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閑話「7月8日、水曜日」



小さな豆知識その19


白澤 美海は料理が出来るが、自分で作るより奏に作ってもらう方が好みである




 




「ケント、飯食おーぜ」

「んー?あぁ」


 僕、鹿野かの 絢斗けんとは、友人の前田まえだと昼飯を食うことになっていた。あるよな、友達の中でも「昼飯メンバー」みたいなやつ。


 昨日期末テストが終わったせいか、教室の空気は明らかに抜けたものだった。ま、その内受験だなんだでピリピリしてくるんだし、今くらいはいいだろ。


 僕と前田は机をくっつけて弁当を広げる。僕は母さんの作った弁当、前田は今日はコンビニおにぎりだった。


「なんだ、おにぎりか」

「3個だ」

「ふーん」

「哀れなら俺になんか分けろ」

「やだね」


 そんな、他愛もない会話をする。別になんてことはない。普段の友人との会話なんてこんなもんだろ?


「あー、そーいやよ」

「ん?」

浅海あさみの噂をちょっと聞いてな」

「会長の噂?」


 前田は会長が教室にいないことを確認している。こいつは僕が会長を好きなことは知らない。……ついでに、僕はあの日フラれたのかどうかも、よく解らない。会長に訊くのもちょっとな……。


「噂なんて噂に過ぎねえけどよ」

「まあな。噂なんてほとんど嘘だろ」


 前田は声を潜めて、顔を寄せてくる。噂とはいえ、やっぱり普通配慮はするよな。


「浅海は、レズだって話だ」

「ふーん」


 あながち間違った噂でもなかった!興味無さそうにしたけど、それは僕が知ってるから。会長は別に男に一切興味が無いわけじゃなくて、今好きな人が女なだけだ。


「なんだ、リアクション薄いな」

「会長、彼氏とかいないからそういう噂になったんじゃねーの?」

「美人だし、頭もいいし、金持ちらしいし、おっぱいもでけえから、告白してる奴は多そうだよな」

「そ、そうだな」


 僕もその1人だ、とは言えない。そしてこの程度の噂なら、会長が知らないはずはなかった。知っててほっといてるんだろうな。……でも一応後で報告しとこう。


「あ、あとおっぱいと言えばよ」

「お前それどんな話の繋げ方だ」

「浅海と最近仲の良い、ロリ巨乳の1年がいるらしいな」


 あー、これは空野そらのさんのことだな。正直僕も彼女のことはほとんど知らない。会長曰く、ワケアリで男とは目も合わせられないらしいけど、僕とは辛うじて会話が出来る。


 でも空野さんは僕と話す時も緊張でプルプル震えてるし、僕が声を発する度にビクッとするからかなり気を遣う。会長からはリハビリさせるつもりで話してあげて、と言われたから時々話すけど。


「それは会長の友達」

「そうなのか?俺あっちの方が好みだな」

「あっそ」


 前田はガタイが良いから、話が出来る距離に近付いただけで逃げられそうだ。


「ケント、お前今日は反応が薄い!」

「いや僕生徒会だし。会長関係の話は知ってたりするんだよ。お前のチョイスミスだね」

「んだよ……あ、今日お前ん行くからな」

「それは別に良いけど」


 こいつが僕の家に遊びに来ると言えば、最近はゲームの攻略だ。別に1人でも出来るけど2人でやる方が楽しいし。……といっても、僕は1人でクリア出来るから遊ぶだけだけど。






「おじゃましまーす」

「今日は多分7時まで誰も帰ってこないから」


 だからと言ってずっと遊んでいいわけじゃないけどな。僕は前田に釘を刺しながら家に上げる。まっすぐ2階の僕の部屋へ。


「ソフトは入ってるから準備しといて。麦茶持ってくる」

「おぉ、サンキュー」


 下へ降りて、コップと麦茶を用意して、トレイ……あれ、いつものとこに無いな。あ、洗ってたのか。拭いて使お。


「お待たせ」

「おう」


 前田は、ステージを選ぶ直前まで準備していた。最近僕達がやってるゲームは、兵士を操作して、様々な銃を使いながら敵を倒したりミッションを進めるゲーム。ステージ制になっている。


