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26.数年後


 高校最後の想い出を作り、大学では、忙しさと充実感のある日々が待っていた。


 話していた通りに、みんなで海外旅行にも行った。きっと社会に出ても、ずっとこんな関係でいられるんだろうな。感傷的になるたびに、そう思えることが幸せだなと思った。



 一見との同居は、とんでもなく甘い日々……ということばかりでもなく、わりと普通のルームシェアだった。甘い時はとことんという感じだったけど、その割合が居心地が良くて、それも一見の計算のうちだったのかもしれない。



 そして、数年後――



 大学二年の時から雑誌モデルのバイトをしていた一見は、それをあっさり辞めて、大手銀行に就職した。


 元々は、「給料がいいから短時間でいいし、その分、壱村との時間が取れる」と言って始めたバイトだったことは知っている。


 でも俺としては、続ければいいのにと勿体なく思った。このイケメンを隠しておくなんて勿体ない。


 一見は認めないけど、辞めた一番の理由は俺だろう。人気が出過ぎて、一見に特別大切にされている俺に、大学で妬みやら何やらが飛び火していた。俺は全然気にしてなかったから隠してたのに、三年が終わる頃にバレてしまった。



 ……まあ、辞めたら辞めたで、こんなイケメンが俺だけのものっていう優越感があるけどさ。


 雑誌から一見の姿が消えて、やっと俺のとこに戻ってきた、という感覚も確かにあった。それをうっかり口にしてしまった日は、色々と大変なことになったのもいい思い出だ。



 社会人になった一見は、たった一年で異例の昇進をして、とんだ高給取りになってしまった。


 初任給が出た日にプロポーズされた時は、“一年勤められたら”と保留にしたけど……一年経ってしまってはもう断る理由がない。


「俺と、結婚してください」


 前みたいに確信犯じゃなく、ストレートに来られては、はぐらかすことも出来なかった。


「わ、わかった!」


 つい照れ隠しで、雰囲気も何もない答えを返してしまった。それでも一見は、今までで一番嬉しそうな顔をしてくれた。



 首から掛かるチェーンには、付き合い始めた日と、合格祝いの指輪が下がっている。


 左手の薬指には、一年前に「プロポーズが保留なら、これは婚約指輪だよ」と言って嵌められた指輪が。そこに重ねられる、新しい銀色。


 誓いを重ねたがるこの男は、これからあといくつ増やすつもりだろうか。きっとこれで終わりではないことに、くすぐったい気持ちになる。



 あの日、一見が転校してきて、席が前後になったことから始まり、続いてきた関係。


 指の上で輝く銀色が一際眩しく見えて、これはもう運命ってやつかな? と柄にもなく思ってしまう。


「壱村、泣かないで……」

「泣くだろ……嬉しい、し」


 素直に言葉にすると、一見が俺を抱き締める。高校生の頃みたいに、苦しくない。俺が一番心地いい力加減だ。



「……一見、俺のこと好きすぎ」

「好きだよ。ずっと、一生、好き」


 優しい声はずっと変わらない。一見の想いも、きっとこれからもずっと変わらないんだろうな。……そして、俺も。


 本当に、人生何が起こるか分からない。


 初めて出逢ったあの時には、こんなことになるなんて……こんな、泣きたいほどの幸せを感じる日が来るなんて、予想もしていなかったんだ。







―END―






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