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第9話「新聞部スクープ──英雄伝説の誕生」

――学園の朝は、何も知らないユウマにとって、いつも通り平和である。


「ふああ……眠い。昨日の決闘の応援で疲れたな……」


 机に突っ伏し、欠伸をしながら白石ミサキに話しかける。


「……応援じゃなくて、ユウマが主役だったんだけど?」


 幼馴染のミサキは呆れ半分に笑いながら、彼の髪を整える。昨日、御剣レオンとの真剣勝負(※ただの偶然事故)に勝利したユウマは、学園中の注目を浴びていた。


「レオン君があんなに真剣に戦って……なのに一瞬で倒れて……」

「いや、俺はただ、偶然しゃがんだだけだって」

「そのタイミングが“神速の回避”に見えたのよ……」


 ミサキは昨日の光景を思い出して小さくため息を漏らす。だがその隣で、別の人物が怪しい笑みを浮かべていた。


「――見たぞ、黒瀬ユウマ」

「へ?」


 新聞部の東堂リョウが、手帳を片手に近づいてきた。眼鏡を光らせ、いかにも「ネタを握っているぞ」という顔だ。


「昨日の決闘……あれは伝説的瞬間だ。俺は見逃さなかった。レオンの渾身の突きを、君はまるで未来を見通したかのように回避したんだ」

「いやだから――」

「さらにその直後、手加減を示すように一撃も与えず……それでいて勝利。これは記事にする価値がある!」

「そんな大げさに書かなくていいから……」

「ユウマ、もう無駄だと思うよ……」とミサキ。


 リョウの筆はすでに止まらない。



 その日の昼休み。学園中に配られた新聞部の号外が、一気に話題をかっさらった。


【号外! 偽りなき勇者、ついに学園に降臨!!】


 紙面いっぱいに大見出し。そこにはユウマのシルエットを英雄風に加工したイラストまで添えられていた。


【剣聖候補レオンを圧倒! 神速回避と慈悲の無手勝利!】

【謎多き魔法少女アリアすら認めた天才!】

【最強伝説、ここに始まる!】


「な、なんだこれ!」


 ユウマは号外を握りしめて机に叩きつける。


「……もう、止められないみたいだね」


 ミサキは苦笑しながらも、内心少し揺れていた。記事は誇張だと分かっている。だが彼の行動が偶然にしては出来すぎているのも事実だ。



 昼休みの食堂。あちこちで新聞の見出しを語り合う声が響く。


「見た? あの記事!」

「黒瀬先輩って本当は隠れた英雄だったんだ!」

「アリアさんやレオンまで……認めざるを得ないってことよね」

 

 桜井ユリナ――学園一のアイドルも、その記事を目にしていた。


「ふふ……やっぱりユウマ君って特別だったんだ。私、最初からそう思ってたの」


 根拠はゼロだが、記事のおかげで彼女の好意にさらに燃料が投下された。


 一方、ツンデレ委員長・神楽サラは赤面して机を叩く。


「べ、別に……私は前から知ってたし! あの記事なんか関係ないし!」


(でも、やっぱり……かっこよかったんだから……)


 学園の空気は完全に「黒瀬ユウマ=次代の勇者」へと傾いていった。



「やっべぇぇ……どうすんだこれ……」


 ユウマは頭を抱える。


「ユウマ、こうなったら開き直るしかないよ」


 橘カナメが冷静に助言をする。だが彼はすでに完全に誤解モードに入っていた。


「これは君の“戦略”だろう? 世論を味方につけて、敵を心理的に圧倒する。見事な布石だ」

「違う! 俺そんなつもりじゃ!」

「さすがだな……俺はその先を補強しよう」


 勝手に戦略を広げていくカナメ。ユウマの頭痛はさらに悪化する。



 忍者少女シズハは、屋根の上から新聞を読みながら呟いた。


「……やはり、黒瀬ユウマ。貴様の力、凡人に理解できるものではないか」


 ただの事故も、彼女にとっては“看破不能の奥義”に映る。


 筋肉バカの轟木ゴウは号外を見て燃え上がる。


「やっぱりアイツは規格外だったか! 次はオレが挑戦して、さらに証明してやるぜ!」


 そして、妹のアイナは家で新聞を掲げながら跳ね回っていた。


「お兄ちゃんが英雄だって! やっぱりすごいんだ!」


 その声は近所中に広まり、街の噂にまで拡散していった。



 放課後。ユウマがパン屋に寄ると、店の娘モモが目を輝かせて迎えてくれた。


「ユウマさん! あの記事、読みました! やっぱり“勇者様”だったんですね!」

「いや、勇者じゃなくてただの客だって!」

「このパンも、“勇者様が選んだ特別な一品”として宣伝できますねっ!」

「勝手にブランド化すんなぁぁ!」


 さらに新聞記事は街の掲示板に貼られ、市民たちが噂し合う。


「救世主が学園にいるらしいぞ」

「王国の未来は明るいな!」


 ユウマの知らぬ間に、伝説は雪だるま式に大きくなっていく。



 王城の一室。セリシア姫は新聞を手に取り、真剣な面持ちで読んでいた。


「……“偽りなき勇者”。ついに現れたのですね」


 彼女にとって、この新聞はただの誇張記事ではない。王家に伝わる予言と一致していたからだ。


「やはり……あの方こそ、国を救う運命の人……」


 姫の決意が、さらにユウマを巻き込む火種となるのだった。



 数日後。新聞部は第二弾を発行した。


【速報! 勇者ユウマ、民を救う公開演習へ!】


 次回行われる学園の公開演習イベントに、ユウマが参加することが大々的に告知されたのだ。


「はぁぁぁ!? 俺そんなの出るなんて言ってねぇぞぉぉぉぉ!!!」


 ユウマの絶叫が学園に響いた。


 ――だが群衆心理はもう止められない。英雄伝説は、本人の意思と関係なく走り出してしまったのだ。

ここまでお読みいただき、誠にありがとうございます。

もし「面白い」「続きが楽しみ」と感じていただけましたら、ブクマや★評価をいただけますと大変励みになります。

今後も楽しんでいただけるよう努めてまいりますので、引き続きどうぞよろしくお願いいたします。

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