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鮫島さんは否定形で全肯定。  作者: 河津田 眞紀@第一回Nola原作大賞早期受賞×2作
第四章 二番目の呪い

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明日の予定



 ──連休の残りも、四人は学校の図書室に集まり、発表の準備を進めた。

 そうして、『つるや商店街』のマップの下書きと、台本の草案が書き上がった。



「なんとか連休中に、たたき台まではできたね」


 未空が、書類を整理しながら言う。

 その向かいの席で、雷華は大きく伸びをし、


「うーん、休みも明日で終わりかぁ。全然遊べなかったなぁ」


 と、机にべたっと伏せた。


 ……いや、八千草の髪型を好き放題変えたり、八千草と一緒にいろんなおまじないを試したり、八千草が描いた絵で塗り絵をしたりと、毎日楽しく遊んでいなかったか?


 というツッコミは本気の否定で返されるに決まっているので、海斗の胸に秘めることにした。


「残すは『つるや旅館』の取材のみだな。予定通り、来週末で大丈夫そうか? 弓弦」


 書類の整理を手伝いながら、隣に座る未空に尋ねる。

 旅館にとって、ゴールデンウィークは最も忙しい時期の一つだ。迷惑にならないよう、取材をするのは連休明けにしようと事前に話していた。


 海斗の問いかけに、未空は頷く。


「うん。と言っても、お客さんのチェックアウトとチェックインの合間を縫うような感じになるから、あまりゆっくりできないけど……ごめんね」

「いやいや、あんな立派な旅館に入らせてもらえるだけでありがたいんだ。長居するつもりは毛頭ないよ」


 そう話す向かいで、翠が呟くように言う。


「未空ちゃんちに取材……なんか緊張する」

「ふふん、緊張するからって参加拒否してもムダだからね。えっちな絵を描いてることバラされたくなかったら、今回も大人しく同行しなさい!」


 出た、鮫島組長の殺し文句。

 友情運アップのおまじないをかける前に、この脅迫気質を改めた方がよっぽど仲良くなれるんじゃないか?


 という真っ当なアドバイスを、海斗がどう伝えようか悩んでいると、


「雷華ちゃん、毎回それ言うけど……それって裏を返せば、雷華ちゃんがえっちな絵をめちゃくちゃチェックしている、ってことだよね?」


 そう、翠が反撃するので、雷華は「へっ?」と顔を引き攣らせる。


「べっ、別に、めちゃくちゃチェックしているわけじゃ……!」

「わたし、知ってるよ。わたしをフォローしている雷華ちゃんのアカウントがどれなのか。わたし以外の絵師さんのイラストや漫画も、けっこうえっちなのに『いいね』してるよね」

「はぁ?! そっ、そんなのしてないし!」

「好きな作品の傾向を見るに、雷華ちゃんて……ちょっとM?」

「なっ、何言って……そんなことない! 絶対にない!!」


 顔を真っ赤にし、声を荒らげる雷華。他に生徒がいないとはいえ、図書室には相応しくないボリュームだ。

 未空は注意することを諦めたのか、やれやれと首を振り、海斗は……雷華がどんなイラストをチェックしているのかちょっと気になるな、などと考えていた。


 その胸中を知ってか知らずか、翠はニヤリと笑うと、


「ふふ……次こういう脅し方をしたら、雷華ちゃんのアカウントを温森くんに教えるから」


 と、海斗を指さした。

「なんで俺なんだ」と言うより早く、雷華が顔をさらに赤くし、


「そっ……それだけは絶対にだめぇっ!」


 目に涙を浮かべながら叫んだ。

 海斗は見るに堪え兼ね、二人の前に手を掲げる。


「二人とも、それくらいにしろ。脅し合いからは争いしか生まれないぞ。ほら、仲直りのおまじないをしよう。小指を繋いで、スキップしながら十回その場で回るんだ」

「やらないわよ、そんなこと!」


 この連休ですっかりおまじないに詳しくなった海斗の提案は、残念ながらぴしゃりと否定された。

 ならば、と海斗は翠に目を向け、


「だいたい、もうそんな脅しをかけなくとも……八千草は来てくれるだろう?」


 そう、決定的な一言を告げる。

 翠は少したじろぐが、観念したように俯き、


「……そりゃあ、行くよ。だって……わたしも、グループの一員だから」


 恥ずかしそうに、そう答えた。

 その途端、雷華はがばっと翠に抱きつく。


「もうっ、翠ってば! それならそうと最初から言いなさいよ!」

「いや、誰も行かないとは言ってないし……」


 嬉しそうに身体を押し付ける雷華と、迷惑そうな顔をする翠。

 その奇妙な友情関係に、海斗がなんとも言えない顔をしていると、


「あはは。どうやら無事に仲直りできたみたいだね。それじゃあ、私はお先に」


 と、未空が鞄を手に席を立った。

 そのまま図書室を出て行こうとするので、雷華が止める。


「待って、未空。一緒に帰ろうよ」

「帰って旅館の手伝いしなきゃいけないからさ。今日は先に帰るよ」

「じゃあ明日は? 明日、『親方』と子猫たちが里親に引き取られるの。みんなで最後のお別れをしたいから、未空も一緒に……」


 それは、海斗にとっても初耳だった。

 三毛猫の『親方』とその子猫が、ついに明日、『ハンマーヘッド』を去るらしい。


 雷華の誘いに、未空は一瞬迷うような表情を見せるが……すぐにその首を横に振って、


「行きたいのはやまやまだけど……明日も旅館が忙しいからさ。ほんとごめん。私の分も『親方』たちにさよならを言ってきて。翠ちゃん、雷華のこと、よろしくね」


 そのままひらりと手を振ると、廊下の向こうへ去って行った。


 その後ろ姿を、雷華は寂しそうに見つめる。

 一方の翠は、わなわなと身体を震わせ、


「うそ……明日、わたし一人で、雷華ちゃんの相手をするの……?」


 と、怯えたように呟くので、海斗は肩を叩くような気持ちで、


「俺で良ければ同行するぞ。最後に『親方』の顔も見たいしな」


 そう申し出る。

 翠はキランッと眼鏡を光らせ、「ほんと?」と嬉しそうに言うが、


「はぁ? あんたは呼んでないわよ! 勝手に決めないで!」


 指を突き付け、雷華が言う。

 否定された海斗よりも、翠の方ががっかりした様子で「そんなぁ……」と声を上げ、雷華と二人で過ごす休日に不安を滲ませるのだった。

 

 

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