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鮫島さんは否定形で全肯定。  作者: 河津田 眞紀@第一回Nola原作大賞早期受賞×2作
第五章 続・否定形の呪い

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信憑性と必然性



 そうして、三人は雷華の呪いを解くための準備を秘密裏に進め──


『つるや旅館』の取材から十日ほどが経った、五月下旬。

 作戦は、音もなく開始された。




「──翠! どうしたのよ、その格好!」


 始業前の、一年B組の教室。

 登校してきた翠を見るなり、雷華が興奮気味に駆け寄った。


 その声につられるようにクラスメイトたちも翠に目を向け、皆、驚愕の表情を浮かべる。

 何故なら……教室に入って来た翠の装いが、いつもと違ったから。


 野暮ったい丸眼鏡に、歪な三つ編みおさげ……ではなく、くっきり二重の裸眼に、サラサラのストレートヘアという、隠れ美少女のポテンシャルを前面に押し出した装いで現れたのだ。


 クラス中の視線を感じ、翠は恥ずかしそうに顔を赤らめ、


「実は……視力が戻ったから、眼鏡を外してみたの。変じゃないかな?」


 と、雷華にだけ聞こえるように囁いた。

 雷華は何度も頷き、拳を握りしめる。


「変なわけないじゃん! めっちゃ可愛いよ! ……って、視力が戻ったって、どういうこと?」


 頭に疑問符を浮かべ、首を傾げる雷華。

 翠は、周囲を気にするような素振りをし、


「あまり大きな声では言えない……魔法みたいな話だから」

「まっ、魔法?!」

「しっ。声が大きいよ。知りたいなら昼休みに教えてあげる。雷華ちゃんにだけ、特別に」


『魔法みたいな話』。

『雷華ちゃんにだけ、特別に』。


 どちらも、雷華の心をこれでもかと揺さぶるワードだ。

 雷華は、ごくっと喉を鳴らすと、


「うん、教えて! 翠の目が治った、魔法みたいな話っ」


 鼻息を荒らげながら、興奮気味に囁いた。




 そうして午前の授業の間、たっぷりと焦らされた雷華は……昼休みに入るなり、


「先に中庭に行ってて! はい、今日のパン!」


 いつものトートバッグを海斗に押し付けると、翠の手を引き教室を飛び出した。

 そのまま階段を駆け上がり、屋上前の踊り場へ辿り着くと、翠の肩をガッと掴み、


「さぁ、早く聞かせて! どうやって視力を回復させたの?! 魔法ってどういうこと?!」


 待ちきれない! と言わんばかりに尋ねた。

 翠は一度呼吸を整えると、雷華を見上げ、


「……ある人に、呪詛(じゅそ)を解く『儀式』の仕方を教えてもらって、実行した」

「……じゅそ?」

「うん。わたしの視力は、子どもの頃、近所にあるお地蔵さまの目に黒マジックで落書きをしてから、急に悪くなった。たぶん……呪われたんだと思う」

「それって……」


 あたしと同じ。


 雷華がその言葉を飲み込むのを確認し、翠は……

 昨日、海斗たちとおこなった作戦会議を、頭の中で振り返った。




 * * * *




「──八千草と弓弦には、それぞれ別方向から鮫島にアプローチしてもらいたい。八千草には『信憑性』を、弓弦には『必然性』を演出してもらおうと思う」


 昨日の放課後。

 翠は未空と共に、海斗の家へ集まった。


 そして、海斗の考えた『雷華の呪いを解くための儀式』のシナリオを聞いた。


「信憑性と」

「必然性……?」


 首を傾げる二人に、海斗は頷く。


「そうだ。まず八千草には、この儀式が呪いを解くのに有効であると鮫島に信じ込ませることから始めてもらう」

「でも、わたし喋るの得意じゃないし、信じ込ませることなんてできるかな……」

「大丈夫。むしろこれは、八千草にしか頼めないことなんだ。八千草の絵師としてのステータスが鮫島には有効だからな」

「絵師としての、ステータス……?」

「鮫島は、絵師として多くのファンを持つ八千草をリスペクトしている。そのコネクションを利用し、『親方』の里親を見つけた実績もある。今回の儀式についても、絵師としての繋がりから得た情報であると伝えれば、鮫島はきっと信じるだろう」

「なるほど……確かに、雷華には有効な手段かもね」


 未空が納得したように相槌を打つ。

 海斗が続ける。


「しかし、『ある人から呪いを解く方法を教わった』だけではまだ弱い。より信憑性を持たせるためには、その儀式が過去に成功しているという実例を見せることが重要だ。そこで相談なのだが……鮫島に提示する過去の成功例について、何かいい案はないだろうか?」


 翠は考える。

 わかりやすくて、説得力のある成功例を……


 ……と、何気なく顔を上げたその時。

 彼女の眼鏡の端が、蛍光灯の光を反射し、キラリと光った。


 それを見て……翠は、ひらめく。


「……わたしの視力が、その儀式で回復した、ということにするのはどうかな」

「視力?」

「そう。実はこれ……伊達眼鏡なの」


 言いながら、すっと眼鏡を外す翠。

 未空が半信半疑にそれを借り、試しにかけてみると、


「……本当だ。度が入ってない」

「視力は両目とも一.五ある」

「めちゃくちゃいいじゃないか。どうして伊達眼鏡なんかかけているんだ?」

「……キャラ付けのため」

「あぁ、そういえば前に言っていたな、三つ編みとセットだって」


 顔を顰めることなくすんなり納得する海斗の反応に、翠は少し嬉しくなる。

 が、緩みそうな頬をきゅっと引き締めて、


「わたしがいきなり裸眼で登校したら、雷華ちゃんは間違いなく理由を尋ねてくると思う。そこで、実はわたしも過去に呪いにかかっていて、そのせいで目が悪かったけど、ある儀式をおこなったお陰で治った、と言えば、雷華ちゃんは興味を持ってくれるんじゃないかな」