「ん?結構進めた?」

「あそこ抜けたらしばらく簡単だったわ」


 前田は行き詰まると僕の家に来て、僕に攻略を教わりながら進める。そして家に帰ったら1人でクリアするのだ。前田が特に行き詰まってない時は、クリア済のステージを遊んだりしている。


 僕達はゲームを開始する。画面が2つに分割され、僕の兵士が先を歩く。


「最初は普通に倒してくだけ」

「ここ数が多いからキツいんだよな」

「2人ならともかく、1人プレイは1人ずつ敵をおびき寄せた方が良いかな」


 今は2人プレイだから協力して倒していく。


 攻略済だし、2人プレイで思考に余裕があるせいか、僕はなんとなく昼休みのことを思い出した。会長がレズだ、なんて噂の話。


「なあ、前田。お前はさ、会長がホントにレズだったらどう思う?」

「なんだ急に、っとと。浅海がレズだったら?見てる分には良いんじゃねえの」

「見てる分には?」

「関わりたくはねえな。マジもんだったらさすがに引く」


 僕は、軽くショックを受けた。関わりたくはないけど、見てる分には構わない?なんかそれじゃまるで「見せ物」扱いじゃないか。


「いや、引くってお前……そこまで言うか?あ、そこ罠あるから気を付けろ」

「あいよ。……恋愛ってのは男女でするのが普通だろ、そうじゃねえやつはどっかおかしいんだよ」


 そりゃ、確かに「普通」じゃ無いかもしれないけど……。なんだ、僕の感覚がおかしいのか?前田は「当たり前」みたいな口調で言っている。


「非難するのか?」

「非難はしねえけど。別に本人達の勝手だしな。けど、本当だと知ったらそいつを見る目は変わるだろうな」

「そこでサーチライト壊しといて。……どう変わるんだ?」

「OKOK。……そりゃ、「珍しいもの」だとか、「ちょっとヤバい連中」だろ」

「は?……あ、いや、ごめん」


 ……僕は、勘違いをしていたのかもしれない。僕自身は、恋愛は好きな人同士がすればいいと思っている。


 僕はゲームだけじゃなくて、アニメもマンガもライトノベルも好きだし、そういう作品の中には「同性愛者」とか「女装男子」とか「変態的な性癖の持ち主」とかが普通に出てくる。


 創作物の中ではそういう人達も主人公やその仲間に受け入れられたりするものだけど、現実はそうじゃない。それは解っていたつもりだ。


 でも違う。創作物にだって、描写されないモブキャラがたくさんいる。彼らの多くは、そういう「変わった人達」に近寄らないから描写されないんだ。……関わりたくないから。


「なんでそんなこと訊くのかわかんねーけど」


 前田がゲーム画面を見たまま言う。


「俺はお前がホモだとしたら、恋人にはなってやれねえ。けどまあ、友達くらいなら続けてやる」

「ん?さっきと言ってること違わねえか?」

「そりゃ違うだろ、さっきお前が言ったのは浅海の話で、俺が言ったのはお前の話。俺にとっちゃ浅海はどうでもいいんだよ」


 ……人間は、「自分が大事に思う人」のことしか気遣えないのかもしれない。手の届く範囲しか、気にしてられない。


 知らない他人のことなんて、興味もないし、どうなろうが知ったこっちゃない。それが普通。


 僕だって、遠い場所でイジメに遭って自殺してしまった子のニュースを見ても、泣いたりはしない。名前すら見てない。でも、家族は深く悲しんだだろう。それと同じことだ。


 普通ではない人を見た時、自分が普通であるか不安になり、他人に共感を求め、安心する。でも、普通ではない人は辛い思いをするだろう。それと同じことだ。


「僕はホモじゃないけど、ありがとな」

「なんだ気持ち悪いな」

「うっせ」


 僕も、自分を差し置いて他の人を気遣っていくなんて到底無理だ。やっぱり自分を犠牲になんて簡単には出来ないし、僕では手の届く小さな範囲しか守れない。


 ……でもせめて、僕に余裕がある時くらいは、他の人が大事に思う世界を壊さないように。それくらいなら、僕にも出来るのかな。そんなことを思った。






小さな豆知識その20


鹿野 絢斗は同性愛者ではないが、「男の娘」には弱い





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