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トリュフリゾット

大鬼種(オーガ)のヨセフは人里に近い山の中に一人で住んでいた。

鋭い牙と額から生えた一本の角、2mを超えるヨセフの体躯をみた人々はそろって逃げ出してしまい、いつも寂しく過ごしていました。

友達は森の動物たちだけです。


時々、山から人里の近くに降りては人々の生活を覗き見ては一喜一憂し、寂しさを募らせる生活がもう10数年続いていました。


そんなある日。

山の中で一匹の豚鬼種(オーク)の男が行き倒れていました。


ヨセフは久しぶりに見た人型種に驚きましたが、すぐに近づき男の容体を確認しました。


脈はある。

息もしている。

大きな怪我はしていないようだ。


手には山の土中からとれる良いにおいがするキノコを握っています。

この匂いに当てられてしまったのでしょうか?

どうしてよいかわからないヨセフはとりあえず家に運ぶことにしました。


運んでいる途中、豚鬼種(オーク)の男からは色々なにおいがしました。

甘いにおい、しょっぱいにおい、辛そうなにおい、山の中で捕れる香辛料のにおいも混じっています。


もしかするとこの男は、村に時々来る行商人なのかもしれない。

そうすると、ヨセフのことも聞いていて、起きた瞬間に驚いて逃げ出してしまうかもしれない。


そう思うと悲しくなりましたが、そのままほっておいてしまうと森の獣や魔獣などに食べられてしまうかもしれないと思うと

嫌われても驚かれても男を家に連れていかなければならないと強く思いました。


家に着くと、すぐさま葦で作ったベッドに寝かせます。

豚鬼種(オーク)の男の身体を調べてみますが、目立った外傷もなくやはり怪我はしていないようです。

額に手を当てて熱を測ってみますが、高くも低くもないようです。


すると



グキュルルルルウウウウウン



豚鬼種(オーク)の男から盛大に腹の虫が鳴きはじめました。


おなかが減っているからだ!


原因がわかったヨセフは豚鬼種(オーク)のために料理を作ることにしました。

お客が来たらいろいろもてなそうと張り切っていましたが、きっと今の豚鬼種(オーク)の男には食べきれるとは思えません。


なにか消化に良いものがいい!

そして栄養があるものがいい!


シチュー!では重たすぎる。

リゾットにしよう!


料理が決まったヨセフは早速支度にとりかかります。

塩漬けした川魚と干し肉を細かく刻み、たっぷりのお湯で出汁を取ります。

出汁が出る間に、森で捕れたマッシュルームと舞茸、玉ねぎをみじんに切りさっと炒めておきます。


そこに自分で育てた自慢の米を加え、すこし炒めます。

軽く火が通ったのを確認して、米が少し隠れるぐらいに出汁を入れ煮ていきます。


水分が少なくなるたびに出汁を加えて、時々米の状態を確認。

米に芯が残るぐらいがヨセフの好みですが、腹が減って倒れた男には柔らかいほうが良いとすこし柔らかくすることにしました。


しばらくコトコトと煮立て、最後にヤギの乳で作ったチーズを加えて出来上がり。



ガサリ


ベッドのほうで音がしました。

振り向くと豚鬼種(オーク)の男が料理をしているヨセフをじっと見ています。


「人食い鬼と聞いてたが、どうやら違うみてぇだな。

 なかなか美味そうな匂いだ。」



「おっおっおれ・・・」


久しぶりに言葉を出そうとしましたが急なことでヨセフの舌は上手く回りません。

驚かせてしまうのも怖いので、黙ってリゾットを皿によそい両手で手渡すことにしました。


「喰え。」


豚鬼種(オーク)の男はヨセフにこたえるように両手で皿を受け取りました。

フンフンとニオイを嗅ぐと、


「一味足りねぇな。

 あんたも食うんだろ、料理人の俺が一味加えてやるよ。」


ギュルギュルと腹の虫が鳴いていますが、口をつける様子がありません。

ヨセフは自分の分もよそうと、恐る恐るベッドの脇に座り込みます。


「聞いてた話とはだいぶ違うぜ。

 こんな対応されちゃぁ、俺が人食いみてぇじゃぁねぇか。」



豚鬼種(オーク)の男は困った顔をしながら、行き倒れていた時に持っていたキノコを鋭い爪で削ってリゾットに振りかけていきます。

あのキノコは良いにおいがしますが、食感が良くなくあまり美味しくはありません。


そのキノコがリゾットに降りかかり、熱が入った瞬間に良いにおいがとても強くなりました。

これほどの香りなら、癖の強いヤギのチーズの味にも負けないはずです。



『グキュルルルルルン』



腹の虫が一緒に鳴いて、リゾットを要求したあと二人はがつがつと料理を食べ始めます。



軟らかめに煮た米が噛むほどに肉と魚とキノコの出汁を口の中を蹂躙します。

鼻から抜けるトリュフの香り。

ヤギのチーズのコクはあっさりとした出汁の味に深みを持たせてくれます。


皿が二人同時に空になり、ヨセフが皿を受け取って新たな分をよそうとまた二人で食べ始めます。

お客が来たら色々とお話をしたいと思っていたヨセフですが、こんな風に食事をするのもとても楽しいことだと知りました。


もっとこの時間が続いてくれたらと思いましたが、もうリゾットは終わってしまいました。


「料理人の一味もなかなかのもんだろ?」


豚鬼種(オーク)の男はキレイになった皿を見ながらニヤリとヨセフを見ます。


「助けてもらっといて虫がイイが、よければちょくちょく遊びに来ていいかい?

 

 そん時はオレがお返しに料理を作ってやるぜ。

 いいトリュフも見つけたしな。」



ヨセフは嬉しくて嬉しくて思わず雄たけびをあげようとしましたが声がでず、ただただ目から涙がハラハラとこぼれてきました。

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