「うん。翠ちゃんの視力が良いところを見せれば、雷華は『本当に呪いが解けたんだ』と思うだろうね。そして、もしかすると自分の呪いにも有効なんじゃないか、って考えるはず」

「すごいぞ、八千草。これ以上ないくらいに説得力のあるアイディアだ」

「眼鏡を外すだけで実証できるし、準備も最小限で済むね。さすが翠ちゃん」


 海斗と未空に褒められ、翠は「それほどでも」と、ほんのり頬を染める。


「しかし……今までトレードマークにしていた眼鏡を外してもいいのか? クラスの連中からも注目を集めるだろうし……」


 海斗の指摘に、翠はぐっと唇を噛み締め、


「恥ずかしいけど……雷華ちゃんのためなら構わない。ほとぼりが冷めたら、またしれっと眼鏡キャラを復活させる」


 そう、意を決して答えた。




 * * * *




(今のところは、シナリオ通りに進んでいる……)


 翠は内心ドキドキしながら、目の前の雷華を見つめる。


「そう。わたしも、雷華ちゃんと同じように『呪い』にかかっていた。でも、それが解けた。とある方法を、実行したことによって」


 雷華の目は、戸惑いと、それ以上の好奇心に揺れている。

 ここからが正念場。

 翠は、頭の中で何度も練習したセリフを、ゆっくりと口にする。


「わたしの尊敬する絵師さんに、和風ファンタジーなイラストをよく描く人がいてね。神社やお寺巡りが好きで、日本の妖怪とか怪談にもすごく詳しい人なの。何回かメッセージのやり取りをして仲良くなって、わたしがお地蔵さまの呪いにかかっている話を何気なくしたら……神さまや仏さまの怒りを鎮める『儀式』のやり方を教えてくれた」

「それを実行したお陰で、目が治った、ってこと……?」


 声を震わせる雷華に、翠は無言で頷く。

 すると突然、雷華は階段をダッと駆け下り、一つ下の踊り場で足を止めると、


「これ、何本でしょーか!」


 右手を上げ、立てた指の本数を問いかけた。

 どうやら、翠の視力を試そうとしているらしい。


 翠は、目を凝らすまでもなく、


「……三本」


 元々一.五ある視力でもって、さらりと正解を言い当てた。

 続けて、雷華が問う。


「これは?」

「二本」

「これは?!」

「……キツネ」

「おぉっ、正解!」


 雷華は手でキツネを作ったまま、再び階段を駆け上がると、


「……コンタクトは、入れていないようね」


 翠の両目を覗き込み、裸眼であることを確認する。

 そして、


「ということは……本当に呪いが解けて、目が良くなったんだ……!」


 キラキラと、子どものように純粋な瞳で、そう言った。

 あまりに澄んだ目で見つめられるので、翠は騙していることに少しの罪悪感を覚えるが……

 雷華の呪いを解くためだと自分に言い聞かせ、気を引き締めた。


「……うん。儀式をしたお陰で、お地蔵さまに許してもらえたんだと思う。黒板の字も良く見えるようになったし、ありがたい限り」

「その、呪いを解くための儀式って……具体的には、どうやってやるの?」


 ──キタ。


 いよいよ雷華が食い付いたことに、翠は緊張を高める。


「……実はわたしも、雷華ちゃんにその方法を話そうと思っていた。雷華ちゃんの呪いを解くのにも有効かもしれないから。でも……」

「でも……?」

「この儀式をするには、呪いにかかった場所へ赴く必要がある。雷華ちゃんの場合は、隣の県なんだよね? 簡単に行ける場所じゃないと思うから、計画的にやらなければならない」


 ここが、一つの壁だった。


 雷華の思い込みをトラウマごと払拭するには『深水(みすみ)神社』へ赴くべきだとする海斗の考えに、翠も未空も賛同した。

 しかし、トラウマがあるからこそ、神社へ向かうことを躊躇する可能性もあった。


 その予想通り、翠の言葉を聞いた雷華は……


「あ、あの場所に、行かなければならないの……?」


 あからさまに目を泳がせ、戸惑っていた。


 このような反応を示した場合の対応についても、翠たちは事前に話し合っていた。

 とにかく、結論を急がないこと。

 ここで雷華が決断できないことを想定して、この後、未空からもアプローチを仕掛けるシナリオを用意しているのだから。


「雷華ちゃんに呪いをかけた神さまに謝るための儀式だから、その場所へ行かなければならない。しかも、間違ったやり方や、違う場所でおこなえば、呪いが悪化することもあるらしい」

「そんな……」

「だから、本当に『呪いを解きたい』と思っている人にしか、この儀式のやり方は教えちゃだめだって言われている。雷華ちゃんの場合、行くとしたら泊まりがけになるだろうし、迷うのも当然だと思う。ゆっくり考えて、呪いをかけられた地に向かう決心がついたら教えて。その時に、具体的な方法を伝える」


 用意していたセリフは、これで全てだった。

 大丈夫だろうか、嘘だとバレてはいないだろうかと、翠が固唾を呑んで雷華の反応を待つと……


「……わかった。ちょっと、考えてみる」


 真剣な表情で、雷華が言った。

 そのまま、静かに階段を下りて行くので……


「…………ふぅ」


 どうやら信じてくれたらしいと、翠は息を吐き、肩の力を抜いた。

 

 

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