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第4話「魔力測定、そして大爆発」

「では、本日の勇者候補選定、第一の試験を開始する!」


 学園長クロードの張りのある声が響いた。講堂の中央には奇妙な機械が据えられている。魔力測定器と呼ばれる代物で、半球状の水晶と無数の魔導回路が組み合わさった、いかにも古代文明の遺物といった外観だ。


「受験者は順番にこの水晶へ手を置く。数値が高いほど魔力量が大きいと判断される。……勇者たる者、膨大な魔力を宿しているのは当然だ」


 ざわめく学生たち。皆、我こそはと意気込んでいる。


 そして、壇上の片隅に立っていた黒瀬ユウマは——あくびを噛み殺していた。


(ふわぁ……なんか眠いな。昨日ゲームしすぎたせいか。まあ、どうせ俺は最強だから、魔力量とか関係ないけどな!)


 内心そんなことを考えているとは、誰も夢にも思わない。


 最初の受験者、御剣レオンが前へ出た。


 水晶に手を置くと、眩い光が迸り、魔力値「8520」が記録された。

 

 会場は「おおっ」とどよめく。


「流石は剣術科の天才……魔力操作の精度も高い」

「こりゃ本命かもしれんな」


 観客の評価は上々だ。だがレオン本人は、測定の光よりも視線をユウマへと向けていた。


(黒瀬……お前ならもっと恐ろしい数値を叩き出すのだろう? 俺など相手にしない、と……そういうことか)


 勝手に自滅していくプライドの塊である。


 二番手は魔法科のアリア=フェルネ。


 魔法理論の天才少女は、指先に魔力を込めて水晶に触れた。


 結果は「9900」。


「きゃあっ、すごい!」

「ほぼ一万じゃないか!」


 黄色い声が飛ぶ。アリアは小さく胸を張ったが、すぐにユウマの方へ視線を送る。


(黒瀬くん……あなたはきっと、私をも超える。未知の理論で……!)


 ——無論、当人はぼーっとして鼻を掻いていた。


 順番は次々と進み、会場は熱気を帯びていく。


 そして、ついに。


「次、黒瀬ユウマ!」


 呼ばれて、ユウマは肩を回しながら壇上へ上がった。観客席から一斉に注目が集まる。


(よしきた……まあ、俺は“最強”だからな。ここらでド派手に見せてやるか!)


 彼は大真面目にそう信じている。だが実際は魔力など人並み、測定すれば凡庸な数値が出るだけのはずだった。


 ユウマが水晶に手を置いた、その瞬間。


 ——バチッ。


 嫌な音がして、魔導回路の一部が火花を散らした。


 観客席がざわつく。


「おい……なんだ、今の」

「測定器の反応が……」


 如月タクトが慌てて制御盤に駆け寄る。


 「くそっ、老朽化してるのに強制稼働させるから……!」


 タクトは必死に魔力の流れを調整するが、既に水晶はギリギリと不穏な輝きを放っていた。


「な、なんか……熱いんだけど……?」


 ユウマが苦笑いしながら手を引こうとした、そのとき。


 ——ドゴォォォン!!!


 凄まじい爆発音と共に、測定器が大破。


 光と煙が講堂を覆い、観客たちは悲鳴を上げて身を伏せた。


 しばしの沈黙の後。


 煙の中から、煤だらけのユウマが姿を現した。


「ぷはっ……お、おい、これ壊れてんじゃねーのか? 俺、なんもしてないぞ」


 彼の呑気な言葉は、しかし聴衆には全く違う意味で届いた。


「……“計測不能”……?」

「規格外……! 機械ごと吹き飛ばすほどの魔力量ってことか!」

「やはり……勇者だ!」


 大歓声が巻き起こる。


「な、なんだと……!」


 レオンが唇を震わせる。


(俺の八千五百すら児戯に等しいというのか……! やはり、あの男は本気を出していなかった!)


 アリアは両手を合わせて感嘆の声を漏らす。


「……なんて理論なの……! 古代の測定機器に耐えきれない魔力……黒瀬くん、あなたはやはり“答え”を持っているのね!」


 セリシア姫も瞳を輝かせ、両手を胸に当てた。


「これが……予言の“偽りなき勇者”……!」


 次々に誤解が広がっていく。


 一方でタクトは半泣きだった。


「俺の、俺の改造した測定器がぁぁぁぁ! 貴重なパーツが……!」


 しかし周囲は彼の嘆きを「勇者の力に耐えきれなかった」と解釈し、慰めの言葉をかけていた。


 ユウマ本人はといえば。

  

(やっぱりな……俺が“最強”すぎて、機械なんかじゃ測れなかったか……!)


 得意げに腕を組んで頷いていた。完全に勘違いである。


 こうして、勇者候補選定の第一試験は大混乱の末に幕を閉じた。


 しかし学園中には新たな伝説が刻まれる。


 ——黒瀬ユウマ、魔力計測不能の男。

 ——機械を爆ぜさせた“規格外”の勇者。


 新聞部の東堂リョウが、既に血走った目で記事の草稿を書き始めていたのは言うまでもない。


 その夜。


 寮の自室で、ユウマはくしゃみをした。


「へっくし! ……なんか、噂されてんのかな」


 隣で勉強していたミサキが苦笑する。


「……ほんと、ユウマはすごいよ。なんで何もしてないのに、あんなことになるの?」

「だから言ってるだろ、俺は最強だからって」


 真顔で胸を張るユウマ。


 ミサキは呆れたように、それでいてどこか頬を染めながら彼を見つめていた。

ここまでお読みいただき、誠にありがとうございます。

もし「面白い」「続きが楽しみ」と感じていただけましたら、ブクマや★評価をいただけますと大変励みになります。

今後も楽しんでいただけるよう努めてまいりますので、引き続きどうぞよろしくお願いいたします。

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