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2.side:一見


 初日だけでも分かった。壱村(いちむら)は友達が多くて、クラスのムードメーカーだ。


 明るい性格とハッキリとした物言い。太陽のような笑顔。一緒にいるだけで元気になれる。友達が多いのも当然だった。壱村は身長を気にしているけど、堂々としてて俺には大きく見える。……俺とは真逆だ。


 俺にこうして構うのも、転校生だからだ。彼は面倒見がとても良いから。でもそれも、俺が隠していることを知ればきっと口も聞いて貰えなくなる。前の学校でも、そうだった。


 壱村だけは違う……そう自信を持って言い切ることが、俺にはできない。壱村だけは、違えばいいのに……。


 目の前の丸い後頭部を見つめて、そっと息を吐いた。




 配られたプリントを後ろに回した壱村は、俺を見て驚いた顔をした。でも今は授業中。壱村は何も言わずに前を向いた。


 授業が終わると、壱村は身体ごと俺の方を振り向いた。


「眼鏡、するんだ?」

「あ……うん。小さい文字が少し見づらいくらいだけど、一応ね」


 受験生だし、と言って教科書をしまう。


「席、替わって貰って悪かったな」


 申し訳なさそうにする壱村に、俺は心底驚いた。でも……それ以上に、嬉しい。


「やっぱり壱村って優しいな。この身長だから後ろに行くのは当然なんだけど、そんな風に気にしてくれた人いなかったから」

「そっか……」


 転校前はどれだけ不遇な学校生活を送っていたのか。壱村は眉を下げて、分かりやすくそんな顔をする。



「あっ、一見(いちみ)君、眼鏡だっ」

「え? ほんとだっ」

「雰囲気違ってかっこいい~」


 女の子たちが集まってきて、思わず壱村に視線で助けを求めた。会話を勉強しても、まだたくさんの人に囲まれるのは怖い。


「一見、さっき先生に呼ばれてたろ?」

「え? あ、そうだった」


 壱村は俺の視線に気付いて、自然に助け船を出してくれた。やっぱり優しくて格好いい。俺も、壱村みたいになれたら……。


「一見君、私もついて行っていい?」

「え、ごめんね、先生のところだから……」

「ほら一見、行くぞ」

「壱村君ずるいっ」


 俺は女の子たちに謝ってから、急いで壱村の後に続いて教室を出た。




「こめん、壱村……」


 階段を上がり、屋上に出たところで、俺は壱村に頭を下げる。


「ん? いいって。……彼女は大学で作るし、今は受験生だしな」


 壱村は遠くを見つめた。ますます申し訳ない。


「ってか、いつも俺が一緒にいるわけにもいかないし、女が苦手なら男友達作った方がいいよな。後で誰か紹介するな?」

「友達……」

「そんな不安そうな顔すんなって。俺以外にも友達いた方がいいだろ?」

「俺は、壱村がいればそれで……」


 言い掛けて、ハッとして口を噤んだ。壱村は、転校生の俺を気にかけてくれているだけだ。こんなことを言ったら、気持ち悪がられてしまう。


 嫌われることを想像するだけで、胸が痛い。まだ会ったばかりなのに、俺は壱村に酷く依存していた。


 ……でも、壱村は俺を気持ち悪がることなく、いつものように明るく笑った。



「一見って天然なんだな〜。それ女子に言ったら勘違いされるし、気を付けろよ?」


 俺の背中をポンと叩く。


「でもさ、その調子でもっと自分の意見主張していけよ。話しやすい奴だって分かって貰えるからさ」

「……ありがとう。そうしてみるよ」


 壱村は、どこまでも優しい。俺の不安になんて気付きもしない。本当に俺とは真逆で、あまりに眩しかった。



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