ヘビーな初日
主人公は一般人です。
おかしな夢から目が覚めたと思ったら、目の前は海だった。
・・・ん?どこだろう、ここは。
どうやら俺は岸壁に腰掛けているようだ。・・・って。
「ひっ・・・うへぁ!?」
情けない声を上げながら、後ろに背中から転がった。いや、気付いたら岸壁って死ぬ一歩手前じゃねえか!初手ミスったら約15m下の海に真っ逆さまだぞ!
なんなんだよ!マジでどういう状況なんだよ!?
1時間ぐらい経ってから、ようやく落ち着いて辺りを見回すことが出来た。最初はガクブルするしか出来なかったが、今ならまぁ冷静に周りを観察するぐらいは出来るだろ。
とりあえず目立つのは海。もう圧倒的存在感でもって俺の眼前を支配してる。
振り返れば野原。これを野原と呼ぶのか草原と呼ぶのかは知らないが、そんな感じのが広がってる。道?みたいな何かしらが通った跡がある。
これが夢か現実かは分からないが、明らかなリアル感は無視できるものじゃない。
俺だって数十年前から未だに続く「異世界転移モノ」のネット小説を読んだりしてるんだ。今の状況がそれに類似するもんだとは思う。だからと言って、「うわぁ異世界だぁ、やったぁ!」みたいなアホみたいな感想は出てこない。これが夢でも現実でも色々ヤバい。夢ならかなり病んでるし、現在ならマジでヤバい。
これがマジの異世界転移なら、俺はあまりに無力過ぎる。こんな急に異世界に飛ばされて、平然と生きていけんのは俺が知る限り『天下三武』ぐらいだろう。普通の格闘技経験者ぐらいじゃマズいと思われる。
だけど、いつまでもこの場でウダウダと留まってる訳にもいかねぇ。とりあえずは人に会わなきゃ話にならん。・・・が。
「どっちだぁ・・・?」
既に半泣きだがこれは仕方ないだろう。道らしきものは、右と左に伸びてるんだが、どちらの先にも建物らしき物体は見えない。少なくとも、数時間は歩かされるみたいだ。まぁ学校の授業で体力だけは十二分に鍛えられてっから、歩くだけなら問題はない。
問題は食料と水。
なぜか俺は手ぶらだから、何にも持っちゃいない。異世界転移モノならこういう時、何かしら役に立つもんが手元にあるはずなんだが、腕時計の一つも身に着けてねぇ。
「進まないことには始まらない、か。」
無い物ねだりをしても仕方がない。俺の運に賭けるしかないな。唸れ!俺のラッキースター!
ってことで左に進んでから約3時間。そろそろ心が折れて膝から地面に突っ伏しそうになったところで、初めて声を聞いた。人と・・・獣?
目の前には下りの坂道。その先に馬車と馬車を守る人達。
もしかしてこれは。テンプレでいくなら、俺が颯爽と助けに入ったら実はどこぞの王族のお姫様で、感謝されて王宮にスカウトされる場面だろこれ!
まぁそんなはずは無いけどな!何故なら俺にはそんな力はねえ!
襲ってるのは身の丈3mはあろうかという一つ目の怪物・・・サイクロプスってやつか?馬車を守るのは特に目立ったところもない装備の人間6人。イメージで言うなら冒険者集団って感じだ。そこそこ強そう。でもサイクロプス(仮)には劣勢。あと数十分で壊滅するだろうな。
勿論助けになんて行かない、いや行けない。だって明らかに冒険者集団の方が俺より強そうだからだ。あの人たちが勝てないなら、俺も勝てない。
とか色々考えてたら、向こう側から1人の女が走ってきた。艶やかな金髪にキリッとした眼差し。細身の身体に、豊かな胸。手には何やら凄い力を秘めてそうな細い両刃剣。
彼女は走り寄るその勢いのままサイクロプス(仮)に斬りかかり、サイクロプス(仮)の右腕を切り落とした。
・・・はぁ!?いやいや有り得んだろ!言っちゃ悪いが、だだ武術をかじっただけの俺でも分かるぐらい、芯もブレブレで腰も入ってない一撃だったぞ!?なんであれで丸太みてーな太さの腕を切り落とせるんだよ!意味がわかんねぇ!
そんな感想を抱いている間に、サイクロプス(仮)は足も首も切られて絶命していた。落ち着いた今の状況なら大丈夫だろうか?とりあえず助けを求めてみようと大声を張り上げる。
「あっ・・・あの、すいま」
ゴッと鈍い音がして俺が宙を舞う。背後からの一撃で受け身も取れず、坂道を無様に転がっていく。
俺の声と、打撃音に気付いた冒険者集団と金髪美女がこちらを見ながら警戒している。
坂の上から現れたのは黒色のサイクロプス(仮)。さっきのサイクロプス(仮)よりも遙かに強い圧力を放っている。
黒プス(命名)を視界に入れた瞬間、金髪美女は駆けていた。持つ剣には薄金色の渦を纏っていて、剣を振るうと薄金色の斬撃が黒プスへと飛んでいった。
斬撃は命中。肩から腰にかけて切り傷を受けた黒プスは、それでも止まらない。
手に持つ丸太を振りかぶる。金髪美女が飛翔する。丸太を振り下ろす。両刃剣を振り上げる。交差する。相手を殺す。そして・・・。
騒ぐものが居なくなった草原のド真ん中で俺達は邂逅した。