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【戦闘令嬢】ほんわかした見た目の令嬢がほんわかしてるとは限らない

作者: アンドー
掲載日:2026/06/28

わたしは、サウスヴィーノ男爵令嬢ファンシア

大きいパッチリした青い瞳にふわふわの陽の光にとける金髪。白い肌に薄くピンクかがった頬。

家族の口癖は「見た目は妖精」。

そんなわたしも今日から学園に通う。

「何ぼんやりしてるんだ、ファンシア」

「感慨にふけっていたのよ、ファンク」

双子の弟のファンクに答える。

「あそこ、新入生を集めているみたいだ」

「ええ、行きましょ」


入学式からすぐにクラスには打ち解けたわ。友達も4人できたし。でも一月(ひとつき)経つあたりから気に入らないことがあって。別のクラスのヒローニャさん。ファンクにつきまとっているみたい。ファンクは理由をつけてうちのクラスに避難しに来るようになったわ。

「あんた、また?」

「そう言うなよファンシア。本当にしつこいんだって。結構直接的に注意しても聞かないし」

「本当にね。ヒローニャさんのお家である男爵家に苦情を入れたのになんでまだつきまとってくるのかしら」

「本当にな・・・」

「珍しく本当に参っているのね・・・帰りに甘いものでも一緒に食べに行きましょう。奢るわ」

「ありがとう、ファンシア」

まったく、わたしの双子の弟を何だと思っているのか。嫌がり、断り、家に苦情を入れるレベルなのにまだつきまとうなんて、いじめかと思うわ。幸い、わたしはまだ会っていないけど。

「みなさんも、帰りにどうかしら?時間があればだけど」

「ぜひご一緒するわ」

「わたしもご一緒したいわ。あの、ファンシア、お店って⋯スイーツローズヴィーノ?」

「ええ、そうよ」

嬉しそうに友人たちが華やいだ声を出す。

放課後がわたしも楽しみだわ。


授業も終わり、意気揚々と友達を連れて馬車に向かう。ファンクは剣術の先生に呼ばれて遅れるので店で合流する予定だ。

玄関を出ると円形の広場に出る。馬車の待ち時間を有意義に過ごせるようにと、多数のベンチや東屋が設置されていて、花壇には花が植えられ季節を感じさせてくれる。歩いていくと、眼前に1人の女子生徒が進み出た。

「お初お目にかかります。わたし、アサン男爵家の、ヒローニャと申します」

腰まで伸ばしたストロベリーブロンドとよばれる赤みがかった金髪をハーフアップにして、きちんと身なりを整えている。礼儀としてのお辞儀もきちんとしている。

あら、意外と常識的なことが出来るのね。

「あら、こんにちは、ヒローニャさん。わたしはサウスヴィーノ男爵令嬢ファンシアと申します」

軽く膝を折って挨拶する。

「お話したいのですが今、お時間よろしいでしょうか?」

「・・・」

前言撤回するわ。

この子は、わたくしの後ろにいる友人が見えていないのかしら?

場所も良くないわ。

校舎を出てすぐの馬車を待つ広場。生徒の下校時間は激混みするので、馬車が来たらすぐに乗らないと後ろの馬車が出られなくなる。

「⋯どうやら、お話があるようなの。馬車がくるまでベンチで待っていただけるかしら?馬車が来たら、すぐに向かいますわ」

「いえ、お気になさらず。このような場所で話しかけてくるのですもの。すぐ終わるはなしなのでしょ?」

「そうですわよね、帰り際の馬車待ちという、来たらすぐに向かわなくてはいけない場所ですもの」

「ええ、立ったままで結構ですわ」

「急なお話ですもの、急ぎのようなのでしょう?初対面の人の場合は、本来は事前に挨拶して日時をすり合わせますもの」

少々大きめの声で友人が話していきます。

まあ、社交的に翻訳するなら、『すぐ終わらないような話を、なんの約束もなくこんな観衆のあるなかしないわよね?もしそうなら非常識で無作法で、あなたはそれが守れない馬鹿よ?あと、緊急性のない用事でこんな立ち話させるわけないわよね?もし緊急性のない用事なら、かなり無礼よ?』という感じかしら?

