第7話「魔法勝負! アリアの挑戦」
昼下がりの訓練場は、ざわめきで満ちていた。
学園の生徒たちが集まり、中央に設置された模擬戦用の結界を囲んでいる。そこに立つのは二人。
一人は黒髪で気だるげな少年、黒瀬ユウマ。
もう一人は金色の髪を揺らす少女、アリア=フェルネ。
留学生であり、魔法科の首席候補。天才の名をほしいままにする少女が、わざわざユウマを挑戦相手に指名したのだ。
「……ユウマ、本気でやる気なの?」
観客席から白石ミサキが心配そうに声をかける。
「当たり前だろ、ミサキ」
ユウマは胸を張る。「最強の俺が挑まれて断る理由はない」
(いや、ただの凡人じゃん……!)
ミサキは額を押さえる。だが同時に、胸の奥に微妙な不安が芽生えるのも事実だった。
ユウマの数々の“偶然”が積み重なり、最強という虚像が現実味を帯びつつあるのを、彼女は一番近くで見てきたからだ。
「ルールは簡単よ」
アリアが杖を構える。蒼い宝石が先端で輝いた。
「魔法で相手を戦闘不能にした方の勝ち。もちろん、殺傷は禁止」
「よし、了解だ」
ユウマは両手をポケットにつっこんだまま。
観客がどよめく。「武器も持たないのか!?」「余裕すぎるだろ!」
アリアは薄く笑った。
「――やっぱり、あなたは只者じゃないみたいね」
(え、なんで? ただポケットに手を突っ込んでるだけなんだけど!?)
ユウマの心は動揺していたが、口から出たのは自信満々の一言だった。
「最強だからな」
「始め!」
審判役の教師が手を振り下ろすと同時に、アリアが詠唱を開始する。
「《フレアランス》!」
空気が震え、巨大な炎の槍が生成される。観客が息を呑む。
次の瞬間、それはユウマに向かって一直線に飛んできた。
「うおっ!?」
ユウマは慌てて横に飛びのいた。
その動きが、観客の目には――
「……見た? あの紙一重の回避!」
「詠唱と同時に動くなんて、先読みしていたに違いない!」
称賛の声が飛ぶ。ユウマは必死に走り回っているだけなのに。
「ふふ、避けられるなら、もっと速いのを!」
アリアの魔力が一気に高まる。詠唱が重なり、炎の槍が三本、五本、十本と増えていく。
「ちょっ、待て待て待て!」
ユウマは必死に駆け回る。足元に転がっていた小石を蹴飛ばし、つまずきそうになる。
だが――
その小石が跳ね飛んで、炎槍の軌道をわずかに逸らした。
結果、炎は結界の外に逸れて爆発する。
「なっ……」
アリアは目を見開いた。「小石で魔法の軌道を操作したの……? そんな芸当、できるはずがないのに!」
「……ま、まあな」
ユウマは汗だくで答えた。(いや今の完全に偶然だから!!)
アリアの瞳が真剣みを増す。
「なら、これならどうかしら……! 《クリムゾン・カタストロフ》!」
炎の嵐が巻き起こり、結界全体を赤く染めた。観客が悲鳴を上げる。
「やっべ!?」
ユウマは思わず地面に伏せ込んだ。
すると強風で観客席のパンフレットが飛ばされ、結界内に舞い込む。
その紙片が偶然にもアリアの視界を遮り、詠唱のタイミングがわずかに狂う。
魔法は暴走し、炎の嵐は制御を失った。
「きゃっ!?」
アリアが吹き飛ばされ、結界に叩きつけられる。
「勝負あり!」
審判の教師が叫んだ。
結界が解かれ、煙が晴れていく。
立っていたのは、埃まみれのユウマだけ。
観客は一斉にどよめいた。
「す、すげえ……!」
「天才アリアを圧倒するなんて!」
「やっぱりユウマは規格外だ!」
ユウマは腰に手を当て、どや顔で答えた。
「――だから言っただろ。俺は最強だってな」
(……いやいやいや! ただ伏せてただけだから!!)
心の中では全力でツッコんでいた。
アリアはゆっくりと立ち上がり、唇を噛んだ。
「……信じられない。本当に私の魔法を凌駕するなんて」
「アリアさん、すごかったですよ!」
観客席から拍手が送られる。だがアリアは視線をユウマに向けたまま。
「あなた……一体、何者なの?」
ユウマは一瞬、返答に詰まった。
だが、見栄と虚勢が口を突いて出る。
「最強の、黒瀬ユウマだ」
その言葉に、観客は大歓声を上げる。
観戦していた仲間たちも、それぞれ反応を示していた。
「……やはり、あの男は本物かもしれん」
御剣レオンが剣を握りしめる。
「理論を超えた存在……これが、ユウマ」
アリアは呟き、瞳に尊敬の色を宿す。
「兄はやっぱりすごい!」
妹のアイナが手を振って跳ねていた。
「……チッ、なんでだよ」
神楽サラは顔を赤くしてそっぽを向く。
こうしてまた一つ、ユウマの「最強伝説」は積み上がっていった。
それは彼自身の実力ではなく、ただの偶然の連続でしかないのに――。
(……やべえ、次はどうやって誤魔化せばいいんだ!?)
内心冷や汗を流しながらも、ユウマは歓声に手を振り返していた。
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