第1話「進化した人間 ” 核者 ” 」= ワールドリスタート”後”
※ 改行3つ
→ 『軽い』場面スキップ (数分後 他視点への切り替え)
※ ◆
→ 場面スキップ (数時間後 場面切り替え)
嫌な夢を見た。現実で起きた嫌な夢を。
弟の喰われた残骸を突つく鳥の化け物———血を流し倒れる幼馴染の姿が、伸ばされた真っ赤な手を掴もうとして途絶える左目の光景を———
———ラジオの音で目が覚める。流れているのは発生の予測される、異核獣と呼ばれる危険生物の地点や、犯罪者の外見などの情報だ。
そんなことを虚ろな状態で聞いていると、薄い壁の向こうからトントンと壁を軽く叩く音が聞こえてくる。
「おーい。起きる時間じゃないのー?」
隣人の声が壁越しから聞こえてきて、俺は慌てて跳ね起きる。
「———っ! すみません! あと、ありがとうございます!」
「いえ〜頑張ってね〜」
急いで食事をし、住民共有の洗面台で歯を磨き、昨夜準備しておいた荷物を手に、石とレンガ造りのアパートから外へ出る。
周りも同じような建物が建築基準法など知ったものかと言うように無造作に建ち並び、そんな迷路のような住宅街を抜けて、レンガ敷きの地面は徐々に境目を作るように整備された草と土の自然広がる草原の道へと変わっていく。
山の向こうからは心地よい風が吹き、熱気のこもった身体を撫でては冷やしてくれる。
六年前、転生星の飛来によって人類は滅亡の危機に瀕した。
文明の崩壊、多くの天災。
その影響は青き星を数日で緑と砂で染め上げ、人類の文明を埋め、もはや何も持たない人々に追い討ちをかけるように力を持った生物たちが襲いかかった。
それでも人類が滅びなかった理由、それは———
「フンッ! フンッ!」
走る途中、木をゴンッゴンッ! と叩く音がして反射的にそちらに目を向けると、刃こぼれのひどい斧を手に、年老いた男が一人、大人五人分ほどのやけに横に太い木を伐採しようとしていた。
「———お爺さん、そんな斧じゃこの木は倒せないよ…」
俺は思わず駆け寄って、老人から斧を取り上げる。
「あっ…」
力なさげに声を漏らした老人の手は、ひどく赤くなって震えている。
「っ…やっぱり。手のひらがこんなにボロボロじゃないですか…なんでこんなになるまで…?」
「うぅ、それは…この木があると、騎士様が馬車なんかで来る時に邪魔になるじゃろぅ…儂たちを守るために巡回してくれているのだから、こういう事で困らせたくないんじゃ…」
「……でも…」
今俺はかなり急いでいる状態だ。つまりは遅刻中。ここで足を止めている暇はないのだが…しかし、どうしてもこの老人を見捨てられない。
仕方がない、本当は余分なくらい力は温存しておきたかったのだが…。
「お爺さん、その斧———」
「昨日はこんな木なかったのに、この世界になってから本当によくわからん植物が増えたのぅ…」
「———は…?」
それを聞いてハッとする。
「昨日までなかった…? ———ってことは!?」
老人は再び、立て掛けていた斧を手に取って伐採を始めようとする。
「グゴゴゴ…———ッッ!」
瞬間———なんとその木は奇怪にも動き始める。
最初の狙いは老人。枝を伸ばし、鞭のようにしならせて叩きつけてくる。
「———ッ! あっ…ぶね!」
———間一髪、俺は老人を抱き抱え、前方に飛び上がるよう回避する。
俺はコイツを知っていた。実際に見たのは初めてだが、様々な「異核獣」が載っている文献で、コイツの恐ろしい生態が印象的であったため、覚えていたのだ。
木に擬態したこの生物、成体にまで成長すると、果実のような甘い香りの実をつけて獲物を誘い、懐に入ったところで枝に巻き付け養分にしてしまう。
———転生元日直後、食糧難となった飢餓状態の人々を甘い嘘の果実で誘い、養分にし終わって落ちてくる糧にされた人間の姿からこの生物はこう名付けられた———
「スイートリーパーか!」
「木がぁっ! 木が動いとるぅぅぅ!」
急いで逃げるも、老人を抱えながらでは距離を離すことができない。
「わ、儂は置いて、君だけでも逃げろ…!」
「———っ! でもっ!」
そんなことできるわけがない。
この老人に恩があるわけでも何か特別視している訳でもない。ただこの老人が言っていたことが全て———
こんな世界になっても他者への思いやりを残す優しい老人を、見捨てられるか!