「あの、ファンクを束縛するのはやめてください」

「⋯何のことでしょう?わたしの双子の弟の人生ですもの。本人の好きにさせているわ」

「毎回昼休みにそちらのクラスに呼び出して、雑用をさせているのでしょう?」

「していませんわ。友人たちと楽しく一緒におしゃべりしているだけですわ」

「そんなか弱そうなふりをして、ファンクを束縛しているのはわかっています。認めてくださいませ」

「束縛などしておりませんわ」

「認めてください」

「今回の言動は、サウスヴィーノ男爵家として抗議させていただきますわ」

「家族総出でファンクをないがしろにするなんて・・・」

「思い込みからの発言にも責任は(ともな)いましてよ」

「そんな脅しに、わたしは屈しません。どうしても認めてくださらないのですね」

そういうと、ヒローニャさんは鞄に手を入れた。

「決闘を申し込みますわ」

「えぇ・・・?」

地面に叩きつけられたのは白手袋。

「白手袋を突きつけた場合、お互いの命をもって決闘に挑むこと。そして断ることは自身の罪を認めることとなりますわ。これは法律にも記載されていますわ」

いえ、確かに決闘の決まりはありますけど、もう廃れた風習ですし、なんて言えばいいんでしょう、祖父の代までやっていたけど、父母の世代でそんなこと非常識だよねとなり、現在は物語の中でぐらいしか見ないぐらい普通やりません。

「わたしは争いたいわけではございません。どうか自身の罪を認めてくださいませ」

「はぁ・・・この決闘の申し込みも含めて、アサン男爵には抗議いたしますわ⋯」

「罪をみとめるのですね?」

手袋を拾う。

「いいえ。こうなってしまった以上、サウスヴィーノ男爵家として引くわけにはいきませんわ。どんなに非常識な申し出であるとしても」

「⋯!そこまで認めないなんて⋯!」

「いい加減、現実を見てくださいませ。わたくしはファンクを束縛などしておりませんわ。日時はいかが致しますの?馬車も来てしまったのですけれど」

「⋯明日の放課後でいかがかしら」

「ええ、よろしくてよ」

馬車に乗り、颯爽(さっそう)とその場を後にしました。



「どうしましょう?」

「どうしましょう、じゃないよ、ファンシア。なんで受けちゃったの?!」

ファンクが小声で叫ぶという器用な事をしている。しょうがないじゃない、断れないわよ。

「断ると不名誉じゃない」

「そもそも決闘申し込まれること自体が不名誉だよ」

「そもそもファンクがちゃんと対応できなかったからでしょ」

「かなり直接的な言葉で否定していたよ!常識がないのはあっちでしょ」

スイーツローズヴィーノの店の中。白をベースに臙脂色(えんじいろ)(深い赤色)でまとめられたかわいいスイーツ店の個室で円卓で、机の上には美味しい葡萄(ぶどう)薔薇(ばら)のスイーツと、美味しい紅茶が並んでいるけど、ファンクとの言い合いが止まらない。

