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第6話 「Lv1で反則(チート)必須の第二次試験」

※ 改行3つ

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※ ◆ 

 → 場面スキップ (数時間後 場面切り替え)

「———では第二次試験、開始っ!」


 大講義室に流れたチャイムと共に、試験官のストログが試験開始を合図する。


 三十人の受験者は配られた用紙を即座に表に返し、一斉に問題を解き始める。


 試験問題は小学校レベルのものから何かの専門知識を問われる問題、それからまるで意味不明な問題まで。


 試験範囲はと聞かれたら…この世の教科書の全ページ、と真面目にそんな大雑把にしか答えられないほど、配られた問題用紙は幅広い知識を求めている。


 こんなテストで満点なんか取る奴がいたら驚きだろ…———




 そうして試験が始まって三分程経った頃———


「あぁ、そうだ。こんな重要なことを言い忘れていた…皆、ペンを止めて聞いてくれ。この試験の合格ラインだが———」


 ストログは説明に抜けがあったのか、受験者の皆がペンを止めたのを確認すると、前代未聞、とんでもないことを言い出す。


「———合格ラインは満点だ。それ以外は絶対に認めん」


 その言葉に皆は刹那の唖然、そして瞬く間に困惑させたのち、驚愕させる。

 ———転生元日から約四年の間、人々は天災や異核獣から避けて生きてきた。


 そのため勉学などは必要最低限なものであり、ここ最近になってようやく質の高い教育を行える施設ができた状態であった。


 それでもこの場にいる受験者たちのほとんどは、旧世界の自身の歳相応の知識を身につけてから来ている。


 しかし、それ以上の知識を求められたのならば、この場にいる誰もが自身の知識だけでその問題を解くことはできないだろう。ましてや専門的な知識、芸術といったことなどわかる訳がない。だからこそ、この場の皆がオーバーなほどに驚愕してしまう。


 当然、すぐに場は満点という合格ラインに納得のいかない受験者たちで半狂乱状態の騒ぎが始まる。ただブーイングを上げる者、合格ラインを下げろと言う者、ストログに罵声を浴びせる者などなど、しかしストログは聞く耳持たずで話を続ける。


「重要なことだが、もし解答用紙を紛失したり、破けるようなことがあれば失格となる。気をつけておけ」


「その前に満点が無理だわ!」


 ストログはあらゆる声を無視してそっと教卓にしまわれていた椅子を取って座り、机に何かの用紙を置くと、試験官としての責務か、受験者たちをじっと監視し始める。それでも受験者の騒ぎは収まらず———


「これ以上騒ぐのならば、今この場で失格とするぞ」


 ストログが静かながらに言い放った言葉に、第二次試験始まって五分足らずの退場はさすがに避けたいのか、皆一斉に黙り込むと、大講義室には先の罵声だけが反響音として残るのみだった。




 ———管制室にて。


「———死水団長、この試験はその…さすがに無理くないですか? このままだと今年の合格者は0人だって有り得ますよ? せっかく期待できる子がいるのに…何より今回の応募枠は戦闘や領域調査なんかを任せるための選抜ですよ? 一定レベルの理解力さえ伴ってくれていれば、それ以上のものは必要ないんじゃ…?」


「…ああ、ツクシの言う通りだろう。だから第二次試験はこの内容なんじゃないか…?」


「え? それはどういう…」


 言葉の意図がつかめず、ツクシは「?」のマークを浮かべていると、団長はマガツたちの映るモニターのあるところへ顎をクイクイと差し示して伝える。


「———んー……あぁ! そういうことか…だからこの人選に! はは…でもこれは、知らない者たちからしてみれば…」


「…先に言っておくが…この試験を考えたのはストログだからな?」


「え? あ、あぁ…わ、ワカッテマスヨー…」


 てっきり捻くれた性格の団長が考えた試験かと思った…。なんてことをツクシは心の中でボソッと呟く。


 管制室の静まりに、その場の者たちはモニターに映る大講義室で何かハプニングでも起こって、この静寂を打ち消してくれないかと願う、そんな気まずい空気が広がるのだった。




 ———ほとんどの受験者が試験を諦め、広い大講義室には微かなペンのカリカリ音だけが響く。そんな中、俺も同様に手詰まりとなって周りを見渡していると、カムイに目が行く。


「———君、カンニングをするな」


 早々と試験官から注意が入る。


「———っ!? すみません!」


 少し横を向いていただけでストログに注意されてしまった。しかしどうしたものか…このままじゃ不合格になってしまう。どうにかして問題を解かないと…


 俺はそう悩んでふと下を向くと、そこには———


「…お前何してんだよ」


「マガツー…答え、教えてくれ…」


 しゃがみながら股下に潜り込んでいる影雷の姿が。

 とりあえずどう来たかはあとで聞くとして、俺はこっそりと叫ぶように返答する。


「答えなんて教えられるか…! バレたら俺もお前も失格になるだろ!」


「大丈夫、大丈夫。バレなきゃいける…! 俺の答えも見せてやるからさ」


 こんな小さいガキに背中を押されて不正に手を出さなきゃならんのか…!


