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12話その2「8月20日、木曜日」



キリがいいとこで切ったら少し短めになってしまいました。




 




「2人とも起きてたの?おはよう」

「おはようございます」

「カナちゃんクーちゃんおはよー」

「おはようございますぅー」


 私達が屋内へ戻ると、美海みうみさかいが既に起きていた。私が目を覚ましてからかれこれ30分近く経ってはいたけれど、それにしたって早い。


「眠り慣れた自分の部屋じゃないとこだとなんか早く起きちゃうんだよね」

「あたしは美海さんが動いてる気配で目が覚めましたねぇー」


 ということらしかった。早起きしなければならない理由なんて無いし、もう一度寝ることも提案したけれど、3人とももう眠くはないとのこと。昨夜も1時前まで起きていたのに、元気なことね。


鹿野かの君はまだ寝てるのかしら」

「そうだと思いますよぉー」


 私達は別荘故に家具の少ない六畳間で多少無理をして4人で寝たけれど、彼には異性であることもあって屋根裏部屋で寝てもらっていた。お世辞にも寝心地が良いとは言えないから、もし彼が今起きてきても不思議ではなかった。


「あー、じゃあさ、あたしがちょっと時間かけて朝御飯作ろっか」

「食材そんなにあったかしら」

「朝用のも持ってきてあるし、昨夜の残り、というか今朝も使えるようにちょっとキープしてあるから多分平気」

「そう?ならお願いしようかしら」

「オッケー。あ、手伝わなくていいからね、あんまりすぐ出来ても逆に困っちゃうし」

「わかったわ、テレビでも見て待ってるわね」


 こうして美海は1人ダイニングキッチンに。私達は寝ていた和室を片付けに。鹿野君は寝かせておいて、朝御飯が出来たら起こそうという話になった。






「テレビ、つけましょうか」

「ちょっと待ってくださぁーい」


 着替えや、寝ていた布団の片付けが済んでテレビをつけようとした時、境に止められた。


「どうしたんですか?」


 布団はたたんで、部屋の隅にまとめて置いてある。明日の美海の仕事はおそらくここの片付けになるだろうから、使ったものは見える場所に置いておく方が良い。


「お話があります」

「……大事な、お話ですか?」


 境の口調と雰囲気が、いつものそれではない。それだけで、大事な話であることは間違いなかった。


「お二人に関わる、大事な話です」

「美海が聞く必要は?」

「むしろ、聞かせたくないですね」

「……いいわ、聞きましょう」

「あたしも、ちゃんと聞きます」


 境は、彼女がまれに見せる怖い目をしていた。何かを見逃すまいとするような、観察するような目。本人は真剣に人を見ているだけなのだろうけれど、向けられた方は威圧されているような感覚を覚えるほどだ。


「……ではまず始めに、質問をしますね」

「っ!……はい」

「どうぞ」


 境の視線を真っ直ぐ浴びた空ちゃんの肩がビクッと跳ねた。空ちゃんはそそくさと私の隣に来て、私の袖を控えめにつまんだ。……可愛い。


「……お二人は、日常的にキスをするほどの仲ですね?」

「「っ!」」


 私達が息を呑むタイミングが被る。空ちゃんは言うまでもなく、予想の斜め上を行く話の出だしに、私もかなり驚いた。


「そう、ね……」

「間違いないです……」


 私達の顔は赤くなっているに違いない。……私が恥ずかしさを覚えるなんて、空ちゃんと出会うまではほとんど無く、よく考えたら中学生以来かもしれない。


「では、何故キスをするんですか?まず会長から」

「わ、私?……そうね……」


 そもそもキスなんて毎日したりしない。それどころかまだ片手の指で数えられるほどしかしていないはず。正確には空ちゃんは恋人ではない、というのもある。……けれど、それでもキスをしたくなる時。


