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24.合格祝い


 家族にはきちんと自分の口から言いたくて、電話じゃなく、家に帰ってから合格を伝えた。するとみんなとても喜んでくれた。


 恵まれてるなと思う。それと同時に、家族と離れて暮らすことを少し躊躇ってしまい、一見と同居することはまだ言えなかった。



 その後は、一見のマンションに向かった。

 この濃い数ヶ月を過ごした一見の家は、もう想い出の場所になっている。そこを訪れるのも、後少しだ。


 一見の部屋も、これで最後かもと思うと感傷的になってしまう。そんな俺の様子を察してくれたのか、一見はただそばにいて、優しく髪を撫でてくれた。




 一見に触れられる心地よさで緊張の糸が切れたのか、気付けばうたた寝をしてしまっていた。


 目を開けると、目の前には……やたらと嬉しそうな、整った顔が。


「おはよう、壱村」

「おはよう……って、まさかずっと見てた……?」

「俺も寝ちゃって、今起きたところだよ」


 そう言うけど何となく嘘くさい。寝起きにしてはキラキラしすぎている。でも寝顔を見られるのは初めてじゃないし、まあいいか。


 それより、ふかふかの布団と一見に抱き締められてるこの状況。また眠気が襲ってきそうだ。


 寝てる間にソファからベッドに運んでくれたんだろうな。悪かったなと思って、一見の頭を撫でようとして……。



「は……? いやいやいや、保留って言ったじゃん!?」


 寝る前にはなかった物が、俺の指に嵌まっていた。慌てる俺を一見はギュウッと抱き締めて、頬を擦り寄せる。


「うん。だから、合格祝いだよ」


 俺も合格したからお揃い、と少し体を離して自分の手を見せる。


「…………合格、祝い……」


 そっか……そうか……。


 動揺して早とちりしたけど、確かにプロポーズじゃなさそう。指輪は左手じゃなくて、右手の薬指に嵌まっていた。


「……ありがとな」

「うん」


 素直に受け取ると、一見はキラキラの笑顔を浮かべる。



 普段使いしやすそうな、少し幅のある綺麗な指輪。赤くて太陽みたいな色の石がついている。


 以前貰った指輪にも、太陽みたいな石が付いていた。一見の、俺に対するイメージかなと思うと少しくすぐったい。


「……いや、ちょっと待て、これ本物の宝石じゃ……?」


 嫌な予感がして外してみれば、指輪の内側に、俺でも知ってるセレブな店名が刻印されていた。


「お前……連休中にどんだけバイトしたんだよ……」


 これはきっと連休中のバイト代の残りで買ったんだろう。……そういえば、夏休みにも週に一度は予定があると言っていた。それでも楽々合格するとは……。


「夜勤も出来れば良かったんだけど、高校生は不可だったんだ。だからそこまで高いものじゃなくて、ごめん」

「いや、充分過ぎる……貰うの申し訳ない……」

「壱村のために頑張ったんだから、貰って?」

「…………ありがとな」


 ……素直に、嬉しい。

 俺のために頑張ってくれたことが。

 バイトなんて慣れないだろうに、成長したな……とまた親心が顔を出した。それと同時に、大事にされているな、と恋人としても嬉しくて。



 俺も何か、一見にプレゼントをしたい……。



「一見は欲しいもんある? 合格祝いに」

「壱村が欲しい」


 一見は、迷いなく言い切った。


「…………その真意は」

「そのままの意味だよ」

「ま、まだ早い……」

「じゃあ、壱村からキスして欲しいな」

「うえっ!?」

「かわいい……」


 我慢していた分、と呟いて、一見は俺を思いきり抱き締めた。久しぶりの大蛇ばりの締め付けを受けながら、一見だなぁ、としみじみと思ってしまう。


 一見からのプレゼントは本当に嬉しくて、こうして合格出来たのも、一見のおかげで。そう考えると、出来る限りのことは叶えてやりたい。


 締め付けから解放されて、可愛い、と言って俺の顔を覗き込む一見に、これがプレゼントになればいいな……とキスをした。




 あの時の、一見の顔。


 ポカーンとして、じわじわ赤くなって、「不意打ち、ずるい……」と呟き、布団の中に埋まってしまった。


 そんな可愛い一見の姿に、一緒に暮らすのも悪くないな、と思ったのだ。





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