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鮫島さんは否定形で全肯定。  作者: 河津田 眞紀@第一回Nola原作大賞早期受賞×2作
第四章 二番目の呪い

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強力な協力者



「──『日本呪術大全』……『世界の呪い全書』……『絵画から読み解く呪いの歴史』……」


 五月上旬。ゴールデンウィークの真っ只中。

 海斗は、学校の図書室で、ずらりと並ぶ本の背表紙と睨み合っていた。


『親方』の大捜索をした翌週、海斗たちはあらためて『つるや商店街』を取材した。

 その数日後から大型連休に突入したが、他のグループに比べ発表の準備がだいぶ遅れているため、休日も学校に集まり準備を進めることにしたのだ。


 発表の方法は、『つるや商店街』のマップを黒板に貼り出し、それを元に説明していく形に決まった。

 つまり、マップと台本、両方の制作を急ピッチで進める必要がある。


 そこで未空は、効率化を図るため、二手に分かれて作業することを提案した。

 翠と雷華で模造紙にマップを描き、海斗と未空で台本を書くのだ。


 では何故、台本制作担当の海斗が図書室の本を眺めているのかと言えば、未空が「ちょっと席外すね」と図書室を出て行ったため、暫しの(いとま)を得ている、というわけだった。



 窓からは、心地よい初夏の風と共に、運動部の掛け声が聞こえて来る。

 部活動に所属していない者は、きっと今ごろ遊びに出かけていることだろう。こんな連休に高校の図書室を利用している生徒は、海斗たち以外にいなかった。


 だから海斗は、これ幸いと言わんばかりに、『呪い』に関する書籍を隅から隅まで眺め、参考になりそうなものがないか探していた。

 連日、『深水(みすみ)神社』の呪いについてネットで検索をしているが、有力な情報は見つかっていない。

 それどころか、『呪い』と検索するだけで怪しげな占いの案内やパワーストーンを販売するサイトばかりが出てくるので、すっかり辟易していた。

 いっそ書籍の方が純度の高い情報が得られるのではと思い、図書室で探すことにしたのだ。


 しかし、それも既に空振り気味だった。

『呪い』に纏わる真面目な書籍はごく僅かで、胡散臭い体験談をまとめたホラーものや、子ども騙しなおまじないの本ばかりが並んでいた。


 その内の一つ、『今日から使える! 恋に効くおまじないベスト100』などと書かれたファンシーな本を手に取り、海斗は苦笑いする。


「『好きな子と隣の席になれるおまじない』……『告白が成功するおまじない』……」


 こんなの、今どき小学生ですら読まないのではないか?

 やはり公共の大きな図書館に行くべきか……


 と、小さくため息をつくと、


「……温森くん、おまじないに興味があるの?」


 背後からそんな声がし、海斗はビクッと肩を震わせる。

 振り返ると、そこにいたのは……

 眼鏡越しに海斗を見上げる、翠だった。


「八千草……どうした? 鮫島と一緒にマップを描いていたんじゃないのか?」


『親方』の大捜索をした日以来、翠は休むことなく登校し、発表の準備にも参加していた。今は雷華と共に、図書室の机でマップの制作を進めているはずだった。つい先ほどまで、雷華の楽しげな声が聞こえていたのだが……いつの間に背後にいたのだろうか。


 海斗の問いかけに、翠は首を横に振る。


「雷華ちゃんは、髪を結ぶゴムをロッカーへ取りに行った。わたしとお揃いにするんだって」


 そう言われ、翠の髪型をあらためて見てみると、いつもの三つ編みおさげではなくツインテールになっていた。ただでさえ幼い雰囲気を持つ翠が、さらに幼い愛らしさを醸し出している。

 察するに、雷華が結ったのだろう。新たにできた友だちに構いたくて仕方がないらしい。

 あまりしつこくしすぎて、翠が負担に感じていないかと海斗は心配になるが、


「雷華ちゃん、髪もネクタイも靴紐もぜんぶ結んでくれる。全自動結び機ってかんじ。便利」


 ……と、なかなかにドライな発言をする翠。

 二人の友情の温度差が気になるところではあるが、今のところは上手く共生できているらしい。海斗はやや複雑な気持ちになりながら「そうか」と答えた。


「そんなことより……温森くん。そんな本読んで、どうするの?」


 翠にそう問われ、海斗はハッとなる。その手には、ファンシーなおまじない本が握られたままだ。

 それを元の場所にしまいながら、海斗は弁明する。


「いや、これは、おまじないに興味があるとかではなく……」

「……なく?」


 小首を傾げ、続きを促す翠。

 はぐらかそうか、なんて考えが一瞬頭をよぎるが……海斗はもう『事勿れ主義』だった自分とは決別していた。

 意を決し、翠を見つめ返すと、


「実は……鮫島の『否定の呪い』を解く方法がないか、調べているんだ」


 そう、正直に答えた。


「鮫島、男子を否定してしまうせいで女子からも距離を置かれているだろう? 中学でもずっとそうだったみたいなんだ。だから、八千草も身をもって知っていると思うが、友だち一人増やすのにもかなり空回りしている」

