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第16話「勇気測定(学園式)」

 ――学園中を震わせた新聞騒動から数日。


 黒瀬ユウマの名前は、もはや知らぬ者はいないほどに膨れ上がっていた。


「なぁ、聞いたか? “最強の男”が今度は勇気測定に挑戦するらしいぞ!」

「まじか! あの黒瀬先輩が!?」

「どれだけの数値が出るんだ……考えただけで震える!」


 そんな噂を広めているのは、新聞部の東堂リョウだった。


 自らまき散らした記事の熱が冷めぬうちに、次のネタを探す。彼にとってユウマは金脈そのものだった。



 昼休み。生徒会室。


 学園の生徒会長が、机を軽く叩いて言った。


「皆の者、次の行事は“勇気測定イベント”とする!」


 ざわめく役員たち。


「勇気測定……ですか?」

「そんなの昔の伝統行事じゃ……?」


 生徒会長はにやりと笑った。


「そうだ、伝統を復活させるのだ。何、内容は単純。魔導工学科が作った“勇気メーター”に立ち、どれだけの勇気を示せるか数値で表すだけ」


 副会長が眉をひそめる。


「でも、それってただの遊びですよね? 真剣にやる意味が……」


「違うな」会長は指を振る。


「この学園には今、伝説となりつつある男がいる。黒瀬ユウマ――。もし彼が参加すれば、学園はさらに盛り上がるだろう」


 役員たちは顔を見合わせ、納得したようにうなずいた。



 翌日。


 校庭には特設ステージが組まれ、その中央に巨大な装置が鎮座していた。


 円盤型の土台から伸びる透明な水晶柱。内部には複雑な歯車や光る魔導回路がぎっしりと組み込まれている。


「うわぁ……これが勇気メーター?」

「なんか科学と魔法の融合って感じだな」


 人だかりの中、ユウマは呑気に焼きそばパンを食べながらミサキに尋ねた。


「なぁミサキ、これって何するんだ?」

「何するんだじゃない! 勇気メーターに立って、どれだけ勇気があるか測るの!」

「ほーん。そんなの測ってどうすんの?」

「知らないよ! でも……ユウマなら絶対“最強”を証明できるってみんな期待してるの!」


 ユウマは頬にソースをつけたまま笑った。


「そっか、じゃあちょっと遊んでくるか」



 ステージ上。


 司会を務めるのは、新聞部のリョウだった。


「皆さんお待たせしました! 本日、この勇気メーターに挑戦するのは――!」


 タメを作り、声を張り上げる。


「“最強の男”――黒瀬ユウマ君だぁぁぁっ!」


 観客から大歓声。


「きゃー! ユウマ先輩ー!」

「勇気レベル、いくつまで振り切るんだろ!」

「いや、そもそも計測器が耐えられるのか……?」


 ユウマは「なんか盛り上がってるなぁ」と首をかしげながら登壇した。



 メーターの前に立つユウマ。


 水晶柱の内部が淡く光り始める。


 解説役として立っていたのは、魔導工学科の如月タクトだった。


 メガネを押し上げながら自信満々に語る。


「この勇気メーターは、被験者の精神波動を解析し、数値化する最新型だ。最大値は“999”。理論上、それ以上はあり得ない」


 生徒たちから「おぉー」と感嘆の声。


「さて……黒瀬君、準備はいいかい?」

「え? あ、うん。ここに立ってればいいんだろ?」


 ユウマは片手にまだ焼きそばパンを持ったまま、気楽に立った。



 次の瞬間。


 ――ビリッ。


 水晶柱の内部で火花が散り、メーターの針が急激に振り切れる。


「な、なんだ!?」

「999を超えた!? いや、メーターが壊れる!」


 轟音とともに装置が震え、針は“∞”の位置で止まった。


 観客席から悲鳴と歓声が入り混じる。


「無限大……!? 計測不能……!」

「やっぱり黒瀬先輩は規格外なんだ!」

「これが……最強……!」



 舞台袖でタクトは顔面蒼白になっていた。


(おかしい……! 配線がショートしただけのはずだ。だが、誰も信じない……!)


 必死に説明しようとしたが、群衆の熱狂がそれをかき消した。


「タクト先輩が言ってた! 999を超えるのは理論上あり得ないって!」

「じゃあ、それを超えた黒瀬先輩は理論を超越した存在だ!」


 タクトは膝から崩れ落ちる。


「ど、どうして……僕の科学が……神話に負けるんだ……」



 観客席では、様々な反応が渦巻いていた。


 剣士レオンは奥歯を噛みしめる。


「やはり……あの男は手を抜いていたのか。俺が本気を出す価値もないほどに……!」


 魔法少女アリアは目を輝かせる。


「勇気が∞だなんて……! あれこそ、真の勇者に相応しい精神波動……!」


 ユリナは両手を胸に当てて呟く。


「ユウマ君……やっぱり貴方は特別……」


 ツンデレ委員長のサラは顔を真っ赤にして叫ぶ。


「べ、別にアンタのことなんか認めてないんだからね! ∞とか、バカじゃないの!? ……でも、ちょっとだけ……かっこよかった」



 その頃。観客の隅で、学園長クロードが静かに笑んでいた。


「ほぅ……∞か。伝説の勇者でも到達できなかった数値を、彼はあっさりと……」


 隣にいた教師が慌てて言う。


「学園長、あれはきっと機械の故障で――」

「いいや、あれは“運命”だ」


 クロードは瞳を細める。


「黒瀬ユウマ……お前には次のステップを踏ませねばならぬ」


 そう呟いた声は、騒ぐ群衆には届かなかった。



 イベント終了後。


 ユウマはのんきにステージを降り、ミサキに笑いかけた。


「なぁミサキ、俺の勇気って∞らしいぞ」

「……アンタ、本当に無自覚すぎる」


 呆れ顔のミサキ。だが心のどこかで、確信が芽生えていた。


(もしかして……ユウマって、本当に最強なのかもしれない……?)


 こうして“勇気測定”は大成功に終わり、黒瀬ユウマの伝説はさらに肥大化していった。

ここまでお読みいただき、誠にありがとうございます。

もし「面白い」「続きが楽しみ」と感じていただけましたら、ブクマや★評価をいただけますと大変励みになります。

今後も楽しんでいただけるよう努めてまいりますので、引き続きどうぞよろしくお願いいたします。

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