 だが手詰まりなまま不合格になるくらいならと、俺は影雷の取引に応じようとしたその時、ストログが再びこちらに声をかけてくる。


「君、先ほどから何をコソコソと話している」


「———っ!? まずい! 影雷戻れ! ———ってあれ?」


「それに一番後ろの席にいた忍びの少年も先ほどから姿が見えないが…?」


 絶体絶命だと思ったのはほんの一瞬だけ。机の下を再び見下ろした時には影雷の姿はなく、代わりに彼の解答用紙が置かれていたのだ。


「いや〜すみません、消しゴムが結構離れたところに落ちちゃって…しゃがみながら探してました。あはは…」


 影雷はいつの間にか自身の席に戻っており、ストログに向かって引き攣った顔で誤魔化している。対して俺はいつの間に戻ったのかと疑問を浮べて影雷を見ると、一瞬目が合ってウインクとグッジョブサインを送られる。


 ———なんだアイツ…。


「…そうか。しかし物を落とした際には私に言うように。忍者少年のことはわかった。それで、君は何を下に向かってコソコソとしていた…」


 クソッ! 影雷に紛れて俺も許して欲しかった…! 不味いな…もしこのまま机の下を見られでもしたら、影雷の解答用紙が見つかってしまう…。


 結局の絶望的な状況に影雷の解答用紙を隠す暇もなく、ストログは教卓の上に置いていた用紙を懐のポケットにしまうと、こちらに向かってくる。


 俺は言い訳の言葉を急いで探し、考えつくや否や早口で答える。


「お、俺、深く物事考えると床に独り言ぶつけてしまうんですよっ! い、いるでしょ? 身近にも一人くらいそういう人…ホントすみません…あははは…」


 恥を承知で誤魔化したマガツ渾身のでたらめに、ストログはそうか、と一言。教卓へ席に戻っていく。きっと隣のカムイさんには変な人認定が確定化されたろうが、気を落とすことなくマガツは強く生きる。


 はぁ、とりあえず誤魔化すことはできたようだ。あとは影雷の答えを写して、って…影雷の奴、すでに俺の答え写してるし…———よし、写し終わった。あとは影雷に解答用紙を返すだけだ。


 俺は予備のペンに限界解除を施し、ストログにバレないように遠くの壁に投げる。ペンは壁に当たるとガラスが割れる音を立て、ストログのみならず受験者の皆が音のした方向へ向く。その間に即座に影雷の席へ解答用紙を返し、飛び上がるように自身の席へ帰る。


 ———ふぅ、バレてないな。これで先ほどよりは空欄はなくなったが、それでもまだまだ満点には程遠い。一度不正すれば二度三度も同じことだ。どうにか他の人たちの答えも見れないものか…。


 俺の思考が完全にカンニング脳になったところで、真っ先にカンニングしようとしたのは隣の受験者カムイ。


 先ほど彼女を見た際、全くもってわざとでは無いのだが、解答用紙も目に入ってしまった。その時かなり答えが埋まっているように見えた。もし彼女の解答用紙をカンニングすることができれば、さらに満点に近づくことができるだろう。


 しかし試験官ストログの目をどう掻い潜ってカンニングしたものか———


「オ前ラ、サッキカラ何シテンダ?」


 ———っ!?


 その声は突如、一切の気配を感じさせずに耳元に囁かれ、俺は背筋がゾワゾワして冷や汗が出る。


 いつの間にこんな真後ろまでっ!? それにこの声は誰だ!? ストログではないし、影雷でもない。ただ耳元で囁かれただけで、ここまでゾッとする恐怖を感じたのは初めてだ…っていうかなぜこんなところまで来ているのに試験官は注意しない…! まさか、試験官は二人いたのか!?


