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7.デート?2


 クレープを食べ終えて立ち上がったところで、また近付いてくる男がいた。一見は俺を隠すように立つ。さっきから一見、彼氏レベル高くない?



「お前、一見か……?」


 一見の向こうで、そんな声がした。


「やっぱ、一見じゃん!」


 友達かな?

 親しげに一見の肩を叩いてるけど……一見の友達って、聞いたことないな?


「カッコよくなってんなぁ。でも、中身そのまんま」

「そう……?」

「その後ろの子、彼女? まさか、違うよな」

「……彼女、だけど」

「は? マジで言ってんの?」

「言って、る」


 様子がおかしい。一見の顔を覗き込むと、顔を青くして視線を地面に落としていた。



 もしかしてこいつ、前の学校の……?



 ハッとして男を見た。

 警戒を顔に出すとまずい。この人だぁれ? と鈍い彼女の顔を作る。男はしっかり騙されてくれて、ニヤリと笑った。


「ねえ君、知ってる? コイツさ、ホモなんだよ。可愛い男が好きなんだってさ」


 ケラケラと笑う男に対して、一見はグッと唇を引き結んだ。


 そうか……それが嘘でも本当でも、この男にはどうでも良かったんだ。ただ攻撃出来る対象が欲しかっただけ。否定しようにも、周りの誰も聞く耳を持たなかったんだろう。


 一見は、トラウマだと言っていた。この男から離れたとしても、傷が癒えたわけじゃない。一見がコイツに言い返せるわけがなかった。


 でも……自分のことになるとうつむいてしまうのに、俺のことだと、一見は怖いくらいに怒ってくれた。

 今もこの男と会話をしようとしてた。今までみたいに俺に助けを求めずに……俺を、守ろうとしてくれてる。


 一見は、優しくて、とても強い。



「え~? そうなんですか~?」


 甘えた声を作って言い、上目遣いで男を見上げる。握った手を口元に当てて、にこっと笑ってみせた。



 ……よし、落ちた。



 自分が優位だと勘違いした男ほど、面白いくらいにコロリと落ちる。鬼のような姉仕込みの演技は、この程度の男には見抜けない。


「そうそう。って、君、声も可愛いね」

「そうですかぁ?」


 きゃっ、と手を口元に当てながら、羞恥心と戦う。



 わ……わたしはアイドル、不動のセンター……!



 自己暗示を掛けながら見つめていると、男の顔がデレッと緩んだ。


「そんな奴より俺とさ……」

「ん~、でもわたし、一見くんがいいなぁ」

「は?」

「一見くん、人の悪口ぜったい言わないし、優しくて真面目で頑張りやだし、わたしのことすっごく大事にしてくれるんだもん。さっきも守ってくれたんだよ?」


 こてん、と首を傾げてみせる。


「一見くん以上に素敵な人、わたし会ったことないよ?」


 唖然として固まる男を前に、一見の腕に腕を絡めてにっこりと笑ってみせた。


「わたしと遊びたいなら、一見くんよりいい男になって出直してきてね♡」


 語尾にハートを飛ばして、一見を引きずるようにしてその場を離れた。



 施設の外のひと気のない場所まで歩き、コンクリート壁に一見を立て掛けるように背を付けさせてから、俺は顔を覆ってしゃがみ込んだ。


「あー……緊張したぁ……」

「え? 今ので?」


 キョトンとする一見を、じっとりと見上げる。もう普通に話せてるじゃないか。


 ……何だか、どついてやりたい。そのマイペースさ、さっき見せろよ。いや、無理しろとは言わないけど。


「男ってバレたら、お前が女装した男とデートしてたって更にヤバい誤解されるだろ?」


 尾ひれが付いて、今の学校にも噂が回ってくるかもしれない。今の一見なら大丈夫だとは思うけど、それでまた傷付くのは見ていられなかった。


「壱村が分かってくれれば、それでいいよ」

「またお前は……」

「俺は、壱村が一番大事だから」

「それは……まあ、なんか、そうかなと思ってた」


 そう言うと、一見はまたキョトンとしてから、嬉しそうに笑った。

 その幸せそうな顔、さっき見せてやれ。あの男に幸せいっぱいです、って見せつけてやりたかった。



「壱村。ごめん」

「ん?」

「助けてくれて。俺、言い返せなくて……ごめん」


 グッと唇を噛み、拳を握る。

 悔しい。情けない。ぽつりぽつりと言葉を零しながら地面を睨み付ける一見に、俺の頬は緩んでいく。


 なんだ……一見、ちゃんと克服出来てんじゃん。

 逃げるでもなく戦おうとしたなんて、やっぱ一見は、ちゃんと強い。


「まあ、助けたっていうか、普通にあいつムカついたしな」


 ポンポンと一見の頭を撫でて、ニッと笑ってみせた。


「一見のこと馬鹿にされんのもめちゃくちゃ腹立ったし。お前の中身知ろうともしないで、勝手に見下して馬鹿にしやがって……」

「壱村……」


 思い出したらまたムカついてきた。


「俺のために怒ってくれて、ありがとう」

「お、……おお」


 あまりに甘く綺麗な笑顔を向けられて、おかしな返答になってしまった。今の一見はやばかった……男も殺す笑顔だ。



「あいつの前で俺を褒めてくれたのも、嘘でも嬉しかったよ」

「え、いや、嘘は言ってないけど」

「え?」

「今のとこ、総合的に考えて、お前に勝てる奴知らないけど」


 言ったことは全て本心だ。


「お前ってめちゃくちゃいい奴だし、すごい頑張るし」

「え……そんなの……」

「誰でも出来ることじゃないし、小さいもの好きなのをマイナスだと思ってるならまず顔でチャラだな。それでもすごいプラスだと思ってる」


 いい友人たちに囲まれてる俺でさえ、一見は特別だと思えるほどだ。



「強いて言えば、内臓出そうなくらい抱き締めてくるのやめて欲しいってか、俺の内臓も大事にしろよ?」

「壱村……」


 じわじわと顔を赤くしていた一見は、ついにうずくまって顔を隠してしまった。


「一見さ。絡まれてた俺を助けてくれた時も、あいつに彼女かって訊かれて、すぐにそうだって答えた時も、かっこよかったよ」


 ちゃんと彼女を守れる男だ。よしよし、と褒めるように頭を撫でる。


「っ……壱村っ」

「って、こら! 言ったそばからっ……!」


 ぎゅうううっと抱き締められて、内臓!! と叫ぶも……感極まった一見には届かない。総合的にはプラスだけど、待てが出来ずに暴走するのは、唯一のマイナスかもしれなかった。




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