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第三十九話

 使っていたPCが壊れた関係で執筆どころか、インターネットも使えない状況にありました。

 少しでも気にかけていた方がいらっしゃったら、連絡が遅れてしまって本当に申し訳ないです。

 一応、詳しいことは活動報告の方に書いておきます。


 今回は生存報告も兼ねての投稿なので、普段よりかなり短い内容ですがご了承いただければと思います。

 ※なお、この前書き部分は日を置いた後に削除します。

 早朝のことだった。学園地下の秘密の場所にその叫びは響き渡った。


「こらぁあああぁあ! ロン、待てぇえええええ!」


「ひぇえええええ! 待って、アヤちゃん本当に待ってぇええええ!」


 アヤの怒りを孕んだものと、ロンの切実さが込められたものだ。

逃げる側の必死さから分かるとおり、これはただの追いかけっこではない。追いかける側の手に握られたものが原因だった。


「アヤちゃん! 武器は駄目だって! 死んじゃう、冗談抜きで死んじゃう!」


「今日という今日は許さん! 刀の錆にしてくれる!」


 二人のやり取りを言葉だけ抜き取れば、生死に関わる危機的な場面である。しかし、実はアヤの持つ物が木刀なので、そうでもなかったりした。刀と言っているのは、興奮する彼女がそう口走っているだけなのだ。

もっとも、木刀と言えども武器であることに変わりはないのではあるが。


 コウは太い木の根に腰掛けて、それを見守りながらぽつりと呟く。


「あいつら、朝っぱらから元気だな」


 それに反応するのは、はらはらした様子で同じく隣に腰掛けるリーネだった。


「こ、コウ、止めなくていいんでしょうか……?」


 リーネは今にも飛び出しそうだが、コウがすでに引き止めた後なのでそれは実行されずにいる。

彼女なら支援魔術を使って二人の間に割って入れそうだが、それは思わぬ事故に繋がりそうなので、留めさせているというわけである。


「平気だろ。仲良しがじゃれ合ってるだけだ」


「それにしては、アヤの様子がいつも以上のような……」


 そう返されてコウは少しだけ考える。


 今回、ロンとアヤが駆け回っている理由。それは別段複雑な事情があるわけではない。

 部室確保のために、いかがわしい店を連想させるようなやり方をした。それが追いかけてる側の彼女に知られてしまっただけの話である。

 彼女は自分自身のこともそうだが、それ以上にリーネの身を売るような行為に激怒していた。護衛役であることを置いて考えてもリーネのことを慕っている彼女なので、ある意味この反応は当然といえば当然のことだろう。


 しかし、そういった事情を加味した上でも、コウの結論は変わらない。


「まぁ、今回ばかりはアヤも結構怒ってるみたいだが、あいつも頭では理解してるはずだ。やり方を選んでいたら部室は手に入らなかったって」


 感情と行動が直結する彼女とて、そういったことが判断できないほど馬鹿ではない。感情面での情動を抑えるために、ああしているに違いなかった。


「八つ当たり、と一言で処理するには難しいけどな。ロンのやり方が褒められたものではなかったのも確かだし」


 コウは使えるものは何でも使う主義だが、行動を起こすということは、他者の感情の機微に触れることがあることを最近になって学んだ。


「コウ? なんですか、じっと見たりして……」


「いや、なんでもない」


 そして、時に感情は論理に勝ってしまうことがあることも。

だからこそ、コウはアヤを止めないし、同じようにロンを責めたりはしない。意見が対立するならぶつかり合えばいいのだ。


「ロンさんは部室のために苦渋の決断をしたのかも知れなのに……」


「だろうな。そしてだからこそ、ロンも責められることは分かっていただろうよ。黒か白かで言うところの灰色なやり方だったからな」


 彼も覚悟していたからこそ、悲鳴を上げても言い訳はせず、アヤの感情の発散に努めているのだ。流石に木刀と打ち合うことはできないようだが。


「……それを分かっていて、コウはロンさんの味方をしないんですか?」


「あいつが覚悟の上でやったのなら、俺は黙ってるさ。……流石にじゃれ合いで済みそうになくなったら止めるけどな」


 視線の先では木々が根を張る空間を走り辛そうにしながら、二人が休むことなく駆け回っている。始めた時から絶えない怒声だが、少しずつ力を失ってきているように思えるのは、気のせいではないだろう。