「わたくしたち、ここにいていいのかしら?」

「なにか協力できればいいのですけど」

「ごめんなさい、せっかくのスイーツですのに」

友人たちには申し訳ないわ。せっかく楽しくおしゃべりする予定が、こんな事態になるんだなんて思わなかったわ。

「いいえ、ファンシアのせいではありませんわ」

「そうよ、挨拶したときは普通かと思ったけど⋯ヒローニャさんって結構、その、思い込みが激しくて常識が無いわね?」

「ええ、挨拶は普通でしたのに」

「なぜあのように思い込んでいるのか」

「それよね〜本当にファンクは身に覚えないの?」

「ないよ」

憮然(ぶぜん)とした表情でファンクがお茶を飲む。

「前も話しただろ?剣術授業に来た3年の先輩に剣で勝った後からつきまとってくるんだ。他の令嬢はちゃんと距離をとってくれたのにずっと話しかけてきて。面倒で、今は時間がないので、とか、双子の姉に会いにいくので、とか言って避けてたよ。クラス全員に対する自己紹介で冗談でファンクって呼んでね、とは言ったけど本当にファンクって呼んでくるから、急に呼び捨てにされると照れちゃいますね。まだそこまでお互いのこと話せていないですし、ファンクさんでお願いしますって言ったら、なぜかつきまといがひどくなって。呼び方も変えてくれないし、もうよくわからない・・・」

「うーん、いきなりの名前呼びはわかりやすい社交辞令の冗談だし、特に問題なさそうだけど」

「その後も、姉とは仲もいいし問題ない、君とはもう話したくないんだ、といったけど、聞いてくれなくて・・・むしろひどくなって。それより今は決闘だよね・・・はぁ、父様になんて言おう・・・」

「そのまま言うしか無いわね」

父様はまあ、大丈夫だろう。ここで手紙を書いて、すでに父様の職場に送った。屋敷に帰ってきてからだと遅すぎて対応が大変だろうし。

「明日・・・そっか、明日の放課後なのよね。⋯あれ、確か立会人とか必要よね?」

「そうですわね」

「立会人って、危なくなったら止めることもしないといけないから剣術が出来る人じゃないといけないんじゃかなったかしら」

「そうですわね」

「今から先生に頼めるかしら⋯?」

「明日お兄様が学園に迎えに来ると言っていたから、頼んでおきますわ」

「本当?ありがとう、助かるわ」



次の日。

順当に授業をこなし、放課後が来ました。

決闘することは、もう学校中に広まっている。全校生徒がいるのではないかと思うほど、人がいる。

運動着に着替えて、自前の剣を腰にはいた。

「こちらの立会人をご紹介します。サースフィール・グラジラオス様です。騎士団長をなさっていますが、このたび、決闘ということで複数の騎士団員の見学を条件にこの場を作ることを許可していただきました」

「あらためまして、本日はよろしくお願いいたします」

わたしはもう挨拶を済ませている。

お友達のお兄様が来るはずだったのだけど、お手紙を騎士団で開いて読んだところを騎士団長に見つかり、50年ぶりの決闘ということで、決闘を知らない世代への教育を兼ねて、見学することになったとのこと。わたしも連絡が来たときはびっくりしましたわ。むしろ、止めてほしいのですけど。


「お初にお目にかかります。アサン男爵の娘、ヒローニャと申します。私事にてお騒がせして申し訳ありません。昨日、連絡が来たときは驚きました。医者や場所の確保など準備いただきありがとうございます。自分では至らぬ所、準備不足を痛感しております。感謝申し上げます」

こういうところは真っ当なのよね・・・。

「・・・うむ。サースフィール・グラジラオスだ。騎士の見学を許可していただき感謝する」

「それでは、両者、正々堂々と己の全力を尽くし、生死に関わらず親族共々この件について禍根残す事を許さず。両者、誓いを」

「誓います」

「誓います」

「両者、宣誓は相成った」

騎士団長が高く剣を上げ、振り下ろす。

下にある石が割れたら開始。

ーーーカキンーーー

音と共に動き出す。構えたときにわかった。ヒローニャさん、強いわ。

ちょっと令嬢とは考えられないくらい強すぎじゃないかしら。

剣を握った途端、いくつも死戦をくぐり抜けた猛者みたいな目をしているのですけど。

戦いに集中しないと、ちょっとヤバそうね。



「えっ?」

「は?」

「えぇ・・・!?」

眼の前の光景に愕然とする。騎士団長として見届人に立候補し、この決闘に割り込んだ。ご令嬢同士の決闘と聞いて、面白半分で見に来たが。剣も持ったことのない令嬢の決闘など、どうせかすり傷でも負えばおわる、むしろ剣を持ち上げられないと思ったのだが、何だこれは。