 俺は焦って反射的に振り向く。———しかし後ろには空席が数列、最後尾に影雷の姿のみ。影雷に変化がないのを察するに、誰にも気付かれず近づくことのできる耀偽の持ち主。そう俺は断定し、これを何らかの試験の公害と判断する、が———


「状況ヲ見ルニ、オ前トー…忍者ノ娘? イヤ、サッキ少年トカ言ッテタシ男ナノカ? マアドッチデモイイ。二人デ協力シテ答エヲ埋メテイル、ッテ所カ?」


 マズイ…誰だか分からないが、カンニングしていることがバレた…どう誤魔化す…!?


「オイオイ…勘違いすんな! 俺はお前らをチクったりしねぇよ! その逆だ。このまま無理ゲーで不合格もらうくらいなら、ズルした方がまだ後悔しないってもんだ。だから、俺も協力するぜ!」


 え…? どういうことだ? 協力するって…? こいつは敵じゃない? しかも近くにはカムイさんしかいない。それなのに耳元から聞こえる声、そしてこの何度聞いても背筋が震える感覚。


 多少和らいだようにも感じるが…透明化の耀偽なのか? というか先からなぜ俺は声を出していないのに会話が成立している!?


「おいおいおいおい…落ち着け! 俺の名はカース。耀偽の名をカーステレパスつって能力は今この状況のように、お前に近づかずとも見えていれば心の声で意思疎通が可能なんだ。ただお前が今経験しているように、話している最中相手は耳元で話されるような感覚と背筋がゾワゾワする感覚が付く。そこは申し訳ねぇが我慢してくれ」


 俺はキョロキョロと周りを見ると、一人の相手と目が合い満面のスマイルとグッジョブサインを送ってくる。


 な、なるほどアンタか…それで、協力してくれるのはありがたいのだが、多分カースさんが———


「さんも敬語も要らんぜ!」


 ん? わ、わかった…それでなんだけど、カースの答えだけを写しても、全部は絶対埋まらないだろ?


「まあだろうな」


 だからカースのその耀偽で、協力者を一人でも多く増やしたいんだけど、頼めるか?


「そりゃいいが…全員に助け要請して大丈夫なのか? チクられでもしたら…」


 …ああ、俺もそう思ったんだけどさ。思い直してみて、多分みんなも俺たちと同じようにこんな無理ゲー付き合ってらんない、って感じだと思うんだ。


「まあぁ、確かにな…うしっ! わかった! やってやろうじゃねぇか! ただ俺の耀偽は一人限定なんだ。その間はお前とのやり取りも出来なくなるし、多少時間をもらうことにもなるが平気か?」


 あぁ大丈夫だ、頼んだぞ。俺も出来る限りストログにバレないよう近くにいる人に協力を要請してみるよ。あ、それと注文が多くて申し訳ないんだが、ついでに耀偽も教えてもらえるよう交渉を頼みたいだがいいか?


「ハハッ! 任せとけ! じゃあいざ———出陣だ!」

 ———出陣だ!


 こうして俺とカースは試験の不正協力要請を開始する。


 俺はまず問題用紙の一部を切り取り、カムイにその切れ端で協力要請とその内容について書いた紙を渡す。


 カムイはそれをよそめにして見ると、状況を察するように受け取り、少し悩んだ末に俺にだけ分かるよう軽く頷く。協力要請は成功したようだ。———そこからさらに協力要請をカムイや影雷たちにもに伝達してもらい、数分のうちに受験者全員に行き届く。




 もう皆薄々勘づいていた。この試験は元より一人では突破不可能な試験であることを。問題用紙の問いに、一人一人の趣味や旧世界の知識が問われていることから、それは明白であった。


 だからこそ、この協力要請は必然的に呑む以外の選択はなく、それどころか天の助けですらあったのだ。


「———マガツ、これでこの場にいる受験者三十人全員に協力要請が届いたな」


 そうだな。ありがと、ご苦労様だカース。それでみんなの耀偽は聞けたか?


「あぁ、それがだな…一人を除いて全員協力はすると言ってくれたんだが…耀偽まで教えてくれたのは六人だけだった。教えてもらう条件に言い出しっぺの俺とマガツの能力は明かしちまったが、よかったんだよな?」


 あぁ、構わないよ。それで、聞けた耀偽はどんなものだったんだ?


