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閑話「8月10日、月曜日」



小さな豆知識その21


「もしもし、鹿野せんぱぁーい」

「境から電話なんて珍しいな」

「バーベキューとか出来ます?」

「あー、肉焼いたりとかってことか?」

「バーベキューセットもあればなおよいですぅー」

「まあ、バーベキューセットもあるし、多少は出来るけど」

「なるほどぉー」

「な、なんだよ……」





 




 8月に入った。結局お祭りの日の出来事によってあたしに与えられた罰は、今月分の給与の減給と、訓練の受け直し1週間。ついでに、メイド長に長い時間説教されるというものだった。


「境も美海も無事だったから」なんて言ってたけど、普段のカナちゃんからすれば甘いと思った。そういう場面でも時々非情になりきれないのは、カナちゃんの欠点でもあると思う。今回はありがたいけどね。


 カナちゃんはあたしを叩いたこととかをちょっと気にしてたみたいだけど、あたしは最初から全然気にしてない。だって、カナちゃんの言ってたことが正しいと思うから。ちゃんと納得してる。


「カナちゃーん!おでかけしよー!」


 だからあたしは朝からカナちゃんの部屋を訪ねる。今日はカナちゃんも予定はないって言ってた。だから2人でおでかけしようと起き抜けに思いついた。


 あたしは遠慮無くドアを開けていく。「カナちゃんの部屋をノックして返事を待つ、ってなんかムズムズする」と言ったあたしに気を遣ったのか、カナちゃんは入られたら困る時はカギをかけるようになった。開いてるということは入っていいってことだ。


「およ?」


 カナちゃんがいない……?いや、違う。まだ寝てる。カギをかけないで寝るなんて珍しい。あたしの声で起きないのも珍しい。それから、もう9時なのに寝ているのも珍しい。昨夜遅くまで起きてたのかな。いいや、また後で起こしに来よう。


(…………)


 あたしは、ふと悪戯心をおぼえた。大したことじゃなくて、寝顔を見る機会はあまり無いから見てから出ていこう、ってだけだけど。


 ベッドにそーっと近付いて、カナちゃんの寝顔を拝見。カナちゃんは眠りが深いのか、静かな寝息を立てていた。起きる様子はない。


(まつ毛長いなあ……)


 なんか、そんなことを思った。カナちゃんはかなり美人だ。なのに無防備な寝顔からはあどけなさと可愛らしさを感じる。普段見せるクールなカナちゃんとは違う魅力が、そこにはあった。


(あれっ……もしかして今ならキスくらいしてもバレない……?)


 ちょっと悪い心が芽生える。いやいや、それはダメだって。けどしたいなあ……。ううん、やっぱりダメだって。心の中で葛藤が生まれる。頑張れ理性!あたしはここから立ち去るんだ!頑張れ!


「ぅん…………」


 ……カナちゃんが寝返りを打った。仰向けだった身体は横向けになり、その拍子に背中側の布団がはだける。顔にはサラサラした髪が一筋、かかっていた。なんかこう、不思議とエロかった。


(ここはそっと布団をかけ直して立ち去る、母のような気持ちで!)


 自分でもわけの解らないことを思う。とにかく一刻も早くここから離れないと、あたしは朝から我慢出来なくなった変態になってしまう。色んな意味でそれは嫌。


 あたしはカナちゃんを仰向けに戻して、かけ布団をかけ直すために1度取り上げた。


「!!!???」


 その光景に思わず声が出そうになって、なんとか堪えた。よく耐えたと我ながら思う。


 カナちゃんは、相当疲れていたのか、それとも寝ぼけてパジャマを着る途中で寝てしまったのか、前が全開だった。しかも、下着を着けていない。


(うわー、やっぱおっきいなー)


 何故か心の中で棒読み。現実感が薄れている気がする。待って、今のあたしは母。カナちゃんが身体を冷やしたらいけないから、即座に直さなきゃ。


 あたしはカナちゃんのやわっこい感触に耐えながらパジャマをきちんと着せ、布団をかけ直す。そして無心で部屋を後にした。


 ただ、カギもかけ忘れてて、この時間になっても起きないし、パジャマもまともに着ないで寝ちゃうなんて、よほど疲れてたのかな、というのは少し気になった。






「ごめんなさい、全然起きられなかったわ」

「いーよいーよ、まだ時間に余裕はあるし」


 駅前のデパートのエスカレーターを上がりながら、カナちゃんは謝ってくる。別に約束してたわけじゃないから、気にしなくていいのに。むしろ目の下にクマとかが無かったから安心した。


 結局カナちゃんは11時頃起きてきた。10時くらいに起こそうとは思ったんだけど、疲れてるかもしれないという考えがそれを躊躇ためらわせた。結果、今はもう13時半なんだけどね。


 おでかけしようと思った。実はアテもなくそう思ったわけじゃなくて、水着を買いに行くという目的がある。


「けれど、海に行くなんていつの間に約束したの?」

「ん?してないよ、だからクーちゃんとかみーちゃんが行けなかったら2人だね」


 カナちゃんはため息混じりでちょっと呆れた顔をしてた。い、いいじゃん見切り発車でも!あたしは1人でも行くし!


