16.身分を超えた恋?
「早く解決しないと……」
そう思うのに、姉の言うように一見を好きかもって意識したら、まともに顔を見られなくなってしまった。今まで一見が避けていたのに、今度は俺が避けるという悪循環。
それでも席は前後で、どうしても一見の存在を感じる。
用紙を後ろに回す時に、たまたま手同士が当たった。俺も一見もパッと手を離して、床に落ちた紙を慌てて拾おうとして、また当たった。
「ご、ごめん」
「うん、俺も……」
その後の授業は、全く集中出来なかった……本当にまずい……。
♢♢♢
「あーーー!! もう無理!!」
今日の昼は外いこ! と俺を中庭に連れ出した佐藤が、突然叫ぶ。
「好きなら付き合えばいいじゃん!?」
「は? なに?」
「もう無理! かゆい! 見てらんない!」
ワーワーとご乱心の佐藤を指さして、何これ? と池谷に視線で訊いてみる。
「壱村と一見がどう見ても両想いなのに、お互いモジモジしてるのがもどかしくて耐えられないらしい」
「そう! それ!」
佐藤がビシッと俺を指したから、掴んでみた。ソフトにしたのに「痛い! ヒドイ!」と騒ぐから、よしよし、と言いながらペチペチと手の甲を叩いた。
佐藤はいつも突然何を言い出すか分からない。一見が委員会の用事で良かった……。
「両想い以前に、男同士だけどな」
「あ、偏見気にしてる? 俺、そういうのないんだよな。むしろ壱村が女の子に彼氏面してる方が嫌だ」
「いや、それ偏見」
「壱村はそのままでいてくれ。俺より先に大人にならないでくれ」
「あー、そういう。どう考えても確実にお前より先になるわ」
ヒドイ、と顔を覆って泣き真似をする。でも佐藤はまた元気に復活した。
「でもさー、姫と騎士の身分を越えた恋、いーじゃん」
「乙女か」
「壱村、顔は姫なのになー」
ケラケラと悪気なく笑うものだから、こちらも悪気なく頭にチョップした。
「ってか、盛り上がってるとこ悪いんだけど、そもそもそういう好きかまだ分かんないし」
「………………マジで言ってる……?」
二人は同時に目を丸くした。
「いや、一見は見たまんまだけど、壱村も相当ダダ漏れだけど……」
「は……?」
「壱村も、一見のこと好きじゃん?」
「は…………??」
ダダ漏れ。何が。どこが。なんで?
二人は顔を見合わせてから、やけに慈愛に満ちた笑顔で俺の肩を叩いた。
「壱村。俺はいつでも応援してるからな」
「俺も。素直になれるといいな」
「いや、素直もなにも……」
どこがダダ漏れ?
それが聞きたいのに、二人は「分かってるから」とか何とか言いながら、よしよしと俺の頭を撫でた。