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25.高校最後の思い出に


 それから卒業まではあっという間だった。


 長かった三年間も、終わってみると一瞬にも思える。卒業式でボロ泣きする佐藤や弐虎(にこ)を宥めながら、俺もウルッときてしまった。



 思えば、一見が現れてから人生が変わった。一見がいなければ、進む大学も違い、家を出る決断をすることもなかった。


 この外見も内面も、前より好きになれた。そして何より、誰かを好きになることを知った。


 向けられる想いを、疑わずに受けとめられるようになった。それは、とても貴重なことだと思う。




 そんな高校最後の想い出に、これはどうなんだ? とは思ったけど……大学生になったら絶対出来ないだろうし、前に約束してた通り、女の服装でデートをすることにした。


 姉も気合いが入ったらしくて、綺麗に巻かれた腰までのロングのエクステは、黒から茶色のグラデーションカラーになっていた。化粧も前より少し濃いめだ。


「リップは特に気合い入れたよ! ツヤツヤだけど、触っても何しても落ちないようにしといたからね!」


 そう力強く主張されたけど、純粋無垢な弟を何だと思っているのか。でも姉の技術はやっぱり最高で、どう見ても美少女にしか見えない。春っぽい明るい色のふわっとした素材の服も、姉の本気が表れていた。



 一見もどういう心境の変化か、今回は気に入ったらしい。「可愛い」と言ってあまりに甘い笑みを浮かべるものだから、周り中の女性の視線を集めてしまった。


 でも一見は気にせずに俺の手を取って、“ベタ惚れです”という顔で店に入っていく。今日は春色仕様の熊グッズを見て、今回はきちんと郵送をしてから、海に行く予定だ。



 店を出て、お揃いのストラップをスマホに付けていた時、一見の背後から聞き覚えのある声がした。


「えっ!? 一見が、浮気っ……!?」


 一見を指さして唖然としているのは、友人の中で一番騒がしい佐藤だった。


「お前っ……壱村のことはどうすんだよっ……」


 めちゃくちゃ怒ってるし。こいつ、本当にいい奴だな……騒がしいって思ってごめんな。佐藤はとても良い友人である。



「壱村? あっ、おにいちゃんのお友達ですか? 兄がいつもお世話になってます~」


 俺は一見の陰から顔を出して、コテン、と首を傾けてにっこりと笑ってみせた。


「えっ……浮気じゃなかった!? 壱村の妹なの!? うそっ、可愛い!」


 あっさりと信じて明るい顔をした。隣にいた池谷は少し疑う顔をしてて、二人は本当にいいコンビだなと思う。二人は同じ進学先だし、大学でも馬鹿正直な佐藤が悪い奴に騙されないように守ってやって欲しい。



「わあ~、ありがとうございます~。ははっ、残念だったな。俺だよ」


 どうだ、この声。見事な切り替えだろう。って感じで、一見が俺の隣で得意気な顔をした。


「…………………………壱、村……?」

「おー」

「…………マジ……?」

「はぁい、まじです~。お前の友達の壱村君だよ」


 声を切り替えながら、ニヤリと笑った。


「ンッ……う、うあーーーー!! 騙された!!」


 SNSでバズりそうな見事な地団駄を踏みながら悔しがる。



「なんでそんな面白いことになってんの!? 俺も呼んでよ!?」

「お前ってほんと偏見なさすぎていい友達だよな」

「ありがとな! 笑えすぎていっそ笑えない!」


 似合いすぎ! と言って俺をマジマジと見る。見れば見るほど笑えない。ただの美少女だ。そんな顔で。


「壱村は、悪戯好きだからね」

「まあ、こいつが面白い反応するのは分かってたからな」

「あまりいじめたら駄目だよ?」

「ちょっとそこ! イチャイチャしないでくれます!?」


 人目を気にせずにいられる格好だし、佐藤の前で手を取り合ってにっこりと笑った。お互いの指に輝く指輪を見せつけながら。



「………………あれ……? 結婚、した……?」

「ただのペアリングだろ?」

「まだ保留にされてるけど、俺は結婚するつもりだよ」


 呆れた顔をする池谷を見ながら、一見は幸せいっぱいという顔で言い切った。


「おめでとう!? 壱村の裏切り者ーー!! 良かったな!!」

「お、おお。ありがとな。いつもより情緒不安定だけど大丈夫か?」

「こいつ、昨日フラれたばかりだから優しくしてやってくれ」

「情報漏洩やめて!」


 ウッ、と両手で顔を覆う。今日も彼が元気そうで良かった。


「悪かったな。お詫びに何か奢るからさ」

「俺も奢るよ。ごめん」

「憐れむなー! 余計に虚しくなる!」


 ……と騒ぎながらも、フードコートでしっかりとセットメニューを奢って貰う佐藤だった。


 俺としても、男三人に囲まれる小悪魔美少女の気分が堪能出来てなかなか楽しかった。


 周りの誰も男だとは気付いてないようで少し複雑だったけど、きっと一見がイケメン過ぎるせいだ。並ぶと25cmも差があるからな。




 予定してた海には、四人で行った。デート中なのにと佐藤たちは遠慮したけど、二人とは進学先が違う。これからは今までのように頻繁には集まれないだろう。それなら、みんなで楽しく高校最後の想い出を作りたかった。


 海を背景に、四人で写真も撮った。


「すごいな。完全に美少女を囲む男三人にしか見えない」

「やべー! どんな関係だよー!」


 しみじみと言う池谷に、佐藤が爆笑する。


「アイドルとツーショットイベント」

「もうそれにしか見えねー!」


 池谷とツーショットを撮って見せると、佐藤はまた笑う。そんな佐藤とは二人で指でハートを作って、それを見た一見が後ろから抱き締めてきた。佐藤につられて笑いすぎて顎が痛い。



「でもま、次に来る時は、男の格好でだな」


 もうすぐこんな格好は似合わなくなる。それでいいはずなのに、何となく寂しい気持ちになった。


「高校最後の写真がこれになるかもってちょっとあれだけどさ、何年か後に見て、あの頃は馬鹿やってたなーってのもいい想い出だろ?」


 そう言うと、そうだな、とみんな笑う。


「大学は違うけどさ、休みの時とかまた集まろうぜ」

「おー! 次はどっか旅行とか行きたいよな!」


 佐藤が言うと、大学生になっても俺たちは何も変わらない気がする。なんだろ、俺、すごい感傷的になってる?


「いいな、旅行。海外とか?」

「え、壱村、英語話せんの!?」

「ここに通訳がいる」

「俺? うん、いいけど」

「いいのかよ!? ありがとう神よ!」


 いつでも素直な佐藤が可愛く見えてきて、俺と一見は佐藤を囲んで頭を撫でた。




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