 エスカレーターで上がっていって、やがて目当ての水着コーナーへ。月曜日だけど夏休みだからか、人はいなくもない程度にはいた。あたし達は早速好みの水着を探す。


「美海、貴女前はネットで買わなかったかしら」

「前はね。多分今はネットで買う方が主流なんじゃない?」

「私もそのつもりだったのだけれど。どうして今年は直接見に来たのよ」


 多分、水着を選ぶのに店まで来る人は案外少ない。今はネットでも買えるし、ネットで買う方が安い。品揃えもデパートに置けるものより多いし、上だけとか、下だけ買いたい時にも便利だ。


「届いたやつがさ、サイズ合わなかったんだよね」


 そう。試着出来るわけじゃないから、サイズが合わないなんてことがある。


 洋服とか靴もそうだけど、数字の上では合ってても、身に付けてみると少し合わないなんてことはよくあることだ。洋服ならともかく、水着はそうはいかない。


「……そうね」


 カナちゃんは微妙に納得いかなそうだった。多分、試着せずに身長でサイズを選んで失敗したなんてことは無いんだろうな。でもあたしはある。バストが合わないなんてことがあたしは「しょっちゅう」ある。


 ということで、あたしは頻繁に店員さんを頼りそうだから、良さそうなものを見付けてささっと店員さんにお伺いを立てる。ちょっと申し訳ない気がして、試着する前に。


「これ、あたしの胸だとどうですかね……?」

「そうですね……残念ですが、お客様のバストでは少々足りないかと」

「ですよね」


 メジャーで測ってもらったから間違いない。それから、足りないのは少々ではないと思う。……うーん、このデザインかなり好きなんだけどなー……。


「お客様」


 あたしが少し肩を落として水着を戻しに行こうとすると、店員さんが小声で耳打ちしてきた。なんだろ。


「バストにパッドをご利用されてはいかがですか?」


 あたしに気を遣って小声で言ってくれたみたいだった。遠くでカナちゃんが水着を持って別の店員さんに話しかけているのがチラッと見えた。


「えっ……あたし、使ったことないんですけど、バレたりしませんか?」

「お客様は、海水浴等に行かれた際に、他の方のバストが盛られているのか、本物なのか、見分けが付きますか?」

「付きます」


 正直、あたしは見分けが付く。カナちゃんの下で「常に」働くメイドとして戦闘訓練なんかも受けているから、目が養われていた。けど、普通はそうじゃないよね。


「えっと、しかしながら、普通の方には見分けは付きません」

「どれくらいバレないんですか?」

「親しいご友人にはバレてしまうことはあるかと思いますが、見ず知らずの方にはまずバレないと思います」


 ほほー。なるほど。あたしの目は相当鋭いらしい。あたしは逆に全部解るからね。


「確かに、使ってる人は多いですよね」

「はい。お好みのデザインの水着を着るために使われる方もいらっしゃいます」


 まるっきり、あたしのことだった。もしかしなくても、あたしのために勧めてくれてるんだ。


「じゃあ、あたしも使ってみます」

「当店にも商品がございます。こちらです」


 あたしは、店員さんに連れられて初めての買い物をすることになった。






「カナちゃーん」

「美海。終わったの?」

「うん」


 あたしが会計まで済ませてカナちゃんを探しに戻ると、カナちゃんはまだ悩んでいるようだった。


「ちょうど良かったわ。どっちがいいか、見てくれないかしら」

「いいよー」


 一応、2つまでは絞ったらしく、カナちゃんは2着だけ持って試着室へ入る。ごそごそと聞こえた後、内側からカーテンが開かれる。


「1つ目はこれね」

「oh……」


 1つ目とやらは、よくあるような形状のビキニで、カナちゃんは少し胸元がキツそうにしている。なんか、大人っぽい黒のデザインで、元々大人っぽいカナちゃんがすごい事になってた。説明するにはあたしの語彙ごいでは足りない。


「い、いいと思うよ、ちょっとキツそうだけど」

「そうね……」


 カナちゃんは胸部分の生地を引っ張って調節を試みる。その度に胸が形を変えたり震えたりするのが本当によろしくない。とてもいかがわしい。


「カナちゃん、人目もあるから」

「あら、それもそうね」


 カナちゃんは1度カーテンを閉めて、またごそごそし出す。こういうのを気にしないのは勘弁してと、心から思う。性格なのは解るけどさー……。


 やがてまたカーテンが開く。


「うわっ!」

「なによ……」

「い、いや、すごくいいなーと思って」


 あたしがつい声を上げてしまった水着は、こちらもビキニだけどハイビスカスが描かれた南国系というかハワイ系なデザインのもの。腰にはパレオもあって露出は減ってるけど、さっきのよりあたし的には好みだった。


「そう?少し海を意識しすぎたと思ったのだけれど」

「あたしはそっちのが好きかな。それに、海に行くんだしいいんじゃない?」


 カナちゃんはちょっと回ってみたり、鏡を見たりした後、


「なら、これにするわ」


 と言った。






「カナちゃん、急に付き合ってもらってありがとね」

「いいのよ、海に行くなら私も水着は新しい方がいいもの」


 あたし達はデパートからのんびり歩いて帰る。デパートによくある、アイスの自販機で買ったアイスを食べながら。もう時間的には夕方だったけど、日が長くなっているからまだまだ明るかった。


 今日は楽しかった。2人でお買い物したのもなんだかんだ久しぶりだったし。


「それより美海、海に誘う人には早めに連絡しないとダメよ」

「あ、忘れてた!カナちゃんも誰か誘いたい人いる?」


 あたし達は、海水浴の予定を立てていく。カナちゃんにとっては、高校生として最後の夏休み。だからってわけじゃないけど、「カナちゃんにとって」楽しい日に出来たらいいな。そうしてあげたいな。泊まりなんかもいいかな。あたしは、そう思っていた。






小さな豆知識その22


「もしもしみーちゃん?」

「美海さん、ナイスタイミングですぅー」

「ん?何か用事あったの?」

「バーベキューしましょぉー」

「それは……都合いいかも」

「どうしてですかぁー?」

「うん、あのね……」





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