「…………分かりました。私も待つことにします」


 リーネは考える時間を置いた後に、難しい顔をしながらではあるが、自分を納得させたようだった。

 コウはそれに一度頷くと、目を走る二人に向けたまま話題を変える。


「さてと、部活のことを少し話しておこうか」


「はい」


「まず、根本的なところからおさらいをしよう。俺達の部活、学園不思議調査部は、学園に存在する不思議……まぁ、噂とかだよな……それを調べて、結果を学園内に流すのが主な活動内容になる」


「情報流通部、探偵部とやることは似ていますね」


「そんな部があるのか……それは置いといて、要は噂などを調べて紙にまとめ、掲示板に張り出すってことになるわけだ」


「情報流通部は学園にある情報の真偽は分からなくても、とりあえず公表してしまうらしいですから。私達は一部を限定して詳細に調べることが違いになるんでしょうか?」


「……情報流通部ってかなり賛否両論な部っぽいのな。……うちの部に関しては、リーネの言うとおりだろう。昨日部室でフィナーリル先生が言ってた限りだと、情報を流すことに関しては掲示板に張り出すので問題なさそうだな」


「そうですね。紙に関しては、部費が正式に下りたら先生が用意してくださるそうです」


「お、もうその辺は話しておいたのか。偉い偉い」


「あ、ありがとうございます」


「張り出すには学生執行会の認可印が必要って話だったが…………その前に、まずはその内容を確保しなくちゃ話しにならないよな」


「許可を貰おうにも手ぶらではいけませんもんね」


「となると、公表は良いとして、考えるべきことの焦点は調べ方か」


「調べる対象も重要になってきますね」


「だなぁ……正直、普段から関心がないから、今どんな噂が学園内に流れてるのか分からないんだが」


 コウがそうぼやくと、どうしたのかリーネがくすくすと笑う。目で問えば、彼女は慌てながら口を開いた。


「あ、ごめんなさい、笑ったりして」


「お前が笑顔なのはいいことだが、その理由が分からない」


「え……えぇっと、その、笑ったのはですね……」


 コウの前半部分の言葉に照れた様子を見せた後に、リーネは目を少し細める。


「噂に関心を持たないコウだからこそ、私と仲良くしてくれてるんだなって思って……」


 そう言って、それがまるで幸せなことであるかのように、彼女は穏やかな顔をした。


 コウとリーネは普通から外れた出会いをした。

 その際に、リーネには様々な噂が取り巻いていたことから一悶着あった。けれども二人はそれを乗り越えた先として、現在友という間柄である。

 コウはそのことを指しているのだろうと察した。例え噂のことを知っていても、友人になったと胸を張れるが、わざわざ口に出すことでもないかと思ったので、代わりにコウも緩やかに表情を崩す。


「お前はいいやつだった……それだけのことだ」


「ふふっ、私はコウが優しいからだと思ってますけどね」


 その返しにこれ以上は言っても無駄だと思い、コウは無理やり話を元へ戻す。


「……それで、噂に関してだが、リーネは知ってることあるか?」


「私はコウも知っての通り、あまり知り合いがいませんから……。人が話しているのを少し耳にしたくらいはありますが、部として取り扱っていいものか分からないものばかりです」


「ああ、なるほどな。じゃあ、どの噂を調べるか考えても仕方がないな」


 コウは頷く。噂に関心がない少年と噂を直接仕入れることのない少女。話していたことは、この二人が決められることではなかったのだ。

 アヤもリーネのほどではないだろうが、噂を聞くことは少ないだろう。ならば、唯一噂についていろいろと知っているのは、ロンただ一人になる。その彼も今は逃亡の身なので、話は後にするしかない。


「そうなると、次の話をするとして……調べ方についてか」


 調べる対象によってやり方が変わる可能性はあるが、共通の方法というものはあるだろう。

 聞き込み、現地調査、検証。

 最低でもこれらは何を調べるにしても、行うことに違いない。


「他二つはともかく、聞き込みか……」


 コウは頭の中で部活メンバーを顧みる。


 暴力は振るわないものの教師達から不良認定されている劣等生の自分。

 事実無根ながら悪女と名高い優等生の少女。その彼女に付き従う感情で動く暴走少女。

 そして女の子が大好きで軽薄なやつと見られがちな少年。


 こうして言葉として並び立てると非常に濃い顔ぶれである。

 後半二人はともかく、前半二人は交渉なども含まれるだろう聞き込みは、少し難しい行為であるように思えた。


(俺は別に何を言われようと問題ないが、リーネはそうじゃないからな。分かっていて傷つくこともないし、暫くはリーネを抜いた三人で聞き込みをした方がいいだろうな)