 カースが耀偽の開示交渉に成功したのは六人。これ以降にも試験が控えている中で、耀偽の能力を教えてくれる人が少ないのは当然だ。どうにかこの状況で使えそうなものがあることを願いたいが…。


 俺は天に祈るでもなく願望を掲げながら、顎に手をつけ、カースから六人の耀偽の情報を聞き取る。


「———それで六つの耀偽の中で使えそうなのは有ったか?」


 あぁそうだな…テイクさんのリプレイプロジェクター。今この状況に置いて、最適解の耀偽だよ。




 耀偽名、リプレイプロジェクター。


 能力は端的に言えば「一定の空間に過去の映像を映す」といった能力。


 例えば、サッカーコートの大きさに合わせて、観客席までは届かない範囲で発動するとしよう。

 その際に空間に映す映像は過去数日前にあった試合とする。


 すると、観客席側(外側)からは過去の試合が観戦でき、今まさしく目の前で試合が繰り広げられているように見せることが出来る。


 しかし、サッカーコート側(内側)では映像の中にいるため過去の映像は見えず、何もしてないのに観客席側だけが、何故だか異様に盛り上がっている状況になる。


 また、映された過去の映像は映像に過ぎず、物理的接触能力はない。


 要は内側を過去の映像で蓋をして、外側から内側の現状を見えなくするという訳だ。




「———それで、何でこの耀偽が必要なんだ?」


 そりゃもちろんカンニングするのに監視の目、ストログの監視を誤魔化すためだよ。これがないと、仮にカースが全員から1問ずつ答えを教えてもらって、さらにみんなにその答えを教えるなんてしてたら余裕で制限時間超えるだろ? だけどテイクさんの耀偽なら———?


「そうか! ———カンニング大会が安全に行える!」

 ———カンニング大会が安全に行える!


 たださすがに、何の前触れも無くリプレイプロジェクターを発動したら、急に俺たちの位置が若干動いて不自然なことになる。だからストログの目を一瞬だけズラす…っのためにカース、頼めるか?


「…ハハッ、あぁ! もちろん、盛大なのぶちかましてやる! ———三、二、一…!」


 カースの一の合図が終わると同時に、俺はテイクへ耀偽発動のサインとして机にペンを二回叩く出す。


「———オマエノウシロニイルゾ…」


 カースはもはや本物の呪いとしか思えぬ名演技で、ストログに耀偽を用いて話しかける。


 ストログの強面の顔は一瞬にして恐怖の顔に歪み、後ろを大慌てて振り向く。その隙を見逃さず、リプレイプロジェクターはストログを巻き込まない程度の範囲で発動され、俺たちの現在を過去の映像が覆う。


 瞬時に受験者たちは中心の席に集い、念願のカンニング大会が始まる。


 皆これ以上ないほど必死の形相で他者の解答用紙をカンニングしていく。これで一件落着、皆で合格ハッピーエンド。


 ———ならばどれほど良かっただろうか、問題が発生する。


「この筆記問題だけ誰も書いてないじゃん…どうすんのこれ…」


 影雷の一言に、受験者の一人が廊下側の一番奥の席を指差して言う。


「あいつが答え知ってんじゃない? 一人だけ席に座ったまま協力しないあいつがよぉ…」


「いや、アイツの解答用紙もこっそり覗いたけど、ここの問題は空欄だったぜ?」


 万事休すとはまさにこのこと。皆が沈黙し困り果てる中、これに追い討ちをかけるカムイの一言が彼らを襲う。


「というかまず、これとこれ、答えはどっちが正しいの? 誰か確証を持ってわかる人いる?」


 さらなる沈黙、そして絶望。いや、これも皆が薄々勘付いていたこと、というよりもぶつかると予期していたこと。何なら偽りの希望にすがり、目を背けていたことだった。


 一方の解答用紙ではAと答えているのに、もう一方の解答用紙にはBと書いてあるという矛盾。ここまでしてもなお、解決しない問題に皆現実逃避。湧き出るはストログへの殺意。


「……はぁ、打つ手はもうねぇな。まあ、よくやった方だ。今回は俺たちの勉強不足…まさかこんな、三十人いて誰も解けねぇ問題がでてくるとは思わねぇだろ。良い終わり方じゃ無いけどよ、みんなありがとな。協力してくれて。とくにマガツ、お前には一番…マガツ?」


 どんよりとした空気に、カースは早くも諦めの言葉とここまでの皆の労いに感謝する。と、そんな最中にマガツの顔を見ると、顎に手を置いて、何か深く考え事をしている姿が目に入り、口を止めて首を傾げる。


 ———俺は何かぼんやりとこの状況に引っかかっていた。それを明確に思わせ、思考を働かせるまでに至ったのはカースの言葉だった。


 三十人もいて誰も解けない。果たしてそんな問題をこの試験で出すか? それでは満点という合格ラインが現在のような状況を見越したとしても突破を不可能にさせてしまう。


 考え得るのは騎士団側が求めている形と違うから。ならどのような形にすれば誰もがこれっぽっちもわからない問題を解き、全ての問題を正しい答えで書き、満点の解答用紙を完成させられる?