「あれは、お祖父様の剣ではないか?」

アサン男爵令嬢ヒローニャは、腰まで伸ばしたストロベリーブロンドとよばれる赤みがかった金髪を束ねて、きちんと身なりを整えている。先ほど挨拶をした感じでも、気軽に決闘などと言いだす令嬢には見えない、綺麗系の普通の令嬢だった。

それなのに、アサン男爵令嬢のヒローニャが繰り出す剣は、幼い頃に祖父に見せてもらったものにそっくりだ。だが、あれはレイピアを使うことを前提に作られたものだ。それを剣で突きと弾きの動きに変えて使っている。どう鍛えたのか、目で追えなくはないが、速度が早い。多分、中堅の騎士ぐらい強いぞ。


そしてそれに相対しながら、余裕をもって弾き返しているサウスヴィーノ男爵令嬢ファンシア。

いや、おかしいだろ。

邪魔にならないように一つに束ねているが、ふわふわとした光を溶かしたかのような金髪に、薄いブルーの瞳。薔薇色の頬。どう見ても穏やかに微笑んでいるのが似合うご令嬢が、ガンガン、ヒローニャの剣を読み、弾き、完全に防御している。

「くっ、意外です、わ!」

「こちらのセリフですわ!」

少し距離が出来るとお互いに話し、また打ち合っては離れた拍子に話し始めた。

「多少やるようですね」

ガン

「あら、わたしが剣を(たしな)んでいると思っていなかったのに決闘を申し込んだの?卑怯者(ひきょうもの)ね」

キン

「卑怯者はそちらではなくて!」

ガンーキイーーー

「なんでよ!」

「ファンクは強いのに貴方に従っているのは、あなたがなにか脅しているからでしょ?!」

ガン

「はぁ?!そんなことしないわよ!」

ガン ガンガン

「ではなぜ、休みごとに教室に呼び出しているんですの!」

ガンガン カンーー

「あなたがしつこいから、ファンクが逃げてきていたのよ!」

ガンガンガン

「そんなわけないわ!」

キンーーーシャッ(火花が散る)

「なんでよ!」

ガンカン、キンーーー

「だって、毎日でも剣術について語りたいって言っていたのに、用事ができたとか言ってすぐ名残惜しそうに去っていくんだもの!あなたがさせているんでしょ!」

ガキンーーー!

「してないわよ、それより、ファンク!」

サウスヴィーノ男爵令嬢ファンシアが大きく距離をとった。

「あんたどういうこと?!聞いてないんだけど!」

ファンクの方をみると頭を抱えている。

「・・・剣術の授業でクラスの女子に囲まれたときに、面倒で「剣術についてなら毎日語りたいな」っていいました・・・まさか本当に剣術について語りたいご令嬢がいるなんて思っていなかったんだよ・・・」

