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りんごあめ

「どうすべぇ・・・・」


農夫のボルガは目の前に広がる光景に茫然と立ち尽くしてしまった。

彼の持つリンゴの果樹園は昨晩の急な大風により壊滅的な被害をこうむってしまった。

無事なのは3割といったところだろうか、そこかしこに未成熟で青々とした小さなリンゴが転がっている。


「ある意味、すがすがしい眺めだなブヒヒヒヒ。」


昨晩、馬小屋を貸したオークの男の言い分に腹が立つ。

笑いごとではない。

今日明日、どうにかなるということではないが来年を迎えられるかどうかという瀬戸際だ。


「とりあえず、傷のなさそうなもんだけでも拾わにゃぁなんめぇ。」


一個一個拾い上げて傷の有無を確かめ、選り分けていく。

流行病で死んでしまった両親から受け継ぎ、ようやく軌道に乗ってきたところでこの仕打ち。

神も仏もないものか・・・


オークの男も手伝ってくれて、どうにか昼前には回収を終えることができた。

収穫用の木箱で50箱ほど。

これがちゃんと収穫できていれば200箱になっていたことを思うと被害の甚大さに涙が出る。


そんな横で箱からリンゴを取り出し、一口で平らげてしまったオークの一言。



「すっぺ。」



そう、すっぱいのである。

まだまだ未成熟な青いリンゴ。

リンゴの形を成してはいるが子供の握りこぶしほどの小さなリンゴ。

アプフェルクーヘン(リンゴのケーキ)にするにしても量が多く、手間暇と材料費、ボルガの料理の腕を考えれば売り物になるものを作るのは難しい。



「どうすべぇ・・・・」



回収が終わり、再度現実を突きつけられると気が抜けてしまったのか腰が砕けたように座り込んでしまう。



「運がいいぜぇ、お前さんは。

 ちょうど試してみたいことがあるんだが乗るかい?


 それならこのリンゴを銀貨50枚で引き取ってやるよ。」



「ほんとうけ?

 その値段なら願ってもねぇが、そんな金をあん・・」


ボルガが言い終わらない内にオークは腰の袋に手を突っ込み、目の前に金をそっと置く。


「ちょいと懐があったかいんでね。

 さて、市場が立つまであと3日だ。


 働いてもらうぜぇ ブヒヒヒヒ。」






3日後の隣町の市場でボルガは声を張り上げていた。


「さぁさぁお立合い!

 ご当地初のお目見え菓子、リンゴあめだよ!


 お代は銅貨1枚だ。」


オークの男から作り方を習ったリンゴあめの作り方はごく単純。

鍋にちょっとの水と砂糖を入れて煮込んだ汁を、片手で持てるように木の棒を刺したリンゴに絡めて自然に冷やすだけ。


ただ煮込んだ汁の粘つき度合のコツさえつかめば誰にでもできそうだ。

声を張り上げながらも、どんどんリンゴあめを作っていく。


都合30ほど作り置きができるが、その間に声をかけたりするものはいない。

遠巻きに見ている子供連れもいるにはいるが、リンゴの大きさを見ればあれが酸っぱいとわかってしまうのだろう。


そんななか、一人が進み出てくる。

客がつかないようならと示し合わせておいたオークの男だ。



「どうかいちまいであまいものがくえるのかー、ひとつもらうぜー」



恐ろしいほどの棒読みでリンゴあめを買うオーク。

受け取り、ジャリっと一口齧ったあと残りを口内に放り込みバリバリと音を立てて噛み砕く。



「甘い!そして酸っぱい、だけど甘いっ!!!


 周りの薄いあめの下は酸っぱいリンゴ。

 だがっ!それがイイっ!


 酸味が甘みを、甘みが酸味を引き立てるっ!


 そのまま舐めて、甘さに飽きたら酸っぱいリンゴをかじって口の中をさっぱりさせる。

 するとまた飴をなめたくなる不思議!


 それにこの飴の薄さからくるパリパリとした食感に若いリンゴのシャリシャリした食感。

 一緒に喰うと飴の甘みと、リンゴの酸味が渾然一体となって得も言われん!


 まるで寄り添う恋人のよう!

 こいつはまさに愛のリンゴ(ポム・ダムール)


 親父!もう一つ、いや二つくれ!」



     「こっ、こっちにも一つ試しにくれ!」



 「おじちゃん僕にもっ!」



                 「わたしはふたつもらうよ!」




遠巻きに見ていた人たちも、強面のオークが絶賛したことで興味をそそられ、一斉に押し寄せてくる。

どうやら用意していたものは全部売れそうだ。


約束も守れ、農閑期の商売も手に入れられたようだ。

いつの間にかいなくなったオークに感謝をささげながらボルガは、こんな運命を運んでくるのなら神や仏に祈ってもいいなと思い始める。


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