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鮫島さんは否定形で全肯定。  作者: 河津田 眞紀@第一回Nola原作大賞早期受賞×2作
第五章 続・否定形の呪い

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楽しい素材集め



 海斗たち四人は特急列車に乗り込み、隣県にある座橋市を目指した。


 朝食として購入した駅弁を楽しみつつ談笑していたら、あっという間に目的の駅に着いた。

 ここからは、呪いを解く儀式に必要なものを調達していく。


「まずは塩を買って、お饅頭作りができるお店に向かう。お昼ご飯を食べたら、川に綺麗な水を汲みに行って、夕方には宿にチェックイン。今日の流れはこんな感じだよ」


 スマホに書き込んだスケジュールを確認しながら、未空が言う。


「今夜は温泉でしっかり身を清めて……明日、いよいよ『深水山(みすみさん)』に登る。一泊二日しかないから、寄り道しないで行こうね」


 雷華と翠が「はーい」と答える。

 こういう場面において、未空のリーダーシップは本当にありがたかった。


「それじゃあ、早速塩を買いに行こう。この先に商店街があるから、そこで買えるはずだよ」


 未空を先頭に、一行は儀式の準備へと歩き出した。




 未空の時間管理のお陰で、旅は予定通りに進んだ。

 商店街にある大きな食料品店で近海から採れた塩を購入し、そのまま近くの和菓子屋で酒饅頭の手作り体験に臨む。未空が事前に予約をしていたため、案内もスムーズだった。


 用意された饅頭の生地を捏ね、一人三個ずつに切り分けてから、餡を包む。

 熱々の生地に苦戦しながら、雷華は一つだけ、お供え物用に塩を混ぜたものを作った。


 しかし、発酵させる行程で、どれが塩入りの饅頭かわからなくなってしまった。

 おろおろと慌てふためく雷華。何しろ、塩の入っていない残り二個をおやつに食べようとしていたのだ。誤って塩入り饅頭を食べてしまっては、塩っぱいだけでなくお供え物を失うことになる。

 該当のブツがわからない以上、彼女が作った三個はすべてお供え物にするより他なかった。


「あはは。これじゃあ神さま相手にロシアンルーレットしかけてるみたいだね」

「ぶふっ」

「翠っ、笑うな! うわーん! おまんじゅう食べたかったのにぃ!」

「そう気を落とすな、鮫島。俺が作ったので良ければ全部やるから」

「いらないわよ! あんたが作ったのなんか……っ」


 と、否定で返す雷華だったが、蒸し上がった海斗作の饅頭を目にし、絶句する。


 艶々と光り輝く、玉のような饅頭……

 みな同じ生地から作ったはずなのに、海斗のものは表面が異様になめらかで、まるで熟練の職人が作ったような、見事な仕上がりだった。


「素人でこんだけ上手に作る子は初めて見たよ。和菓子作りの経験でもあるのかい?」


 作り方を指導した店員が感心して言うが、海斗は「いえ、たまたまです」と謙遜する。

 謎の器用さを発揮する海斗に、雷華はわなわなと震えるが、


「仕方ない。鮫島がいらないと言うなら、俺一人で食べるとするか」


 と、美味しそうな自作饅頭を見せつけるように言うので……雷華は堪らなくなり、


「だ、だめぇっ! いらなくない! 一個でいいからちょうだいよぉ!」


 泣きそうな顔で、必死に否定した。




 饅頭作りを無事に終え、昼食を済ませると、四人は再び電車に乗り込んだ。

 今夜泊まる宿を目指しつつ、近くを流れる川で儀式に使う水を採取する予定だったのだが、


「見て見て。ここから二駅先に滝があるんだって。せっかくだし、滝の水を採りに行かない?」


 雷華がスマホから得た情報を元に、そう提案した。

 未空はその画面を暫し確認し……


「……うん。駅からも遠くないみたいだし、いいんじゃない? 行ってみようか」


 と、雷華の提案にゴーサインを出した。



 ……が、結果的にはこの判断が、雷華本人に災いを齎らすこととなった。


 辿り着いた滝は、スマホの画像から想像していたものの何倍も迫力があり、落水の勢いが猛烈だった。

 持参した水筒に水を汲もうとすると、飛沫がバチバチと全身に降り掛かる。


「ぎゃーっ! 無理! 溺れる!」


 地上にいながら溺れるという雷華の表現は、言い得て妙だった。

 視界いっぱいに広がる飛沫の中、雷華は果敢に水を汲もうと奮闘する。

 やがて、


「──どう?! 結構汲めたと思うけど!」


 びしょ濡れになった雷華が水筒を手に戻って来た。

 翠が受け取り、水筒を振ってみるが……


「……ぜんぜん入ってないよ。これじゃ足りない」

「そんなぁ! 仕方ない、もう一度……!」


 と、再び飛沫の中へ戻ろうとするので、


「待て」


 海斗が、すかさず止める。

 そして、着ているパーカーを脱ぎ、翠の手から水筒を奪うと、


「……俺が行く。鮫島は……ここでじっとしていろ」


 濡れたブラウスが張り付き、下着が透けている雷華にパーカーを羽織らせながら、言った。

 

 

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