 悪口を言われたところで表情を変えない彼女だが、それは決して傷ついていないからではない。人並みに、あるいはそれ以上に繊細な彼女は、悪意ある言葉に心へ悲しみを落とす。

 悪評がはびこっている間は、なるべく表立った活動は控えさせるべきだろう。

 そんな風にコウは気遣いのあれこれを考えていたが、ふと見ればリーネが思案顔を作っているのが目に映った。


「リーネ、どうした?」


 声をかければ、リーネは思案顔を継続したままコウに言う。


「……少し考えたんですが、情報流通部に協力してもうらおうのはどうでしょう?」


 コウはつい先ほど始めて聞いたその部の名が彼女の口から出た瞬間、思わず「名前からして胡散臭そうな部にか?」と返しそうになったが、よく考えなくても自分達の部の方が明らかに怪しげなので思い止まった。

 変わりに聞き返す。


「協力を仰ぐことにどんな意味があるんだ?」


「私も少し前にロンさんから聞いただけで、詳しいことは知らないんですが…………聞いた限りだと情報流通部、略して情報部は、さっき言った通り学園にある情報を把握して、真偽は問わずに発表するのが活動内容です。そして、彼らが情報を詳しく調べないのは、悪意があるわけではないらしいんです」


「悪意がない?」


「はい。この学園は性質上、いろんな情報が出てくるらしくて、それは一つ一つ調べていては切りがないくらいあるらしくて」


「そういうことか」


 学園は完全にではないが閉鎖的な空間である。

 そういった環境であるためか、噂話というものはそれなりに娯楽としての色を持つのだ。

 そんな中、ガルバシア王国各所から集められる魔道書や魔導具といった、曰くつきの品々も噂を生み出す要因になっているし、実力が如実に現れやすい環境でもあるので、個人を対象とした話も浮かび上がりやすいのだ。

 確かに情報は各方面からあらゆる形で出現するのだろう。


「だったら、公表することを控えろって話だと思うが……」


 それは情報流通部の存在意義を否定することになる。

 また、「存在する情報をまとめ、公開すること」が良い事なのか悪い事なのかは、見据える者の都合によって変化するものなのだろう。


「そこで私達の出番になるんではないでしょうか? 情報部が調べられないことを私達が調べるんです」


「なるほどな、相互扶助の関係と言っていいのかは分からないが、少なくともこちらには利のある話になりそうだ」


 問題は情報伝達部側に対してこちらから申し出た場合、あちらがどのように考えるかだろう。

 害はないはずだが、こればかりは話してみなければ何とも言えない。


「けど、これで方針が見えてきたな」


 今日この後、寮に戻った後にそれぞれ授業を受けに教室へ向かい、放課後になったら何をするかが決まった。ロンとアヤの意見も聞くが、恐らく反対されることはないだろう。


 最初の段階として調べる噂を決める。それと今後のためにも情報伝達部と協力関係を結ぶ。


 他にも部室内に必要な物を持ち込んだり、部室棟の騒動について考えたりといろいろあるが、それが取っ掛かりとなる作業になるだろう。


「こんな感じだな」


「はい!」


「さて、ある程度この場で決められることは話したし、そろそろあいつらにも戻ってきて欲しいところだが」


「木に隠れて姿は見えませんけど、二人の声は遠くからちゃんと聞こえてきますね」


「事情を何も知らないやつがこの場に来たら、事件が起こってるんじゃないかと思いそうな絶叫だな」


「あはは……」


 リーネの乾いた声を耳にしながら、コウはそろそろをいいだろうと二人を呼び戻そうとして――――顔を横に向ける。


「お?」


「コウ? 一体どうし――――えっ!?」


 コウが突然向けた視線の先を追ったリーネが驚きの声を上げる。

 学園地下の秘密の空間。コウ達だけが知るこの場所。


 コウとリーネの視線の先には、一人の少女の姿があった。


 お読みいただきありがとうございました。

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