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第24話「公式発表――勇者候補、学園に現る」

 暗殺未遂の混乱が収まったのは、ほんの数時間前のことだった。


 学園は依然ざわついていたが、儀式を中止するわけにはいかない。むしろ「襲撃を跳ね除けても揺るがなかった」という実績こそが、勇者候補の正当性をより強く印象づけると、学園長クロードは判断したのだ。


 翌朝。校庭中央に設置された特設広場。魔導照明に照らされ、壇上には王国の紋章が大きく掲げられていた。学園生徒のみならず、街の住民や遠方からの来賓までもが詰めかけ、広場は祭りのような熱気に包まれている。


「な、なんだこれ……ただの学園の発表会じゃないのか?」


 壇の裏で、ユウマは学園の制服姿のまま額に汗を浮かべていた。


 観客席には数百人。さらに空を飛ぶ魔導映写機が、式典の様子を街中の水晶板に中継している。


「ユウマ君、しっかりして!」


 幼馴染のミサキが制服の袖をぎゅっと握った。彼女の声も震えているが、表情は必死に笑顔を作っていた。


「みんな、あなたを見てるんだよ。だから……堂々としてればいいの」

「お、おう……堂々と、な」


(やべぇ、俺何も知らねぇ! 式典って、王国の偉い人とか来てるし、これ勇者どころか国家行事じゃねぇか!)


 壇上では、学園長クロードがゆっくりと進み出て、声を張り上げた。


「本日、王国の未来を担う若者たちに告げる。我らが学園より、新たなる“勇者候補”が現れた!」


 歓声が爆発した。


 観客席から「勇者!」「救世主だ!」という叫びが次々に飛ぶ。旗が振られ、魔法の光が花火のように夜空に舞い上がる。


 ユウマは背筋を凍らせながら壇上へ押し出される。背後で策略家カナメが「任せろ」と小声で囁き、彼の動きを誘導するように肩を押した。


(お、落ち着け俺……ここでしくじったら、全部バレる……! けど堂々としてりゃいいんだよな? 堂々と……)


 壇の中央に立ったユウマは、観客席をぐるりと見渡した。


 何百もの視線が一斉に集まる。


 思わず足が震えた瞬間、照明の光が汗に反射して煌めいた。


「おお……! 威風堂々たる姿だ……!」

「やはり勇者の器……!」


 観客の一人が感嘆を漏らし、それが連鎖して広場がどよめきに包まれた。


(……え、今のただの汗だぞ?)


 しかしユウマは顔を引きつらせながらも、胸を張る。


「まぁ、俺だからな」


 小さく呟いたつもりが、魔導拡声器が拾ってしまい、広場中に響き渡った。


「おぉぉぉぉぉッ!!」

「自信満々だ!」

「真の勇者だ!」


 歓声は最高潮に達し、ユウマは引きつった笑顔のまま「やべぇ」と心の中で叫んでいた。



 一方、壇上脇では王国姫セリシアが両手を胸の前で組み、潤んだ瞳でユウマを見つめていた。


「……やはりこの方こそ、予言の“偽りなき最強の勇者”。」


 彼女の呟きは侍女たちに伝わり、やがて観客席へ広がっていく。


 魔導学者アリアは、ユウマの汗の輝きを「未知の魔力放出」と分析し、必死にメモを取っていた。


 忍者シズハは「視線を集めてなお微動だにしない……完璧な暗殺耐性」と震え、筋肉バカのゴウは「見ろよ! あの胸板の張り! やっぱ規格外だ!」と涙ぐむ。


 どこをどう切り取っても、誤解の連鎖が雪だるま式に膨れ上がっていくのだった。



「ではここで、勇者候補に王国より正式な宣言を!」


 クロードが合図を送ると、豪奢な衣を纏った王国の大臣が進み出た。


「黒瀬ユウマ殿。我らリュミエール王国は、貴殿を“勇者候補”として認める!」


 その言葉と同時に、黄金の魔導証明書が空中に浮かび上がる。

 

 ユウマは慌ててそれを受け取ったが、重みで手が震え、思わず高々と掲げる形になった。


「うおぉぉぉぉっ!!!」

「勇者の証を掲げたぞ!」

「やっぱりあの人が……!」


 観客は立ち上がり、拍手と歓声で広場を揺らした。

 

 ユウマは完全にパニックだったが、周囲から見れば「堂々と勇者の証を掲げる救世主」にしか映っていない。



 式典の最後、大臣が宣言する。


「かくして、本日この時より! 黒瀬ユウマは、王国が認めし勇者候補である!」


 無数の花火が夜空に咲き乱れた。光と音の奔流が広場を包み、群衆は熱狂の渦に飲み込まれる。


 その瞬間、壇上に一羽の白い鳥が舞い降りた。


 鳥の足には封蝋の施された文が括り付けられている。伝令兵がそれを受け取り、クロードに差し出した。


「……国外からの使者より急報!」


 クロードが封を切り、目を見開いた。


「……なんと。東方の大国が、勇者候補ユウマとの会見を希望していると!」


 場内がざわついた。


 遠方の国までもが、すでにユウマの存在を聞きつけている。


 セリシアは感極まったようにユウマへ駆け寄り、ドレスの裾を揺らして深々と頭を下げた。


「ユウマ様……どうか、この国だけでなく世界を……お救いくださいませ」

「お、おう……任せとけ」


 ユウマは無理やり笑みを作り、片手を挙げて応じた。


 だが内心は――。


(マジでやべぇ……どんどん話がデカくなってる……!)


 誰もその心の叫びを知ることはなかった。


 こうして、黒瀬ユウマの名は正式に「勇者候補」として世界に広まり、物語は新たな舞台へと動き出すのだった。

ここまでお読みいただき、誠にありがとうございます。

もし「面白い」「続きが楽しみ」と感じていただけましたら、ブクマや★評価をいただけますと大変励みになります。

今後も楽しんでいただけるよう努めてまいりますので、引き続きどうぞよろしくお願いいたします。

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