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12.守ってる


 だからと言って、一見を避ける理由にはならないわけで。興味津々に向けられる視線は鬱陶しいけど、女子に妬まれるよりは応援される方が気が楽だった。


 昼休みにじゃんけんで負けて購買におつかいに行った佐藤と池谷を待ちながら、一見とは普段通りに授業のことを話していた。



「姫~、買って来ましたよ~」

「ふざけるな?」

「蔑んだ目もステキ~、踏んで~」

「それもう姫じゃないじゃん」

「あ~、女王様~」


 悪ノリする佐藤に、椅子に座ったまま蹴りを入れる。その脚を一見の手がそっと押さえた。


「壱村、駄目だよ」

「いや、これくらい普段から……」

「踏むなら俺にしなよ」

「…………踏まれたいタイプの人……?」

「どっちかというと、踏む方かな」

「お前が言うと冗談に聞こえない」


 笑い飛ばしたのに、ニコニコと笑って俺を見つめる一見の目に、背筋がヒヤッとした。


「一見は、物凄く面白い奴だったんだな」

「もうだめっ、腹痛いっ……」


 しみじみと言う池谷と、バンバンと机を叩きながら笑う佐藤。俺のコロッケパンの袋を開けて、笑顔で渡してくる一見。いや、袋くらい自分で開けられるって。


 女子たちは一見の一挙一動にキャアキャア言って、もはや俺には心休まる時間がない。


 ってか、勉強しろ受験生。

 うっかり忘れてしまいそうになるけど、受験生だ。

 受験なぁ……気が重いけどさ。思わず溜め息をついた。




 それから一見は、購買に行くにもトイレに行くにもついてきた。

 毎日家まで送ってくれて、すっかり母からも「これからも息子のことをよろしくね」と言われるまでに信頼されている。


 もしかして、外堀から埋められてる? ……と気付いた時には、もう遅かった。一見はたった半月で、俺の家族全員の信頼を得たのだった。




 今日も一見の家で勉強を教えて貰いながら、ほぼ丸一日一緒だったな、と思い出して小さく溜め息をつく。


 一見が好きだと言ってくれる気持ちは嬉しい。でも、このままじゃ駄目だ。俺はやっぱり女の子が好きだし、このままじゃ一見のためにもならない。心を鬼にしなくては。


「一見さ……ストーカーって言葉、知ってる?」

「知ってるけど、俺は違うよ? 隠れて見てるだけじゃない。こうして守ってる」

「いや、こえーよ」

「だって壱村、最近ますます可愛くなったから」


 頬を撫でられて、俺は思わず真顔になった。


「女じゃないし、そういういかにもな発言は何とも思わないからな?」

「じゃあ、どういう言葉ならドキドキしてくれる?」


 指の背で頬を撫でられて、擽ったさに首を竦めた。

 いつの間にか、二人きりになるとこうして触れられるようになっていた。別に嫌じゃないし、最近抱き締められる回数も減ったから、これで発散出来ているならと放置して……るのがいけなかったんだろうな……。



「……顔」

「え?」

「顔は好き」

「壱村って、面食いなんだ」

「自分で言うなよ? その顔じゃなきゃ顔面殴ってる」


 これだからイケメンは。ムッと不機嫌な顔をしてみせても、一見は「かわいい」と呟いて、俺の頬を撫でる。


「っ……!」


 そのまま顔が近付いてきて、慌てて押し返した。


「なっ……にキスしようとしてんだよっ……」

「え? 俺たち、付き合ってるんじゃ……」

「は?」

「俺、好きになるのは後からでいいからって言ったよね? あれから何も言ってこないから、了承してくれたんだと思ってたけど……」

「そんなわけっ…………そうだよな……俺、何も言ってないよな……」


 これは完全に俺が悪い。期待させて本当に悪かった。罪悪感で胸がチクチクするけど、ここはきちんと伝えなければ。



「一見、ごめん。お前のことは好きだけど、付き合うとかそういう感じでは考えられないっていうか……出来たら今まで通りで」

「ごめん、壱村。その答えは受け取れない」

「んんっ??」


 受け取れない、って、それこっちが言う台詞では?


「好きだ、って、その言葉しか受け取れないから」

「は……え、なに……? 一見、お前、いつの間にそんな俺様に……」

「前に言っただろう? 手段は選んでいられないって。俺は壱村がいればそれでいい。壱村しかいらない。壱村も、俺のこと好きになってよ」


 両手でしっかりと手を握られる。真っ直ぐに見つめられて、思わず腰が引けた。



 ……いや、落ち着け……落ち着け……。



 はーー、と深く息を吐く。



「一見。いいか、良く考えろ……もし俺がお前と付き合ったとして、俺と付き合ってるって噂が前いた学校まで届いたら、あの腹立つ野郎がまた馬鹿にしに来るかもしれないんだぞ?」

「構わないよ。誰に何を言われても、誰もそばにいなくなっても、俺は壱村がいてくれたら……」


 そこで、言葉を切った。


「……でも、そうか」


 今までの勢いが嘘のように肩を落として、眉を下げた。


「これからは、壱村を好きなこと、誰にも言わないようにするよ」

「急にどうした?」

「壱村には迷惑をかけたくない」

「別に、迷惑じゃ……」


 そう返すと、一見は困ったように笑った。


「大事にすることはやめないけど、ちゃんとそういうのじゃないって言うから」


 ごめん。そう言って手を離した。


「一見……」

「……次は、この問題を解いてみようか」


 話はこれで終わり。

 そう言うように一見は俺から離れて、問題集を手に取った。




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