 ここまでくれば、考えはまともではないことを導き出す。


 何、すでにカンニング大会なんてものを開催したんだ。この方法だって、これといって変わらないだろう。


「———模範解答の紙…」


「え…?」


「模範解答用紙があれば…満点の解答用紙に出来る…」


 俺はボソッとそう呟いた。


 そんな発言に皆がまず思ったのは、コイツ突拍子もないことを言い始めたぞ、だった。しかし次にこう思う。


「———それだッ!」


 どんより悲観的な空気は一変し、皆が一気に活路を見出す。


「でもその模範解答用紙はどこにあるんだ?」


 まず問題がそこだが、あらかた検討はついている。


「おそらくはストログが座る教卓の上に置かれた裏面になった紙。あれだと思う。影雷が俺の股下に潜り込んで不審がられた時、ストログは近づく際にその紙をわざわざ手に取って上着のポケットにしまっていた。あん時は何ら気に止めなかったけど、今となればあの紙はかなり怪しい」


「場所はわかってるのか…でもさすがにあんなガッツリ腕で抑えてる物、俺の速さでも取りにいけないぜ…?」


 その通りだ。影雷が如何に速く動けても、引き抜く際に紙が破れては意味がない。それにストログは今さっきからいろんなことが起こって警戒心が最高調だろう。


 無策で至近距離まで近づけば、確実に気づかれる。


「影雷の言う通り、模範解答用紙を真正面から奪うのは難しいだろうね。だけど心配ないだろ? ここには核者が三十人もいるんだ」


 俺の言葉を聞いて、皆が皆を見る。そして理解する。今目を向けた者、向けられた者たちは、目指すものを同じくする同志であると。それに気付いた時、カースたちのか細く消えかけていた闘志は再び燃え上がる。


「そうだな! そうだぜ! みんなで協力すれば、ストログから気づかれず模範解答用紙を奪うことは十分できるはずだ!」


 皆の決意は結束となり、俺は最後の喝を入れる。


「この試験、敵はストログただ一人! 絶対奪い取るぞぉぉ!」


「———模範解答用紙ぃぃぃッ!」


 受験者たちの掛け声は打ち合わせた訳でもなく、同時に同じことを言わせてみせる。これは正真正銘の結束。狙うはストログが持つ裏返った用紙、すなわちラストリゾート。熱き思いの若人どもは、今成せる全力にてそれを狙い定めたのだった…!


 その頃、教卓で大講義室全体を監視するストログは———


「……奇妙にも…動いていない受験者たちから、声だけは聞こえてくる…まさか、気づいてないのか…?」


 皆、ストログの優しさで耀偽の使用を知らないふりをしてもらっているなど気づかないまま、模範解答用紙奪取作戦は実行される。

——おまけパート——

カース

「俺は今とんでもない奴を捉えている…

 講義室への移動中に見た時から、ソイツはすでにそのとんでもなさを放ち続け、

 また、俺はすぐにそれを察知した…

 昔から人を驚かすことが趣味である俺は

 どのタイミングならその人間が一番驚くのかを見計らうことが癖になっていた。

 それで身についた特性こそ、人のオーラを見ることができるという、

 いわば——俺のサ○ドエフェクト…

 オーラはその人間の本性、本質を意味し、それが形となって身体から溢れる。

 贖罪騎士団、並びに受験者やその他核者は皆癖のあるオーラをしているが

 あれはもう癖だとかのレベルじゃない…

 なんだあの捉えているのに捉えきれない禍々しいオーラは…

 そのくせ本人は普通を装うように取り繕ってやがる。

 絶対にヤベェ奴だ。しかし好奇心が勝っちまう。許せっ俺!

 試しに一度俺の耀偽——カーステレパスで脅すことをよッ…!

 さあっその面の皮で覆ったもんさらけ出してもらうぜ!

 ———オ前ラ、サッキカラ何シテンダ?———

 俺の予想が正しければこいつは驚かずに、不敵に笑うッ…!」

マガツ

「———っ!?(驚きながら慌てて後ろを向く)」

カース

「うん、一般的だ。」

——終わり——


——————

第6話をお読み頂きありがとうございました!

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