「ファンク、帰ったら覚悟しなさい!」

「えっ・・・「剣術についてなら毎日語りたいな」という言葉は、その、なにか社交的な裏を読む必要がある言葉だったのですか・・・?」

「えっ、うん、そうだね」

ファンクが答えた。

どうやらヒローニャはだいぶ、社交に疎いらしい。呆然としている。多分意味が本当にわからなかったのだろう。

「一般的には女性に言う場合は『女の子と話す気分じゃないから、席外して』という意味だな」

一応、意味を説明した。学生だらけのなか、説明するなら審判であり大人の俺がしたほうがいいだろう。

「も」

「?」

「申し訳ありませんでした!」

「「ええぇ?」」

「えぇー・・・」

審判ながら、思わず声が出た。


いきなりの謝罪に、完全に勢いをそがれたわたしは、剣を下におろした。

「ヒローニャ!!」

いきなり声が響き、そちらを見る。

「えっ、かあさま?!」

通路から美女が走ってくる。といっても、走るのに慣れていないのか、ふわふわとした足取りで、今にも倒れそうだ。

「申し訳ございません!どのような処罰でもお受けいたします。ですが、どうか、娘の命だけは、どうか⋯!」

そのまま膝をついて、頭を下げる。

ほとんど罪人の謝罪の仕方だ。

「かあさま?!」

剣をおろし、息を整える。

「アサン男爵夫人とお見受けいたします。決闘は終わりました。どうかお立ちになってください」

「申し訳ありません。今になって友人からヒローニャが決闘を行おうとしていることを聞いたのです。わたくしの監督不行届です。大変申し訳ございません」

ヒローニャはオロオロしてちょっと泣きそうになっている。

「わ、わたしのしたことは、そんなに悪いことなの・・・?」

「そうよ、とても。決闘を申し込むことは、悪いことなのよ」

「でも、先生はよくやっていたって」

「先生はおじいちゃんでしょ。50年前は当たり前だったことでも、今では違うのよ。ほら、昔はコルセットをつけるためにあばら骨を折っていたけど、今ではやっている人はいないでしょ。それぐらい、非常識で、周りが見たら止めることなのよ」

「そ、そんな・・・」

えぇ・・・本当によくわかっていなかったのね・・・

「サウスヴィーノ男爵令嬢ファンシア様、自分の愚かさがよくわかりました。大変申し訳ございません・・・勘違いの上にこのような失態・・・知らないでは済まされないことであると理解いたしました。どのような処罰でもお受けいたします」

ヒローニャさんはとても綺麗なお辞儀で謝罪した。

「サウスヴィーノ男爵令嬢!」

むさい男が全速力でこちらに走ってくる。たぷたぷとゆれる脂肪がついていて、禿げたおっさんだ。着ているものもなんだか古びている。次から次になんなんだ。

「わたしは、アサン男爵家当主です。この度は大変な無礼を申し訳ございません。つきましては娘を修道院、いや、死罪に、・・・ぐはっ」

アサン男爵がヒローニャさんに回し蹴りで蹴られ、3メートルほど吹っ飛びました。

「なにをいっている?お前にそんな権限無いだろ?」

そういったヒローニャさんの顔からは表情が抜け落ちていた。

「やめろ、わたしはだんしゃぐぁ」

思いっきりみぞおちを蹴られ、悶絶する自称男爵。

わたしは一体何を見せられているのか。

「おまえが言ったんだろ?力があるやつが支配者だと。それでかあさまとわたしと叩いたんだろ?骨を折って、青痣だらけにしたんだろ?水風呂に沈め、笑っていただろ?わたしはおまえに勝った。おまえが用意した破落戸(ごろつき)も暗殺者も全員再起不能にした。わたしはお前に勝ったから、アサン男爵家はわたしのものだ。そうだろ?おまえが言ったんだ、やれるものなら奪ってみせろと」

ちょっとまって、情報量多い。

「えっと、代替わりしたの?」

「はい、そうです。書面にも残して、きちんと紋章官にも申請いたしました。ただ、年齢が足りないので、正式な発表は成人したときになります。それまでは権限はわたしと()()の両方にあるそうです。ですが、()()はわたしに負けたので、男爵家はわたしのものです」