「……確かに」

「人一倍友だち想いなのに、ずっとこのままなんて辛すぎるだろ。男子と普通に話せるようになれば、女子相手に身構えることもなくなると思うんだ」


 そして海斗は、以前雷華に掴まれた胸ぐらの辺りにそっと手を当て、


「……鮫島は、『イエスマン』だった俺を変えてくれた。だから俺も……あいつの呪いを、解いてやりたい」


 自分に言い聞かせるように言った。

 その表情に、翠は何かを察したように「ふむ」と唸り、


「……協力する」


 短く、しかしはっきりと、そう答えた。

 海斗は驚き、「え?」と聞き返す。


「……わたしも、雷華ちゃんに救われた。あの日、家から無理やり連れ出してくれなかったら、わたしはきっといまも独りで絵を描いていたと思う」

「八千草……」

「雷華ちゃんは、わたしを『ダメ人間』にしているのはわたし自身なんだって、気付かせてくれた。未空ちゃんも、温森くんも、こんなわたしを受け入れてくれた。だから、協力したい。雷華ちゃんを困らせる呪いを、わたしも解いてあげたい。久しぶりにできた……友だちだから」


 消え入りそうな程の、か細い声。

 声が小さいのは今に始まったことではないが、以前のような自信のなさによるものではなく、単純に照れているだけのようだ。

 雷華のことを『全自動結び機』などと呼んでいたが、あれも照れ隠しだったのだろう。


 翠の気持ちがわかり、海斗は思わず口元を緩め、


「……今のセリフ、鮫島に聞かせたら、泣いて喜ぶと思うぞ?」


 と、揶揄い半分に言う。

 それに、翠は白い頬を少し染め、


「……絶対に言わない」


 雷華の反応を想像したのか、眉を寄せながら、迷惑そうに呟いた。

 海斗は「冗談だ」と笑い、話を本題へと移す。


「鮫島が呪いにかかったのは、座橋市にある『深水神社』だ。縁結びで有名な場所のようだが、俺の調べ方が悪いのか、『呪い』に纏わる情報がなかなか出てこない。まずは八千草の方でも、その神社について調べてみてほしい」

「わかった。わたしも調べてみる。でも、もし呪いの解き方が見つからなかったら……」


 すっ。

 と、細い指で、海斗の背後の本棚をさし、


「『呪いを解く』んじゃなくて……新たな呪いで『上書きする』のも、アリだと思う」


 ……と、思いもよらぬ提案をした。

 海斗は、目から鱗と言わんばかりに瞬きをする。


「その発想はなかった……要するに、『異性と普通に話せる呪い』で上書きすればいい、ということだな?」

「そう。雷華ちゃんは、縁結びの神さまを怒らせたから、男の子との恋愛が困難になる呪いをかけられた。つまり、恋愛スキルにデバフがかかっている状態。なら、それを補うためのバフの呪文をかけて、ステータス異常を回復させればいい」

「おぉ……すごい。八千草、天才だな」


 ゲーム脳な説明に、海斗は感心と驚きの声を上げる。RPGのプレイ経験がそれなりにある海斗には非常にわかりやすい例えであった。

 先日の『親方』大捜索の一件でもそうだったが、翠には物事を多角的に見ることのできる『目』が備わっているらしい。


 海斗の称賛に以前なら謙遜していた翠だが、今日は「それほどでも」と得意げに返し、


「差し当たって、その辺の本にあるおまじないを試してみるのも手だと思う。おまじないの起源は、黒魔術だとも言われている。眉唾物がほとんどだろうけど、中にはちゃんとした効力を持つ『本物』が紛れているかもしれない」


 翠の言葉に、海斗は振り返り、今一度本棚を見つめる。

 そして、先ほどしまった『恋に効くおまじないベスト100』を取り出し、パラパラとめくるが……


 ……いや、さすがにこれは子ども騙しすぎると思うぞ?


 と、言おうとしたところで、


「あっ、いたいた。もう、こんなところで何話してるの?」


 翠の後ろから、雷華がひょこっと顔を覗かせた。

 

 

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