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二つの愛  作者: 秋野清香
3/3

3つめの愛

みっちゃん。ごめんなさい。電車が遅れているのであと10分後に待ち合わせ場所に到着します。先に注文しててください。


大学時代からの友人である愛は、自分が約束の時間に遅れたり相手に迷惑をかけてしまうことについてのメールは必ず敬語で送ってくる。

日常生活で他人との関わるときは相手を不愉快にさせないように、自分の落ち度で迷惑をかけないよう万難を排しているがゆえに理不尽なことで謝罪を求められるビジネスライクな謝り方しかわからないようだ。


私は愛からのメールに従い、待ち合わせ場所のカフェで先にコーヒーを頼んだ。

待ち合わせ時間は15時半だが愛が到着したのは15時45分だった。


「みっちゃーん、遅れて本当にごめんなさい。10分の遅れのつもりだったの15分も待たせちゃった。お詫びにデザート奢らせてね」

髪をゆるりと巻いて、白いシャツにベージュのフレアスカートを身につけた愛が入ってお店に入ってきた。


「じゃあ、チーズケーキ頼もうかな」

「私もチーズケーキとコーヒーにしようっと」

「昨日電話でトモ君から相談があって、愛がプロポーズ受けてくれないって泣きつかれたけど。正人さんと結婚してることは伝えてないから。プロポーズ受けない理由は愛から説明しなさいよ」

ニコニコとメニューを見て注文する愛は私は今日どうしても伝えたかったことをいきなり切り出した。


愛は学生時代から付き合っていたトモ君がいながら、何年か前にお見合いで知り合った正人さんと結婚した。式は挙げずに家族同士の顔合わせのみにしたので友人の中でも愛が結婚したことを知らされてるのは私だけだ。


結婚した後もトモ君と住んでいたマンションでトモ君と暮らしながら正人さんとの結婚生活を始めたことには驚いた。

理由を尋ねると、結婚はしたかったがトモ君は結婚の意思がないのでお見合いで相手を見つけた。別にトモ君が嫌いになったわけではないし会社に近いマンションは維持するからトモ君には出て行ってもらわないだけ。トモ君が出て行きたいというなら止めないけど自分から伝えるのはめんどうだからという私には全く理解できないものだった。


愛は世間体を重視する人間であることは学生時代から知っていた。ただ長く付き合ったトモ君と自然な流れで結婚できじ仕事に忙殺されだした時期から目的のための手段と思考が奇妙にねじ曲がってしまった。


「プロポーズ断ったのはひと月も前なのにみっちゃんに相談持ちかけてたなんてトモ君けっこう本気で言ってくれてたのね。嬉しい。もう結婚してるからプロポーズは受けれないけどどうやって伝えようかなぁ。結婚してることを伝えて揉めるのは嫌なの」

「自業自得でしょ」

「みっちゃんは昔と変わらず本当のことしか言わないね。大好き。私は嘘つきではないけど本当のことを言えないから。今回は会社の転勤でシンガポールに行くことにしたからそのことを理由にしてプロポーズも断って別れることにする」

「シンガポールに転勤って正人さんとの生活はどうすつもりなの」

「私の担当役員が香港も担当するから付いてくけれど、役員は一年で本国のアメリカに戻るから香港にいるのは一年だけなの。一年だけ単身赴任するの。一年後には日本に戻ってくるつもり。正人さんは了承ずみ」

運ばれたコーヒーを飲みながらなんの罪悪感もなく愛は答えた。


大好きなトモ君と早く結婚したい。派遣社員ではなく安定した職についてほしいと泣きながら私には相談してきた愛を思い出す。

トモ君は結婚つもりは今はないって言うの、私は結婚せずに死ぬまで添い遂げることはできない。あなたとずっと共に生きるという契約を誰かと結びたいの。

トモ君は好きだけどこのままトモ君と一緒にいたら私は将来が不安で生きていけない。

わんわん泣いていた愛は、正人さんと結婚してからはいつもニコニコと笑顔だ。

無邪気を装った完璧な笑顔でトモ君にも別れを告げることができるだろう。


トモ君と死ぬまで一緒にいたいと無邪気に告白した学生時代の笑顔ととても似ているけれど、とても邪悪だ。

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