こちらを振り返る頃には無表情が嘘のように神妙な表情で丁寧に対応してくれた。

すでに紋章官への申告を果たしているなら、確かにアサン男爵家はヒローニャのものね。

お家騒動には騎士団は基本的に動かないわ。

さっき暗殺者も全員再起不能にしたと言っていたし、もう終わったことのようね。

「ちょっとまって、そうすると、男爵家への抗議文って、あなたが受け取って対処していたの?」

「はい・・・わざわざあのような書状を送って注意されていたにも関わらず、誤解を調べることもせず何も対処しなかったこと、重ねて謝罪申し上げます」

「わたくしからも、娘が常識に疎いことがわかっていながらこのような自体になるまで事を把握できず、大変申し訳ございません」

「ああ、そうなの。ええっと、お母様に相談しなかったの?」

「かあさまに心配をかけたくなく、確認を怠りました⋯」

()()に勝った後から、娘にとって、わたくしは保護対象になってしまったようで・・・それでは駄目だと言葉を重ねたのですが、強さこそがすべてという思想が強く、導けないまま・・・わたくしが弱いせいで・・・」

「えぇ・・・」

多分その『弱いせいで』という言葉が余計に思想を強めたのじゃないのかしら。御婦人、ヒローニャさまと同じストロベリーブロンドだけど、こちらは綺麗系な印象のヒローニャさんと違って、儚いという言葉が似合いそうな薄幸の美人って感じだもの。

「とにかく、落ち着いて場を整えて話し合いはそれからにしましょう。騎士団長、決闘の終了を」

騎士団長が頷いて、右手を上に上げる。

「勝者、サウスヴィーノ男爵令嬢ファンシア。この結果はサースフィール・グラジラオスが見届け、結果を相違ないものと保証するものである。これにて、決闘を終結とする」



アサン男爵家当主ヒローニャ。今のわたしになるまで、強くなるまで、わたしの世界は青痣の傷みと母の手がすべてだった。

わたしは、生まれたときから、かあさまだけが味方だった。

幼少の頃、かあさまは今以上にいつ儚くなってもおかしくないほど衰弱していた。

使用人は()()の味方で。ろくな食事も、教育もなかった。

偶然出会った老人が剣術の師となってくれたので、師に貴族社会と礼節を教わることができた。

そのときから()()に勝つことを目標としていた。たしか5才だったと思う。

元男爵を殺害する事を目標に剣術を磨き、9歳にしてようやく倒した。だが、殺してはダメだとかあさまに言われた。

 わたしにボコボコにされたあれた()()は、9才から12歳までの3年間、暗殺者や破落戸をけしかけてきた。かあさまを守りながら、すべて蹴散らし、使用人を全員追い出し、新しく入れ替え、元男爵を追い詰め、親戚を潰し、徹底的に法律に則り代替わりを果たした。

 やりかたは師匠に習った。手伝ってやりたいけど、手を出すと法律違反になってしまうからと師匠は悔しそうにしていた。

 師匠は礼節を教えてくれたが高齢で・・・なんていうか、今よりも物騒な時代を生きた人だったので、ちゃんとしているところはちゃんとしているんだけど、ちょっとズレているらしい。わたしにはよくわからないけど。

 母が起き上がれる様になったのはここ2年で、起きている間はできるだけ教えてもらったが、男爵家の執務も覚えるようになり、時間の関係から令嬢としては最低限しか学んでこれなかった。

 お母様も社交が不十分なところがあるから、ちゃんと相談しなさい、学校では友達を作ってわからないところは聞きなさい、と助言してくれた。

 母からすればまだ子供だし、先生もいるし、大丈夫だろうと思っていたみたい。

 入学してみて、初めて他の令嬢とお話したけど、うまく馴染めず。

 剣術の最初の授業でファンクが3年生をボコボコにするのを見て、同じ趣味の人となら話せるのではないか、と思い、終わった後に話しかけに行ったら、他の令嬢にも囲まれていて、そこに混じって話そうとした。

 そんななかで、「剣術についてなら毎日語りたいな」といってくれた。

 他の令嬢は剣には興味ないのか離れていき、よし、これなら話しかけられると思ったときにチャイムが鳴って授業が始まって話しかけられないまま一日が終わってしまった。

「よし、明日話しかけよう」

 毎日語りたいと言っていたし、きっと話が弾むはずだ。

 だが、間が悪かった。他の令嬢や令息がしばらく周囲にいたし、自分のわからない話をしているからなかなか話しかけづらく、人が引くまで3日かかった。

「あの、」

「すみません、今は時間がないので」

 そう言って廊下に出てしまった。時間がないのならしょうがない。暇そうな時を見計らってはなしかけたが、

「双子の姉に会いにいくので」

 と言われ、また別日を待ち。

「あの、ファンク、お話したいのですけど」

「急に呼び捨てにされると照れちゃいますね。まだそこまでお互いのこと話せていないですし、ファンクさんでお願いします。それと、用事があるので失礼します」

「えっ」

 どういうことだ?

