ちゃんに尽くしたいんだろう?)


 テレビの中から、お天気お姉さんが今日の天気を教えてくれる。今日も快晴で紫外線が強いから気を付けるようにと。


 未来さんは、あたしがお姉ちゃんとどういう関係になりたいのかを考えてみて、って言ってた。


 あたしは、どんな形であれお姉ちゃんと一緒にいられたらそれで良い。でも、お姉ちゃんと離れることだけは耐えられる気がしない。


 たとえ他の誰もを失うとしても、お姉ちゃんだけは失いたくない。それはあたしのそばにいてほしいって言うより、「お姉ちゃんに捨てられることが怖い」っていう方が正しい。決してお姉ちゃんを独り占めしたいわけじゃないけど、最後にはあたしの所へ帰ってきてほしい。


 ……そうじゃないって、いつかお姉ちゃんもあたしの近くを去る時が来るって思うと、気が狂いそうになる。


 反面、お姉ちゃんがあたしを好きでいてくれる限りはそれも大丈夫だ、なんて汚ないことも思ってて。


 お姉ちゃんに嫌われることに比べたら、他のことなんて些末さまつなこと。あたしはお姉ちゃん無しで生きてくなんて出来ない。怖い。怖くて仕方ない。


(……それが、依存しているってことなのかな……)


 お姉ちゃんの横顔を見る。あたしと同じように天気予報をぼんやり眺めながら、きっとあたしと同じようにさっきのことを考えてる。


「お姉ちゃん……」

「なあに?」

「へっ!?」


 知らぬ間に「お姉ちゃん」と口に出していて、返事をされてあたしは狼狽うろたえた。


「いや、あの…………あたし……やっぱりお姉ちゃんがいないと生きられないんじゃないかなって……」

「それは…………いけないことよ」


 苦々しい顔で、お姉ちゃんが答える。なにか、嫌な発想が頭をよぎったような……さっきのあたしのように、ちょっとズルいことを考えたのかもしれなかった。


「貴女も、1人で生きられるようにならないといけないわ。……それは、解ってくれる?」


 お姉ちゃんは、いつになく話し方のキレが悪い。何かを恐れているような、慎重な態度だった。


「でもあたしなんて……1人じゃなんにも出来なくて……」

「貴女は……私を幸せな気持ちにしてくれるわ」

「そんなの誰にだって」

「いいえ」


 お姉ちゃんは、あたしの言葉をさえぎった。誰かの言葉を最後まで聞かないで話し出すなんて、お姉ちゃんは滅多にしないのに。


「貴女と出会って、お話したり、遊びに行ったり……そして自分でも気付かない内に貴女に恋をしてた」


 ……あれ?なんだろう。懐かしむように、幸せそうに話すお姉ちゃんを見ていると、なんだかドキドキした。今までこんなことなかったのに。


「私はね、貴女だったからこんなに好きになったのよ」

「あたし、だから……?あたしなんかでいいの……?」

「もちろんよ。貴女には私と生きて欲しい……そう、思っているわ」


 お姉ちゃんは、今それを考えていたのかもしれない。あたしだって自分の気持ちを考えてたけど、あたしは答えがまとまらなかった。……お姉ちゃんはやっぱりすごいな、って自然と思った。


「あたしと一緒に……?」

「ええ」

「じ、じゃあ、あたしが1人で生きられなくっても、お姉ちゃんと」

「それとは、ちょっと違うのよ……」


 あたしが放った一言に、お姉ちゃんは困った表情を見せた。……あたしが離れたくないからって、ズルいことを言っちゃったな。嫌な子だな、あたし……。


「確かに私は貴女と一緒に生きていたい……けれど、私達は自立しなきゃいけない。……大人になることは、避けられないのよ」


 解ってる。あたしだって、それくらい解ってる。いつまでも誰かに面倒を見てもらうわけにはいかない。


「だから……私と…………」

「…………お姉ちゃん?」


 お姉ちゃんは歯切れ悪く、視線を泳がせてそわそわとしている。頬が紅潮して、ひどく可愛らしかった。


「私と……付き合って、ほしいの……」


 上目遣いにそう告白したお姉ちゃんは普段は絶対に見せないほど儚げで、明らかな恥じらいがすごく魅力的だった。


(…………?)


 まただ。心臓が大きく跳ねて、身体中の熱が顔に集まるような感覚がする。そのせいか、さらに心拍数は上がっていく。


「…………そ、空ちゃん、なにか言って頂戴。……恥ずかしいわ……」

「え?あ、あの、ごめんね。ちょっとビックリしちゃって」

「そう、よね。突拍子も無かったわね。……私は、貴女と一緒に生きていきたい。それは、一緒に成長していきたいってことでもあるの」

「だから、お付き合い?」

「私は空ちゃん無しでは生きられないと思っている。そして、きっと貴女もそう。けれど、いつまでもそれではいけないわ。だから、お互いに頼りきりにならないよう、一緒に考えてくれないかしら」


 お姉ちゃんはあたしを見据える。もしかして、それって……。


「あたしを必要としてくれるの……?」


「居てくれなければ生きていけない」というのと、「これからを生きていくために一緒にいてほしい」というのと。同じようだけど、なんて言うのかな、暖かさが違うような気がした。


「もちろん。貴女じゃなきゃイヤよ」


 拗ねたようにイヤと言うお姉ちゃん。こんな顔を見られるの、もしかしてあたしだけだったりする、のかな?


「あたし……あたし、お姉ちゃんの助けになれるような人になりたい。……それに……」


 この、胸の高鳴りがなんなのか、確かめたい……。それには、お姉ちゃんとの関係性を名目だけでもいいから変えて、少しでも変化を持たせたかった。


「それに?」

「ううん、なんでもないよ。……だから、今からあたしとお姉ちゃんは、恋人同士……だね」

「ええ」


 こんな、なんてことない夏休みの朝。でも、これから生きていく、同じ時間を過ごそうとしているあたし達にとって、恋人同士になるなんて通過点でしかない。


 だから、「みーちゃん!くすぐらな、ちょ、あは、やめて!あぶな、あはは!」「刃物も火も使ってませんからねぇー」なんて声が聞こえてくるような、雰囲気の欠片もないような所であっても構わない。


 …………やっぱりもう少しだけ、ムードが欲しかった、かな……。








※次回の投稿ですが、2015/12/02中になります。今回の遅れと合わせてお詫び申し上げます。





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