「空ちゃんが愛しく感じられて衝動が抑えられない時……あとは、空ちゃんの存在に安心感を求める時……かしら」


 何故と訊かれても、キスなんて目的があってするものでもないし、大抵は衝動的なものだと思うのだけれど。


「お、お姉ちゃん……そんな、恥ずかしいよぅ…………」

「私は、空ちゃんのことが好きだもの」

「もう…………」


 空ちゃんは、未だにウブな反応をする。私とキスをする時にこんな反応をしないのは不思議だけれど、雰囲気に流されているだけなのかもしれない。


「……じゃあ、空野さんは?何故ですか?」

「あたしは……うーん」


 空ちゃんは悩んだ。私と違ってこの子は私を友達以上の存在としては見ていない。なのにキスはいい、というその理由が聞けるいい機会かもしれなかった。


「あたしは、お姉ちゃんの気持ちに応えたいから、でしょうか……?」


 自信が無さそうに、空ちゃんは言う。私だって自信を持ってさっきの答えを出したわけではないし、空ちゃんの答えがはっきりしないのは道理だった。


 けれど、私のため、か……。健気に私のことを思ってくれている。元々そういう子だけれど、本人からそう聞くと、思わず頬が緩んでしまいそうだった。


「じゃあ、次の質問いきますね」


 境は目だけは鋭く、しかし無表情に続ける。美海の刻む包丁の音が聞こえた。


「もし、お二人がお互いと一生会えなくなるとしたら、何を想いますか?」


 空ちゃんと一生会えない……?そんなの、悲しいに決まっている。決まっているけれど、おそらく境が求める答えはそこから1歩踏み込んだ回答だ。


 私は近頃、気付けば空ちゃんのことを考えている。街行く人々の服装がふと目に留まれば、空ちゃんに似合うかもしれないだとか、寝る前に空ちゃんはどうしているだろうだとか、ふとした拍子に空ちゃんが思い浮かぶ。


 冷静に考えてみれば、それだけ「居て当たり前」の存在だということで、空ちゃんの居ない日常をイメージすることは出来なかった。


「私は、想像つかないわ。空ちゃんが居ない世界なんて」

「あたしは……命を絶っちゃうかもしれません……」


 空ちゃんの表現は大袈裟だと思うけれど、私とおおよそ同じだった。互いが互いを必要としている。……空ちゃんが私を必要としてくれていることに、私は少し安堵していた。


「…………これはあたしの個人的な意見ですから、鵜呑うのみにしないで欲しいんですが」


 境は今の問いで確信を得たのか、さっきまでとは違う力のこもった目で私達を見据える。私は背筋を正し、空ちゃんはずっとつまんでいた袖から指を離した。


「お二人は……互いに依存している気がします。特に……空野さん」

「…………」

「依存……ですか?」


 依存……私には、少しばかり嫌な言葉だ。5年前、私のせいで自ら命を投げ捨ててしまった子のことを思い出すから。


「あくまであたしから見て、ですが……今のお二人からお互いを引き離した時、お二人がどうなるのか……少し怖いです」


 境は第三者の視点で私達を見て、警告してくれている。依存しきるのは、危険だと。私達は、そうなりつつあると。


「……偉そうなこと言いますが、お互いの関係とこれからどうするのかを……考えてみて下さい」

「……ええ。肝に銘じるわ」

「あたし、は…………」


 隣の空ちゃんを見れば、よく解っていなさそうな顔をしている。依存しているというのがどういうことか、それの何が良くないのか、その辺りが解らないのかもしれない。


「そうですね……空野さんは、会長をどう思っているのか、どういう関係になりたいのかを考えてみるのが良いと思いますよ。……あなたが、どうしたいか、です」

「あたしが…………はい、考えてみます」


 境はそこまで私達に示して、まとう雰囲気を変えた。いつもの、掴み所のない娘。


「さてぇー、あたしは美海さんに構って来ましょうかねぇー、今日の予定も聞きたいですしぃー」


 止める間もなく、とてとてとダイニングキッチンへ行ってしまう境。すぐに聞こえる美海の声。内容までは解らないけれど。


「…………」

「…………テレビ、つけましょうか」

「そう、だね」


 すぐに考え始めて、そのまま答えが出るような話じゃない。何日か考えて、それから出た結論をまた2人で話せばいい。逃げではなく冷静に、私はそう考えていた。





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