 自己紹介でファンクと呼んでください、と言っていたはずでは?

 何度話しても姉に呼び出されたから、用事があるからと廊下に出ていく。

「どういうことかしら」

 試しに、隣のクラスを覗くと、ふわふわとしたファンクによく似た女の子が、数人の友人と共にファンクにノートをわたしていた。

「わかった、それじゃ届けてくるよ」

「ええ」

 もしかして、これは、パシられている?

クラスメイトと交流ができないほどに呼び出しているのか?!

だが、ファンクは明らかに強い。それなのに従わせているなんて。

 自分の場合、どういう状況なら従うだろうか。

かあさまのいうことは聞く。大好きだから、喜んでほしいからだ。

師匠の言うことは聞く。大好きだし、恩人だから。

でも、かあさまも師匠も、もっと友達をつくるように言う。わたしが心配だからだ。

クラスメイトと交流できないほど呼び出すのなら、それは悪意ではないか?

()()のいうことを子どもの頃は聞いていた。弱かったからだ。

()()のいうことをあれより少し強くなってからも聞いていて、抵抗しなかった。かあさまを守れるほど強くなかったからだ。

「大切なものを人質にとられているのでは・・・?」

 次の日、ファンクに直接聞いてみた。

「ファンク、その、聞きたいことがあるのだけれど、あなたのお姉様との関係って、なにかあったりするの・・・?」

「昨日も言ったと思うけど、さん付けで呼んでほしいな。あと、ファンシアとは仲良しだよ。それじゃ、失礼するよ」

 人と話すなと言われているのか・・・?まさか、クラスメイトに密告者でもいるのか?

「・・・卑怯な手で実の兄弟を陥れるとは」

 サウスヴィーノ男爵令嬢ファンシア。

 絶対にファンクを窮地から救ってみせる。そして友人になりたい。全力で向き合った剣を語れる友が欲しい。

「待っていろ、必ず救い出す」


「と、このように考えておりました・・・無知からの勘違いを重ね、ご迷惑をおかけしたこと誠に申し訳ありません・・・」

「わたくしの教育不足です・・・大変申し訳ございませんでした」

「いえ、うちのファンクも自意識過剰でしたわね」

「・・・ちゃんと話を聞かずわたしも過失があったように思います」

「事が大きくなりましたので、何もなし、とはいきませんが。子どものした事です。あまり気に病まれなくて大丈夫ですよ」


決闘騒ぎの次の日。今日はこの事態の落としどころの話し合いです。


今日集まったのは

父であるサウスヴィーノ男爵

わたし、サウスヴィーノ男爵令嬢ファンシア

双子の弟、サウスヴィーノ男爵令息ファンク

相手方は

アサン男爵家当主ヒローニャ

前アサン男爵夫人

そして、

審判を担当した騎士団長、サースフィール・グラジラオス

そしてなぜかヒローニャ様の師匠のタイガーリ・グラジラオス様


ええ、びっくりしたわ。騎士団長のお祖父様は伝説的な軍人として一般にも知られていて、物語になっている英雄ですもの。それの弟子がヒローニャさんだった。

「はぁ・・・そりゃ、強いわけよね・・・まさか英雄のお弟子さんとは驚きだわ。」

「わたしなどまだまだです。しかし、驚きました。ファンシア様があれほど強いと思っていなかったので。その、ファンシア様が強いおかげで、怪我をさせることなく自分の間違いで誰かを傷つけるという最悪を避けることができました。本当にご迷惑をおかけしました⋯」

