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【BL】一見くんと壱村くん。  作者: 雪 いつき


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21/27

20.好き


 泣き過ぎて力の抜けた壱村を抱き締めたまま、体勢を入れ替えて、フェンスに背を預けて座る。


 茜色を残した空。薄い月と、輝く星が、ひとつ。

 こんな空を見る度に、また今日のことを思い出すのだろう。



 気持ちが抑えられなくて、壱村を泣かせてしまった。優しく出来なかった。幼い子供のように泣きじゃくる姿が可愛くて、罪悪感よりも愛しさが勝ってしまった。


 嫌われてしまっただろうか。もうそばにいられないだろうか。


 それでも……諦められない。どうしても、離してあげられない。愛しいと思うことをやめられない。嫌わないでと願いながら、気付かれないようにそっと、髪にキスを落とした。



「……もう、やだ……」


 腕の中から零れた声。これから返る言葉を予想していたとしても、壱村の口から聞くのが怖い。抱き締める腕に力を込めると、壱村はどこか居心地が悪そうに身動ぎをした。


「お前の顔、まともに見れないし……心臓めちゃくちゃ痛くて……わけ分かんないまま体が勝手に逃げるし、ちゃんと言わなきゃって思うのに……どうしていいか分かんないんだよ……」


 壱村の手が、俺のシャツをギュッと掴む。まだ涙声のまま、弱々しく紡がれる言葉。それは、予想していた答えではなかった。



「どうしたらいいんだよ……」


 壱村らしくない、弱々しくて震える声。

 いつも男前な壱村らしくない、言葉たち。


 一見のせいだ。

 一見のせいで、涙が止まらなくて。

 一見のせいで、おかしくなった。


 そう言って、また涙を浮かべた。


 ……どうしよう。俺のせいで泣いている壱村が、今までで一番……可愛い。



「壱村、それって……」


 嫌われたくないと思いながらも、()()()()で泣いている壱村の顔を見たくて、両手でそっと頬を包んだ。


「…………意地悪すんな」


 分かってるくせに。少しだけ顔を上げてくれた壱村は、そんな顔で睨んでくる。


「うん、ごめん。どうしよう。俺、勝手にいいように解釈して、舞い上がってる」

「舞い上がって意地悪になるとか……」


 笑い飛ばそうとした壱村は、ハッとした顔をした。多分、前に俺が、踏まれるより踏む方かなと言ったからだ。


 あの時は冗談だったけど、俺は好きな子をいじめたいタイプかもしれない。だって、俺のせいで泣いてる壱村が……すごく可愛い。



♢♢♢



 告白って、こんな感じだっけ……?


 もっとドキドキして、お互いに甘くて優しい雰囲気の中で伝えて、伝え合って。そういうものじゃ……。


 …………いや、俺と一見は、そんなのじゃないか。


 思えば、一見の告白からそうだった。告白というには何かおかしかった。でもそれが、俺たちらしいのかもしれない。そう思うと、ふいに肩の力が抜けた。



 今まで逃げ回っていたのが馬鹿みたいだ。……と思ったそばから体が勝手に逃げ出しそうになる。


 子供のように泣きじゃくって、一見に八つ当たりして、喚き散らして……あまりの醜態だ。穴があったら入りたい。髪一本見えないくらいに埋めて欲しい。


 散々泣いた後だし、多分いま不細工な顔してる。やっぱりこのまま埋めて欲しい。こんな顔、見せられない。



「壱村?」


 また俯いた俺に声をかけるけど、一見は今度は無理矢理上を向かせようとはしなかった。


 そんな一見のシャツを掴む手に、力を込める。今なら分かる。好きな相手に自然に好きだと言える一見は、凄い。そんな一見の勇気に、想いに、応えたかった。


 逃げ出したい気持ちを叱咤して、少しだけ顔を上げる。



「一見」

「うん?」

「その……八つ当たりして、ごめんな」

「うん、大丈夫だよ。ちゃんと分かってるから」


 そう言って笑ってくれる。どんなに逃げても、どんなに無茶苦茶なことを言っても、ずっと好きでいてくれる。そんな一見だから……。


「俺、お前のこと、好き」

「うん。…………んっ、えっ!?」

「え、分かってたんじゃ……」

「勝手にそう解釈してたけど、壱村のことだから、ただ照れてるだけかなって……」


 アワワッと効果音が付きそうな顔をする。確かに俺、いつもそう思わせる行動してたもんな。



「……好きだ。俺も、一見と同じ、好き」

「っ……」


 感極まった顔をした一見に、思いきり抱き締められた。想像してた、犬のように尻尾を振って喜ぶ姿じゃなかった。言葉もないけど、その方が一見の気持ちが伝わってくる。


 一見が喜ぶかなと思ってたけど、俺の方が胸がドキドキしてぎゅーってなってる気がする。



 ……俺、どうして今まで気付かなかったんだろ。



 これ、めちゃくちゃ恋じゃんか……。




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