キタキツネ先生がカケスだった頃の話⓶
キタキツネ先生がカケスだった頃の話②
その小さなシルエットは、ツンとしたくちばしを上に向けて眠る小鳥の形だ。遠目にも、お腹の輪郭線が上下動しているのがわかる。心地よさげだ。
「ウグイス……さん? 眠っている」
シマフクロウがうなずく。
ウグイスが生きていることで安堵したカケスは、それまでの緊張が解けて一気に喉が渇いた。察したシマフクロウが水を汲みにふたたび飛び立つ。
カケスは、湖のさざ波にゆられて気持ちよさそうなウグイスをじっと見つめた。そして足元に目を落とし、百花繚乱の高山植物たちを手折った。ウグイスにぴったりの花だと思ったからだ。目覚めたとき、花に囲まれていたらどんなに喜ぶだろう……。喜々と高まる鼓動を抑えつつ高山植物の花束を抱えたとき、湖上のウグイスの向こう岸に暗々と光る眼があることに気付いた。
キタキツネだ。
その暗々と尖った眼差しは湖上をたゆたうウグイスにピタリと照準を合わせている。けれども、さすがのキタキツネも魚の骨を溶かすこの湖を渡ることはできないだろう、と高を括っていたのも束の間。キタキツネは足元の枯れ枝を集め、そこらじゅうの樹々の枝をへし折り筏を作り始めた。まさか、と驚くカケスの目に映る、筏に乗ったキタキツネのシルエットがだんだん大きくなる。
不意にシマフクロウが水汲みから帰ってきた。カケスの手にしている花束を見、キタキツネの筏を見て、もう一度カケスの花束を見る。驚きを隠せない様子だ。シマフクロウは汲んできた水をこぼしてしまった。
そのいずれに反応して起こったのかはわからない。突然、空に暗雲が立ち込め、雷鳴が轟き、湖が激しくうねったかと思うと二つに割れ、猛り狂う大蛇が現れた。
「だ~れじゃあ!花を手折る奴はだ~れじゃあ!若木を伐る奴はだ~れじゃあ」
眼を剥き大口を開けて大蛇が暴れ回る。キタキツネはあっという間に波に呑まれ、カケスは強い飛沫に何度も打たれた。シマフクロウはすみやかに飛び立ち、ウグイスを救おうとする。
そして
「ホウホケチョ」