———どうすれば逃げられる…! いや逃げる…逃げる? 何を言っているんだ…? 逃げるのは絶対に勝てないと判断した時だけだろ…まずやることは一つじゃないのか?
俺は立ち止まって、老人を地面に降ろす。
「それでいい…ここまでしてくれただけで儂はもう———」
「いいえ、置いていったりなんてしませんよ。———この斧、借ります…」
「んん? 何をする気じゃ…」
———そう、やることは一つだ。
「コイツと、戦います!」
名前に似合わない、まるでカレーに漬け込まれてからゴミ処理場で日焼けサロンしたせいで、激臭を漂わせていそうな色に変貌したスイートリーパーを前に、俺は斧を構えて立ちはだかる。
———思い出せ。騎士たちの戦いを見よう見まねで覚えた剣の修行を。今は斧だが。
———発揮しろ。隣人に作ってもらった動くカカシで戦闘のイメージトレーニング兼回避練習した成果を。対人想定の練習だったが。
「はぁ、ふぅ…強化開始…奴を切断するほどの切れ味を。奴を一度で倒す斧のイメージを…強化するのは、刃のみ…いける…」
斧に青い光が根を張ったような模様が着くと同時に、俺はスイートリーパーに向かって走り出す。
双方、止まることを知らず相手を始末しにかかる。
まず仕掛けたのはスイートリーパー。枝の鞭を長く伸ばしての攻撃。
俺はすんでのところで回避し、さらに速度を上げて走り込む。
俺が接近してくることを認識し、奴はさらに何本もの枝鞭を追加する。
俺は全ての攻撃を回避することは諦め、致命傷になり得る攻撃のみを避けてさらに前進。
痺れを切らしたように喚くカレーゴミの木。伸ばした枝鞭の全てを戻し、必殺技とでも言わんばかりにありったけの枝鞭をねじり結びにし、俺に照準を合わせる。
「———ッ! 流石にそれは…」
ねじれた枝鞭はもはやドリルと化し、それが先の攻撃とは比較にならないほど速く、そして勢いよく飛んでくる。が、しかし…それは俺にとって———
「あまりに分かりやすすぎるッ!」
俺はその攻撃を読んで、かっ飛んでくるドリル枝鞭を大ジャンプで回避、隙だらけになった横に太い喚く木に向かって、落下エネルギーが上乗せされた身体で青く光る斧を振り下ろす。
———ズバンッ…!
振り下ろされた斧は先の刃こぼれした斧とは思えないほど、意図も容易くスイートリーパーの胴体を切断、真っ二つにしてしまう。
『———なぜ、このような危険生物『異核獣』が世に跋扈してもなお、現在に至るこの日まで人類が滅びなかったか…
それは———彼ら、進化した人間『核者』が誕生したからだ———』
喚く木の断末魔はなく、静かに色を元に戻す。
その姿は加工途中の木材にしか見えない。
ふぅ、とひと段落して息をつくと、向こうから老人が走ってくる。
「おぉ! あの木のバケモノを倒したのか! ———さっきの動きといい、あの斧を研ぎ澄まされた刀の如き切れ味にする技術! そうか! そうだったんだな! 君は騎士様たちと同じ、核者だったんじゃな! ありがとう! 本当にありがとう!」
老人は俺の両手をがっしりと握り締めてブンブンと振り回すように握手をし、目を輝かせながら何度もお礼を言う。
俺はそういえばと勢いのまま地面に突き刺さった斧を返そうと、カブでも引っこ抜く要領で地面から斧を引き抜く。
「こちらこそ、この斧ありがとうござ———」
瞬間———バリィィン! ガラスでも割れたかのように、ものすごい音を出し、斧は、跡形もなく、砕けた…。
「あ…」
二人の自然に出た声は、大自然の風に斧の破片を乗せ…消えていったのだった…。
——おまけパート——
老人
「儂は御年79の林業を勤めていたベテラン伐採人…。
儂に伐採出来なかった樹木はなく、また、一日の職務を真っ当した後には毎回儂の前に森はなかった。
そこで付けられた儂の異名こそ———アックスデーモン!
———それもこれも儂が師から受け継いだこの斧あってこそ…。
世界が壊れても”コイツ”だけは壊れずにいやがった…
さあ! 新世界、転生元日より生まれし樹木たちよッ!
儂とこの『断造』(※斧の名前です)を折れてしまうのはどちらかなぁッ!?」
——————
青年
「———斧ありがとうござ———」
———バリィィン!
老人
「だぁぁんぞぉぉおぉぉぉ!!」
——終わり——
——————
第1話をお読み頂きありがとうございました!
少しでもこの作品が面白いと思ってくださった方は
『感想』や『⭐️(星)』をくださると
私作者のモチベーションに繋がりますのでお願いします。