「いいのよ。まあ、ヒローニャの中でわたしは悪女になっていたみたいですし?」

「ファンシア様・・・大変申し訳なく」

「いいのよ。終わった事ですもの。あと、名前に敬称付けしなくていいわ。なんかむず痒いわ。わたしもヒローニャでいいかしら?同い年ですし」

「もちろんです」

そういってヒローニャは母親に視線を向けた。

小さく、嬉しそうに夫人が頷く。

「・・・!」

ヒローニャの顔が嬉しそうに輝き、こっちまで嬉しくなる。まだ社交辞令と本音の見分けがつかないものね。弟の『ファンクと呼んでください』を真に受けたのも今回の原因の一つだもの。自分の判断が怖くなるのは当たり前だわ。

「ヒローニャはずっと剣をやっていたのよね?受けていて思ったんだけど、あれって剣じゃなくてレイピアじゃない?」

「はい、そうです」

「慣れてない武器であの速度ってすごいわね」

「いえ、お恥ずかしながら、驕っていました。ファンシアがすべて防いできて、びっくりしました。持久戦になれば剣術でもわたしは負けていたでしょう。ファンシアはいつから剣をやっているのですか?」

「わたしも5歳からね」

「まあ、同じですね!」

ヒローニャは話してみると常識と思考と嗜好がちょっとズレているけど、その他は優しい普通の子だった。

事後処理の難しい話は今回は大人たちに任せることになった。

ヒローニャだとどこが落としどころかわからないみたいだし、どんな処分でも受けると猛省している。

わたしとしては、剣の話ができる友達が増えて嬉しい限りだ。

ファンクとも打ち解けた。

大騒ぎになって風変わりな友人ができたから、悪いことだけじゃなかった。

明日からわたしが剣を使えることが公になったわけだけど、まあ、なんとかなるでしょ。



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削除した会話 決闘前のスイーツ店です。


「ああ⋯もう、ファンシア、くれぐれも」

「大丈夫よ、心配しないで」

「心配はしていないよ。ただ、ファンシアの婿の貰い手がいなくなるとすごく困るんだよ」

「うーん、そうねぇ⋯」

「⋯えっと、ファンシアは決闘が怖くはないのですか?」

「ええ。真剣なら使い慣れているし」

「見た目はあれなんだけど、ファンシアは強いんだよ。俺の次に」

「なにいってんのよ、わたしのほうが強いわよ」

「200戦101勝99負けなんだから俺のほうが強い」

「違うわよ、200戦101勝99負けなのはわたしよ!」

「俺のが強い!」

「わたしのほうが強い!」

「⋯ファンシアって、結構お転婆?」

「いえ、まって。そもそも、ファンクって見本として剣術授業に来た3年の先輩に剣で勝っていましたわよね?学園代表で他校との対抗戦で優勝したという」

「えっ、ファンシア、ファンクと同じぐらい剣が使えるんですの?」

「まあね。令嬢は剣術の授業は見学だけだけだからお転婆だってバレにくいのよね」



なんかゆるゆるの設定で書きたいなぁと思って書き始めました。

もうちょっと見た目が活かせる内容にしたいなぁと思ったのに、なんか、殴り合いでわかり合う友情みたいになっててあれ?と思いましたが戦闘令嬢、結構好きだからまあいっかと思っています。

こう、立ち向かおうとする意思があるところが。たとえ弱かったとしても、立ち向かう。納得しない、諦めない。


誤解って解くのって大変ですね

話しているはずなのに、話が通じない、言葉が通じないって共通認識の欠如が誰でもあるから、どうしても起こります。育っている環境が違うと余計に。


なんか短編にしては長くなったのにここまで読んでくださりありがとうございました。

楽しんでいただければ幸いです。

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